救助活動
俺達の作戦は極めて単純。ひたすらモンスターと反乱軍を殲滅し、人々を安全な場所に避難させる。それだけだ。
俺たちのパーティは戦力的には過剰すぎる。しかし、今回は手分けすることができない。ホロウのせいだ。
ホロウだけは俺が相手をしないとならない。ホロウはほぼ無敵状態のユキですら殺すことができる敵だ。他のメンバーでは敵わない。
そして、この街で俺たちの側が一番安全だ。だから、リリーさんや、ダイン、クリコ、ラインハルト、デュアキンスは俺たちと行動させた方が良い。
ここからはスピード勝負。少しでも早く敵を殲滅する。そのために、すべきことがある。
「あー、この後の戦いはきつくなりそうだなー、誰か応援してくれないかなー」
ちらちらと目で合図を送る。相手は首を傾げている。
「なんだが、誰かの歌とか聴ければやる気になる気がするなー」
ちらちら。全然分かってない。鈍い。
「……あー、アイドルの歌とか聴ければ、みんな頑張って国を救えるのになー」
やっと通じたのか、その少女は一瞬物陰に移動した。
いきなり何もない空間からスポットライトが出現し、スモークが広がる。現実を度外視した演出だ。
「こんにちわー! グランダル王国みんなのアイドル、マロンちゃんだよ!」
ド派手な音楽も共にマロンちゃんが現れる。クリコは『へ〜んしん☆』というスキルで時間制限はあるがトップアイドル、マロンちゃんに変身できる。
「マロンちゃーん!!!!!」
ダインが感動のあまり号泣し始める。
なぜこんな緊急事態にマロンちゃんの歌をリクエストしたかというと、彼女は最強のバフキャラだからだ。
バフとは味方の能力を向上させることだ。RPGでは古今東西、バフによる恩恵で敵を倒してきた歴史がある。
その中でもマロンちゃんはLOLの中で最強のバフ使いだ。仲間キャラが多いので、いろいろと意見が分かれるLOLだが、バフキャラに関しては満場一致でマロンちゃんになる。
俺たち英雄は時間制約付きのそのバフを、『夢時間』と呼んでいる。
クリコ状態があまりに弱く、全く戦力にならないから、短所もあるが、それにおつりが来るほどの効果だ。
「今日はこの国のために頑張ってくれるファンのみんなを〜! いっぱい応援するからね!」
「頑張るぜ!マロンちゃん!」
「それじゃあ、行くよ! 聞いてください! モンブランパレード」
いきなりど本命。マロンちゃんは曲の種類によって効果が変わる。モンブランパレードはその中でもかなりの有益な効果をもたらす。
俺はマロラー、つまりマロンちゃんの熱狂的なファンではない。しかし、これからの戦いのために、ここは行くべきところだ。
「モンパレ、モンパレ、huu!」
「モンパレ、モンパレ、huu!」
「モンパレ、モンパレ、huu!」
俺たち3人は音楽に合わせて一斉に振り付けを踊り始める。俺はちらっと横のラインハルトを見て、声を荒げた。
「ラインハルト! 早く振り付けを踊れ! 何を考えてるんだ」
「え、や、はぁ? 僕がなぜ踊らないといけないんだ」
「お前はそれでもグランダル王国を守る気があるのか! さあ、来い、俺の真似をしろ、モンパレモンパレhuu!」
「あ、ちょっと待ってくれ、も、もんぱれ、もんぱれ……」
サビが終わり俺たちに効果が発揮される。全ステータス大幅向上。レベル50ぐらい増えた分の恩恵がある。更に全員にフィジカルリフレクションの効果もついてくる。これでラインハルトやデュアキンスも戦闘に加われるようになった。
別に踊らなくても、効果は発揮するが、ここはノリノリで踊るのが社会の礼儀というものだ。
マロンちゃんは曲が終わると同時に大量のスモークの中に消えていった。そして、こそこそとクリコが元いた場所に戻る。
まだどこからかBGMは流れ続けている。この音楽が終わるまで効果は続く。
「ふぅー、今回も素敵な曲だった」
