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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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傲慢な野望



________傲慢な王子の独白________



私は選ばれた人間だ。



生まれたときから、王族としての地位が約束されている。



それに、あらゆる面で極めて優秀であると自負している。周りがなぜこんなに馬鹿ばかりなのかいつも不思議に思う。



もちろん、処世術のために、そんな雰囲気はおくびにも出さないが。



私は物心ついたときから、やりたいことがあった。単純な子供じみたものだ。



世界征服がしたかった。全ての国家を統一し、私が王として君臨したかった。



普通なら鼻で笑われるような目標だろう。しかし、私にはそれをなし得るための能力がある。



生まれながらにして、王族であることでその道は現実的になる。しかし、父上は生粋の平和主義者だ。他国との平和を願っている。



そのため、軍備の拡張は弱く、兵の練度も低い。他国を攻めるために戦力を増強するという考えすらない。



ならば、私が早く王になり、この国を作り変えるのが良い。



私は小さい頃から、世界征服のためにあらゆる知識を身につけ、努力した。その力を早く試したかった。



私は世界征服に向けてスモールステップを刻むことにした。まずは私個人で動かせる戦力が必要だった。そこで目をつけたのが、カーマインとベルゼブブだった。



カーマインはひ弱な我が軍の中で、異質な存在だった。百戦錬磨の強さを持つ。



そして、もう1人がベルゼブブだ。私は歴史を勉強していく中で、文献に書かれているベルゼブブの強さに興味を持った。



その強さがあれば、たとえ相手が国レベルであっても滅ぼすことができる。最強の兵器だ。



それに悪魔は約束を守るという性質がある。諸刃の剣ではあるが、上手に悪魔と約束することさえできれば、悪魔を操ることも可能だ。裏切る人間よりも裏切らない悪魔の方が部下としてありがたい。



かつては勇者パーティに封印されたらしいが、かつての勇者達ほど強い者はこの世にいないとされている。



特に大魔導ソラリスが消えたのが大きいと。どの文献にもソラリスの偉大さが書かれていた。



私も上級魔法を使えるぐらいの才能はあるが、ソラリスというのは恐らく人外の領域に足を踏み入れているのだろう。



そして、私は念願のベルゼブブと会話をする機会が得た。教育の一環として、宝物庫の見学があったのだ。



私はそれぞれの宝の歴史を聞きながら、ずっと蝿の円環を探していた。そして、私はその禍々しい腕輪を見つけ、そっと触れた。



一気に悪魔の意志が流れ込んできた。



「力が欲しくないかい?」



気軽に友達に話すような雰囲気だった。私は心の中で会話を試みた。



「ふーん、君はすでに僕のことを知ってるんだ、なら話は早い、僕を復活させてくれないか?」



僕はここでベルゼブブといくつかの約束をする代わりに、協力をすることにした。向こうからすれば、王位を継承する可能性がある王子が味方についてくれるなら、一気に復活の可能性が高まる。



こちらが操られないように、細心の注意を払い、完全にこちらの条件が有利になるよう交渉する。



ベルゼブブは最初ははぐらしていたが、最後には観念したようだ。



「分かったよ、わがままな子だな、まあ王子様が味方についてくれるんだ、多少の譲歩は必要だね、約束するよ、僕はよっぽど君の方が悪魔じみてると思うけどね」



これで第一段階はクリアした。



それから私はベルゼブブの意思を染み込ませたという斧から、取手の部分の金具をこっそり外して、宝物庫から持ち出した。小さな金属製の輪っかだから、誰も気づかないだろう。



私はそれを使って、ベルゼブブと会話をしていた。



計画は順調だった。



誰にも気づかれないように王の食事に毒草を混ぜ、少しずつ父上を衰弱させていく。



父上に愛情がないわけではない。父上からは多くのことが学べた。しかし、もう彼から学ぶことはない。ならば愛情や同情などといった感情は邪魔になるだけだ。



同時に私はカーマインが敵に回らないように利用しようとした。



カーマインは我が国の最大戦力だ。できれば利用したいし、万が一敵に回られると厄介だ。私がグランダル王国を率いて他国を襲う際に、止めてくる可能性がある。



そこで悪魔からある提案があった。俺と約束させれば良いと。悪魔は経験からして、大切な者を生き返らせるというエサを吊るせば、大抵の人間は食いつくと。



私はその考えがよく分からなかった。大切な人間とは何だろうか。自分以外に大切な者などいるはずがない。



とりあえず悪魔の作戦を実行することにした。カーマインの妻、シンシア。大切な人とは彼女のことだろう。



シンシアは私に薬草学を教えていた教師だった。知識が浅く、彼女から学べるものはほとんどなかった。愚かな教師だ。



私はシンシアを薬草を摘みたいと誘導して、近郊の山に誘い出した。



そして、後ろから崖に突き落とした。初めて人を殺したが何とも思わなかった。どちらにせよ、これから世界征服をするのだから、もっと大勢の人間が死ぬことになるだろう。その1人目に過ぎない。



