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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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ホロウ討伐



本当にギリギリだった。



俺は王都に着いて、ギルバートの銃声を頼りに進んでいた。そして、姿が見えた時、リンがホロウに捕まる瞬間だった。



慌てて『スイッチ』でリンと居場所を交換し、『イリュージョン』ですぐにホロウのしがみつきを回避する。



ホロウは俺が相手をするしかない。他のメンバーでは手に負えない。何の準備もなくホロウと戦えば勝つ見込みはない。



「全員、その亡霊には手を出すな、他の敵を倒してくれ」



一緒に到着したポチやドラクロワ、ユキが戦力に加われば、戦況は一気に変わる。



ふと、横を見るとダインやラインハルト、デュアキンス、クリコ、そして、ちょうど今俺が会いたかった人物がいた。幸運すぎて俺のテンションが上がる。



「リリーさん! アイテム! アイテムを売ってくださぁーい!」



ホロウが俺に向かってくる。俺も凄まじい速さで、リリーさんの元に向かう。



「え、あ、はい、いらっしゃいませ、じゃなくて、全部このアイテムあげます!」



リリーさんはあたふたしながら、アイテムを見せる。そこには俺が求めていたものがあった。



アイテムショップにはデラクレールに使った麻痺薬やポポスに使った眠り粉のように、敵を状態異常にする消費アイテムがある。後半の敵になると、かなり状態異常に耐性を持つ敵が多くなるので、有益ではなくなるが、前半では役に立つアイテムだ。



毒になる毒薬や、麻痺になる麻痺薬などは序盤では実は重宝するが、値段が高いため、ポーション同様物語スタートタイミングでは貧乏過ぎて買えない。



品揃えは少しずつ増えていき、今では石化するバジリスクの瞳や即死する暗殺者の針、ゾンビ化する邪悪な灰、スロウにするノロノロ薬などが販売されている。



その中で俺は目当てのノロノロ薬を手に持つ。小さな小瓶だ。これは敵にぶつけることで状態異常スロウにすることができる。



スロウは素早さダウンとは似て非なる効果がある。素早さは相対的な数値であり、素早さがダウンすると、敵の動きが早くなるように感じる。



一方でスロウに自分がなれば、敵の動きは普段通りに見えるのだが、身体がゆっくりしか動かない。



あらゆるモーションスピードが遅くなってしまう。残念なのはモーションだけであり、効果時間は遅くならない。つまり、【パワーアップ】などの効果が普通よりも長く続いたりはしない。



特に素早さが高く苦労する相手をスロウ状態にすれば、随分と楽に敵を倒せるようになる。



スキルのモーションも遅くなるので、モーションが長いと有名なデュランダルの固有スキル『インフィニティソード』をスロウ状態で発動すると、スキルが終わるまで15分くらい待ち続けるという事態も起こる。



俺はノロノロ薬を片手に、向かってくるホロウに向き合う。



このままぶつけたとしても、『透過』によって透き通ってしまう。だから、俺はノロノロ薬をホロウに使わない。



腕輪を外す。そして、自分自身に投げつける。神兵の腕輪を外したので、スロウ状態になる。もちろんその状態でホロウを回避することは出来ず、あっさりしがみつかれた。



ホロウが実体化し、『吸魂』を発動する。俺の身体が青く光る。



これで良い。



『吸魂』による色の変化はプレイヤーのモーションの一部として、処理されている。つまりスロウ状態で死ぬまでの時間を伸ばすことができる。本来9秒間だが、3倍近く長くなる。



「デュアさん、【アンデッド】かけて」



口があまり早く動かないが、デュアキンスにそう伝える。デュアキンスの魔法により、俺は状態異常、ゾンビ化になる。最大HPが3倍に跳ね上がる。



ポチの『ワンナイトカーニバル』を発動。狂乱状態になり、『狂戦士の誇り』と併用され、更に攻撃力が跳ね上がる。ウォルフガング戦で使った手法だ。



これだけの攻撃力があれば十分だろう。あとはしがみついているホロウを攻撃するだけだ。まだ黄色い光に変わったばかり、時間も間に合う。



このまま攻撃してはホロウに与えられる大ダメージがそっくりそのまま俺も受ける。『憑依』の効果だ。俺も一撃死するのは明白だ。ちなみに他の人がホロウにダメージを与えても俺がその分のダメージを受ける。



