表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
168/370

あなたのために




俺は既にロンベルが黒幕であることは気づいていた。初めは手に入れた情報からの憶測、可能性の域を出なかった。だから、確信を得るためにロンベルに話しかけた。



あの時、ロンベルは俺と出会ってすぐ、目線を俺の手元に向けた。



きっと無意識の行動だろう。奴はあの時、俺が蝿の円環を持っていると知っていたから、装備していないかを確認してしまった。



それだけだと偶然の可能性もある。だから、俺は罠を仕掛けた。



俺はロンベルに宝物庫の鍵を持っているか聞いた。



あの瞬間、優秀で頭の回転が速いロンベルは思考した。答えるパターンはいくつかある。



1つは宝物庫の鍵は持っていないと答えること。しかし、これは嘘だとバレる可能性がある。王城の他の者に聞けば、ロンベルが宝物庫の鍵を持っていることを知っている人間もいるはずだ。なぜそんな嘘をついたのかと疑われる危険がある。



2つ目は鍵を持っていると答えた上で、蝿の円環のことも知っているとすること。



これでは違和感を持たれる。先程の会話でカーマインが悪魔を復活させると伝えた。それならば、まず懸念するべきは王城に保管されている蝿の円環だ。



爆破された王城の宝物庫に、まだちゃんと蝿の円環があるか心配するのが普通の反応だ。



ロンベルは俺が蝿の円環を持っていると知っていたから、普通の反応をすることができなかった。



だから、ロンベルは一瞬で計算し、最も違和感のない答えをした。



3つ目の選択肢、鍵は持っているが、蝿の円環の存在を知らないことにすること。これならば、辻褄が合い、相手に違和感を与えない。



「ええ、持っていますよ、大切なものなので私が隠し持っています、それが何か?」



奴はそう言った。それが何か?などという言葉は蝿の円環のことを知っていたら出てこない。



相手が俺でなければそれで済んだだろう。



俺はゲーム時代のシナリオを知っている。



王を人質に取られたロンベルとカーマインの会話を、何度も周回したことで鮮明に覚えている。



「そ、それは……すぐにはできない、宝物庫にある悪魔を封印している腕輪を取ってこないといけないし……」



ロンベルはゲームでそう言った。つまり、初めから蝿の円環にベルゼブブが封印されていることを知っていた。



ロンベルは嘘をついた。この瞬間に、俺はロンベルがクロだと断定した。



正解の選択肢は2つ目だった。多少疑われる覚悟で、蝿の円環のことに言及すべきだった。俺がどこまで知っているかが分からないロンベルには選べない選択肢だが。



だから、俺はクロが確定したロンベルに蝿の円環を渡した。カーマインがいない状態で、先にベルゼブブを復活させるために。そして、復活させたベルゼブブを倒すためだ。



後はただベルゼブブのHPが尽きるのを待つだけだ。ベルゼブブはずっとシャドウアサシンを吸収し続け、最大HPを上昇させ続ける。



しかし、回復は一切出来ないため、HPは減り続ける。どれだけ最大HPがあっても無意味だ。



人の心を弄ぶ悪魔。お前は敵を間違えた。



そして、ロンベル。お前の思惑は知らないが、ベルゼブブさえ復活すれば勝ちだと、ベルゼブブを倒すのは誰にも不可能だと考えていたのだろう。



この世には不可能を超える英雄がいる。そのことをお前は知らない。お前の最大の誤算は俺だ。



ついにHPが尽き、ベルゼブブが青い粒子に変わる。



その瞬間、俺はベルゼブブの声を聞いた。



「あ、あれ? なんで、この僕が死ぬの……」



そして、次にベルゼブブから放たれた言葉で、俺はゲーム時代の疑問の答えを得た。



なぜベルゼブブを討伐した後にカーマインと戦うのだろうか。



「カーマイン、3つ目の約束だ、全てを殺し尽くせ、皆殺しにしろ」



それだけ告げて、ベルゼブブは青い粒子となって消失した。
















カーマインの身体が震え始める。



「俺はそんなことしたくない! やめてくれ!」



そう大声で叫びながら、カーマインはデストロイヤーを構えた。



救われない。



愛する妻にもう一度会いたいという思いだけで、悪魔と約束したカーマイン。



その願いが叶わないと知りながら、死んだ悪魔との約束を果たさなければならない。言われるがままに、皆殺しにしなければならない。大切な者たちを、また殺さなければならない。