あとは事故に遭ったことを泣きながら、皆に訴える。私は子供だ。誰も疑いすらしない。



案の定、カーマインはひどく落ち込んでいた。計画通りだ。



私はカーマインを影から操ろうと考えた。だから、あえて彼の前で本を落として、悪魔の存在を意識に擦り込ませた。



そして、遠征で大活躍をして凱旋をした際、私は父上に宝物庫から褒美を与えることを進言した。



国に多大な貢献をする騎士団長に、褒美を与えることは何の違和感もなかった。私はベルゼブブの意志がしっかり染み込んだ鎧と斧を彼に与えた。



あとはベルゼブブに丸投げした。ここから先は彼の専売特許だ。



案の定、カーマインはベルゼブブと約束した。



これで私は一気に楽に動けるようになった。ベルゼブブを通して、カーマインに命令すれば彼がいろいろと動いてくれる。



革命軍を組織させたのは、いざという時に私が兵力を得るためだった。もしグランダル王国を動かすことができないときはクーデターを起こし、この国の重鎮を抹殺するしかない。



また私が王になって王国を動かせたとしても、そんな強硬的な姿勢に反対する貴族などは出るだろう。だから、前もって粛清する必要があった。



姉上も王家から退場させることができ、もし即位するならば私しかいない状況も作ることができた。



ところがここで、イレギュラーが起きた。



私の長年の計画に入り込んだ異物。そう、レンという男だ。あの男のせいで掻き乱される。少し強いだけの凡人が、私の計画を邪魔するのは許せなかった。



あろうことか、あの男は宝物庫からベルゼブブの本体を盗み出した。あれがなければ、いくら王家の紋章を受け継いでもベルゼブブを復活させることができない。



本当ならば、革命軍に王城を襲わせている隙に、カーマインが宝物庫から蝿の円環を手に入れるはずだった。そのために、前もって鍵を分かりやすくカーマインに隠しているところを見せて、盗ませておいた。



王城が爆発するような大事件が起これば、しばらくは宝物庫から腕輪が一本消えていることに気づかれることはないと考えていた。もし発覚しても革命軍のせいになるだろう。



そして、ありえないことにレン達を追ってカーマインを向かわせたのに、奴らは無事に戻ってきた。あのカーマインから逃げることができたことが信じられない。



もし本当にそれだけの、カーマインに匹敵する戦闘力があるなら、私も慎重にならざるをえない。



しかし、その心配は杞憂だった。レンはやはり何も考えていない凡人だ。



あっさりと私に蝿の円環を渡してきた。私は笑いを堪えるのに必死だった。



あまりに間抜けだ。このレンという男も召喚された英雄だと騒がれているが、大したことはない。私のような本物の天才とは別物。やはり私以外の人間は馬鹿ばかりだ。



私はもう機を待つのをやめた。待ちくたびれた。多少強引に動いたとしても、ベルゼブブさえ復活すれば、どうにでもなるだろう。



だから、私は前から準備していたヒドラの毒を王の食事に混ぜた。あとは死を悟った父上が紋章を譲ってくれれば良い。



父上は確かに聡明であり、国民にとっては良い王だったのだろう。しかし、私にとってはただのつまらない男だ。



父上の苦しむ姿を見ながら、私は心の中で待ち続けた。王位を譲ってくれることを。そして、ついにグランダル王は王位を私に継承した。



これで条件が揃った。



またレンのせいで、父上が延命するというハプニングはあったが、もう父上の生死などどうでもよい。



私はベルゼブブを利用し、この世界を征服し、本物の王になる。



私は念願のベルゼブブを復活させた。



馬鹿は死んだ方が良い。死ぬのが嫌ならば、この私に従えば良い。



手を焼かされたが、これであのレンという凡人も終わりだ。自分のことを英雄などと呼んでいたが、甚だ愚かしい。笑いを堪えるのに必死だった。



蝿の王が復活した今、何の才能もないレンはもう殺されるしかない。最後に笑うのはいつも私だ。



もう私は誰にも止められない。蝿の王を倒すのは不可能だ。



これで私は世界の王になる。







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