なぜかいつの間にかヘルマンがいる。そういえばさっき一緒に踊っていた。
「ヘルマン! てめぇいつのまに!」
「ああ、ダインか、何簡単なことだよ、私の発明したガジェット、マロンちゃんレーダーに反応があったから、研究所を飛び出してきた」
クリコがそのストーカーガジェットに、本気で怯えている。
「お前が研究所を離れたら、そこにいる人たちを守れねぇだろ」
「研究所にはラブちゃんがいる、私よりよっぽど強いよ、私はもしマロンちゃんが危険なら命をかけて助けようと思い、飛び出してきた」
「ふん、まあ、マロラーなら当然の選択か」
何だか謎の熱いドラマが展開されたが、俺は無視して声をかける。
「よし! じゃあ効果が効いているうちに行動しよう!」
それから、俺たちは殲滅作戦を開始したが、俺はあんまり活躍できてない。
こういう戦いになるとギルバートとユキが無双過ぎる。遠距離攻撃で次々敵を倒していく。俺は何か歩いているだけだった。
ホロウが現れれば、俺が相手をして『ホーリーソード』で倒す。ゲーム時代は苦労したが、さすがにレベル300オーバーのこのパーティなら、問題ない。
無事にダイン、ヘルマン、クリコ、リリーさん、そして途中で助け出した城下町の住民達をヘルマンの研究所に送り届けた。
「レン、注文の品だ」
「ありがとう、相変わらず良い腕だね」
俺はダインからレイピアを一本受け取る。これで2つ目のピースも揃った。
それから、今度は迂回して西地区のモンスターと反乱軍を倒しながら、人々を救済する。
そして、無事にジェラルドの屋敷に送り届けた。ジェラルドは屋敷の前で悠然と立っていた。
「レン君、国民を助けてくれて感謝しているよ、ここは私の城だ、誰にも足を踏み入れさせないから安心してほしい」
俺はジェラルドにホロウのことを伝える。ホロウだけはジェラルドでも勝つことができない。
「情報提供ありがとう、しかし、それなら心配いらない、先ほどから黒い頭巾を被った者が何かしようとしてくるからね、発動前に息の根を止めている」
心強すぎる。俺はラインハルトやデュアキンスに声をかける。
「ラインハルト、デュアさん、2人もこのままここに避難してくれ」
「ああ……お前も気をつけてくれ」
「ふん、僕はまだまだ動けるんだが、仕方ない、ここの連中を守ってやろうじゃないか」
2人とも自分の実力として、力不足だと理解したのだろう。大人しく引き下がってくれる。
残ったのはお馴染みの俺のパーティだ。
「さあ、全てを終わらせる、ゲンリュウの道場へ行こう」
ゲームの流れでは、王都陥落イベントは本来、王城に到着し、グランダル王の下に行けばクリアとなる。そして、その後ベルゼブブ討伐イベントとなり、勝利することで、カーマイン戦になる。
ベルゼブブ戦には俺が蝿の円環を持っている限りならないだろう。しかし、カーマイン戦は避けて通れない。
そして、カーマインを倒した先のストーリーは誰も知らない。それでエルザイベントが終わるのかも分からない。
ゲームでもない展開が起これば、経験と記憶とデータによって何とかこの世界を生きている俺はあっけなく死ぬしかない。
「リン、調べてもらったことを聞いていいか?」
俺はゲンリュウの屋敷に戻る道中、リンに問いかける。俺はこのイベントの最終到着点を知らない。だから、道場にいるリンに秘密裏にあることを調べさせていた。
俺は詳細を聞いて、予想を立てた。LOLのシナリオライターならどのような筋書きをするか。それをトレースする。
そして、1つの仮説に行き着く。
それが真実かどうか何て分からない。それでも、俺はその仮説に賭ける。ハッピーエンドのためには多少のリスクも必要かもしれない。
ここからが正念場だ。俺はベルゼブブもカーマインも乗り越えて、ハッピーエンドを作り出す。
さあ、無理ゲーを攻略しよう。