誰も幸せにならないシナリオ。俺はLOLスタッフの人格を疑う。



「やめてくれ! 頼む! 俺はもう殺したくない!」



カーマインはそう言いながらも、身体が勝手に動いている。最強の敵、カーマイン戦が始まる。



『鉄壁』



カーマインがスキルを発動する。これは防御スキルだ。発動中、その場から動けなくなる。カーマイン自身、懸命に悪魔の呪いに抵抗している。



「これで俺はしばらく動けない、そのうちに早く俺を殺してくれ」



カーマインの申し出に、俺は頷く。



「ベロニカ、シャドウアサシンを止めてくれ」



すっと背後にベロニカが現れる。



「お前の依頼主はカーマインだろ? もう任務は放棄しろ、報酬は後で俺が払う」



ベロニカはカーマインを見上げる。カーマインはそれに気付き、口を開いた。



「ああ、そうゆうことか、良いだろう、依頼はキャンセルだ」



「……御意」



依頼主からのキャンセルが入り、ベロニカは闇に紛れて消えた。最後の表情は少し安堵しているように見えた。シャドウアサシンも消える。



今のカーマインの反応、やはりベロニカに依頼したのはカーマインではなかったのだろう。ロンベルが王家の紋章を手に入れるため、カーマインの名を使ってベロニカに依頼したのだ。



「エルザ」



俺はエルザに声をかける。全てを終わらせるためには、エルザの力が必要だ。



「姫さん、頼むよ、俺を殺してくれ」



カーマインの懇願。



俺の言葉はどうやら必要ないようだ。もともと俺に誰かを励ますとか、元気づけるとか、そんな能力はない。



彼女は自分の意志で立ち上がった。結局、人は自分の足で立ち上がるしかない。



エルザの目を見て安心した。銀色の髪が美しく靡く。初めて彼女に会った時のように、凛々しく自信に溢れた姿だ。



レイピアを鞘から抜く。それだけで研ぎ澄まされた剣技を持つことが伺える。美しい装飾の施された細剣は実に彼女に似合う。



剣の道において、紛れもなく天才。全キャラの中でもトップクラスの戦闘能力を持つ。そして、仲間にしてはいけないキャラ第一位。



しかし、彼女がいなければカーマインを倒せない。最強を倒すのは、教え子の剣。今だけは仲間にいてほしいキャラ、第一位だ。



「我が名はエルザ、この国を救う正義の騎士だ、今からあなたを討つ」



エルザは剣を構える。そして、小さな声で付け足す。















「あなたのために」



















カーマインは満足そうに笑う。



「……レンちゃんさ、姫さんに手を貸してあげてくれよ、お前ならこの俺を倒せるんだろ?」



「ああ、もちろん、俺はお前を倒すよ、英雄だからな」



「それは安心だ、悪いがスキルで身体を止めておくのもそろそろ限界みたいだ」



カーマインが懸命に動きを止めてくれている。ならば、今ここで決めるしかない。



「エルザ、この前渡したアイテムを使用して『剣嵐』を使ってくれ」



「し、しかし、あのアイテムは……」



「大丈夫だ、俺を信じろ」



エルザは頷いて、アイテムを使用する。そして、重心をそっと下げた。



俺は『不動心』を発動し、ノックバックを無効にする。もともとダメージは『剣の極み』により入らない。



「カーマイン、あの世で奥さんに会えるといいな」



終止符を打つ。全てのピースが揃った。



さあ、ゲームでも誰も越えられなかったミレニアム懸賞イベント、『あなたのために』をクリアしよう。














『剣嵐』















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