これは属性吸収の腕輪をつけて、その属性で攻撃をしても無駄だ。火属性吸収の腕輪で火属性攻撃をしても、結局ホロウに与えられたダメージ分が入り、反転しての回復はしない。『憑依』によるこちらへのダメージは無属性か何かに変更されているのだろう。



一見、手がないように見える。LOLスタッフも倒させるつもりがないのだろう。見つかったら終わりのステルスイベントにしたかったのだから。



しかし、俺は唯一、ホロウを倒せる技を知っている。それは意外にあっさりと発見された。ただそのスキルを使うだけでいい。



俺はホロウ倒すことができるスキルを発動する。



真上に刀を振り上げる。刀身が聖なる光により美しく輝き出す。



パラディンの第4取得スキル。



刀をゆっくり振り下ろす。聖なる光の刃が、悪しき亡霊を浄化する。美しい光が舞い散り、ホロウは青い粒子となって空中に霧散した。



もちろん、俺には傷一つない。














俺は『ホーリーソード』を使用した。これが唯一ホロウを切り裂ける聖なる技だ。



『ホーリーソード』の効果は、光属性の大ダメージを与え、与えた分のダメージを回復する技だ。説明では大ダメージと書かれているが、実際は『閃光連撃』や『剣神の太刀』の方が何倍も威力はある。



俺が与えたダメージ分だけ、『憑依』でダメージが帰ってくるが、その分のダメージだけ同時に回復するからプラスマイナス0にすることができる。



内部的な計算がどうかは知らないが、『お手玉エスケープ』と同じタイプのダメージ処理をしているのだろう。無傷でスキルを終わらせることができる。



『ホーリーソード』はRPGでは名前は違ってもよくある技だ。本来ならそこまで使える技ではないのだが、今回だけは活躍した。というかこのホロウ対策以外で俺は使い所を知らない。



攻撃力の補強さえ事前に出来ていれば、スロウ状態でなくても捕まった瞬間に『ホーリーソード』を使用すれば倒せるが、念のためスロウ状態で安全策を取った。



スロウ状態が切れた俺はすぐにリリーさんのもとに向かう。



「リリーさん、ありがとうございました! おかげで助かりました」



「いえいえ、助けてもらったのは、私の方です、ありがとうございました」



リリーさんの素敵な笑顔に俺の心は踊り出す。



「これからも何回でも助けますよ、あなたのえがにょが……」



俺は地面に転がりながら悶え苦しむ。美人と話すとどうしても緊張してしまう。またやってしまった。



「レン、遊んでないで、この街を救いましょ」



リンの言葉に俺は何事もなかったように颯爽と立ち上がる。そして、きりっとした真剣な表情を作った。なぜかユキが不機嫌そうに俺を見ている。



「ねぇギルバート! えがにょって何?」



「ポチ、男にはな、わざわざ知らなくていいこともあるってことだ」



「よくわからないけど、わかった」



後ろでポチとギルバートが何か話しているが気にしない。



俺は気を取り直して、リリーさんから彼女の持っているアイテムを全てもらった。その中に、カーマインへの切り札がある。



だが、これはゲーム時代でもしたことがない手だ。理論的には可能なはず。俺の計算が間違ってなければだが。



本来はシャルドレーク遺跡のどえむ部屋でカーマインを倒す予定でいた。次点として、この方法を構想していた。むしろ、見立てではどえむ部屋の方が成功率は高いと思っていた。



しかし、デストロイヤーによるイレギュラーがあった今、残る方法はこれしかない。



カーマインが夢の世界から出て、ここに現れる前に残りの条件もクリアしておかなければならない。



それと並行して、この国を救うことも大切だ。カーマインが現れるまでそう多くの時間はない。しかし、俺にはこの国の人々を見捨てられない。












「さあ、この国を救おうか」






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