王都陥落
私は全速力で走りながら、目に入った人たちを避難させ、モンスターや反乱軍を倒す。
反乱軍の奴らはかなりステータスが高い。しかし、私の回避術の方が遥かに上に行っている。私は反乱軍を蹴散らしながら、進む。
猪のようなモンスターが現れる。私を見た瞬間に突進してくる。予想以上に早い。これは何かのスキルだ。
私はギリギリで横に回避し、通り過ぎる猪を切りつける。ダメージが与えられない。
恐らく『物理ダメージ無効』。
厄介。この状況下で足が地面に縫い付けられる魔法は使いたくない。屋根の上など高いところに登って魔法を使うべきか。
【グラビティ】
走り出そうとしていた猪が重力魔法により、地面におしつぶされる。
「今のうちだ」
路地から包帯を顔にぐるぐる巻いた黒い服の男が姿を見せる。
「デュアさん!」
死霊術師デュアキンスだ。邪龍討伐のときにお世話になった人だ。
私はその猪が動かない隙に魔法を発動する。上級魔法は詠唱時間が長い。しかし、私の魔法攻撃力ならかなりのダメージが期待できる。
【テンペスト】
轟音と共に紫の落雷が猪を貫き、凄まじい爆風が巻き起こる。
猪は跡形もなく消えた。
「ありがとう、デュアさん」
「ああ……こうゆうときは皆で協力だ」
見た目はとても怖いけれど、やっぱり良い人だ。
「おい! なら僕にも協力してくれ!」
ラインハルトが苦しそうな表情で飛び出してきた。犬のような黒いモンスターに群れで追われている。
ラインハルトやデュアさんだけでは、モンスターを倒すことは出来ない。この場で唯一戦えるのは私だけだ。
いつの間にか、レンのおかげで私はここまで強くなった。
私はラインハルトから戦闘を引き継ぎ、黒い犬達を殲滅する。モーションがわかりやすい。そんな攻撃では私には通用しない。
「ずいぶんと……成長した」
「いや、強すぎだよ、ありえないぐらいだよ」
デュアキンスとラインハルトが私を見て、驚いている。
「早く皆を避難させないと、2人とも手伝って」
「ああ」
「ふん、言われなくても僕はそうするつもりだったさ」
私が前線で敵を駆逐する。2人は一般人に比べれば遥かに強い。だから、避難誘導を担当する。私が反乱軍とモンスターの全ての敵意を集める。
かなりの規模だ。恐らく城下町全域に戦火が広がっている。
私の目に黒い犬のモンスターに襲われている住民を見つけた。
後ろに少女を庇いながら、大きなハンマーを振り回して応戦している。劣勢でやられるのは時間の問題だ。
私は『雷光突き』を放ち、一気にモンスター達を一掃した。
「大丈夫!?」
「リンさんか! ああ俺たちは大丈夫だ、ありがとな」
ダインが息を切らしながら礼を言う。後ろにイガグリ亭の店員さんを連れている。ずっと命懸けで守っていたのだろう。
「無事で良かった、ダインも早く避難して」
「ああ、鍛治の腕はあっても、戦闘は得意じゃないからな、そうさせてもらう、まあ届けたいものはあるんだがな」
そう言って、ちらっと腰に目線を向けた。いくつもの武器があるが、その中でも一際目を引く美しい装飾の施されたレイピアがあった。
「まあこの子を安全な所に送り届けるのが先決だからな、そうだ、避難させるならヘルマンの研究所が良い、あいつは気に食わない奴だが、セキュリティは万全だ」
後ろにいたラインハルトが便乗する。
「それなら、西地区は親父の、ジェラルドの家が良い、あいつのもとなら安心だろう」
「分かった、まずはその子やダインをここから一番近い研究所に送り届ける」
「すみません、よ、よろしくお願いします!」
前髪の長い店員さんはぺこっと頭を下げた。
方針を決め、全員で移動を始める。
戦いながら、私は早くレン達が戻ってくれることを祈った。能力的に戦えてはいる。しかし、私1人ではやはり不足している。
単純に物量の問題だ。とても王都全域などカバーしきれない。改めて仲間達の強さを自覚する。
きっとユキなら氷魔法で敵を余裕で殲滅する。ギルバートも遠距離からの射撃でモンスターの数を一気に減らすだろう。
進化したポチは高速で全ての敵を一撃で倒すだろうし、ドラクロワのように頑丈なら複数の敵をまとめて相手に出来る。
いつの間にか、信じられないほどの力を手にしていた。
そして、レンなら、あの人ならこの状況自体を終わらせることができる。私はそう信じてる。
複数のモンスターや反乱軍を同時に相手をし、私にも疲労が溜まってきた。こんな状況でも回避の精度を下げないように、集中を続ける。
全員を守りながら戦うことが、苦しかった。
その時、アイテムショップのリリーさんが黒い熊のモンスターに襲われそうになっているのを発見した。
「危ない!」
私は咄嗟に駆け出す。しかし、私のスピードでは一手遅い。それがわかる。『雷光突き』はまだクールタイムが終わっていない。彼女のような戦いを知らない人間では、一撃で殺されてしまう。
銃声が響いた。
一瞬で黒い熊は青い粒子に変わる。
間に合った。この音を待っていた。
「悪いな、遅くなっちまった」
風にコートをはためかせながら、ギルバートが立っていた。相変わらず絵になる人だ。
これで一気に戦況が変わる。ギルバートにはフィンガーピストルによる即死射撃が出来る。即死無効でなければ、遠距離からの一撃で終わる。
「あの、ありがとうございました」
リリーさんはそう言って頭を下げる。手にはいっぱいのアイテムがあった。
「売り物より命の方が大切、それを捨てて逃げて」
「これは売り物じゃないです、回復薬とか戦闘用アイテムです、私たちのために戦ってくれている人たちに届けたいと思って」
「……分かった、私たちが預かって必要な人がいれば使わせてもらう、だからあなたは一緒に安全なところに行きましょう」
リリーさんは街を守っている人たちのために、危険を顧みずにアイテムを運んだ。それで救える人がいると信じて。私は彼女を尊敬する。
「おい、反乱軍の連中に見つかったぞ」
ラインハルトが慌てて、指を指す。私とギルバートが先頭に立つ。
「ギルさん、行ける?」
「ああ、任せてくれ、あいつらは敵だ、躊躇いはない」
心配は無用のようだ。私は一気に加速して飛び出した。
私の役目は前線でアタッカーになること。回避を中心に全員を相手取り、バックスに近づかせない。
あとはギルバートの援護で敵が減っていく。
しかし、倒しても倒しても敵が現れる。これではキリがない。ギルバートの銃声で敵が寄ってきているのかもしれない。
全員が向かってくる中、私は1人違う動きをする者がいたことに気づく。
1人だけ後ろに離れていく。逃げているのではない。恐らく風貌からして、魔法使いだ。何か嫌な予感がする。早めに叩いた方が良い。
私は回避をしながら、スピンして敵の隙間に割り込み、一歩で加速してすり抜ける。
そして、魔法使いに向かう。既に足元に魔法陣が広がっている。
私の突きが魔法使いを捉え、吹き飛ばす。一撃で粒子に変えた。しかし、ギリギリで魔法が発動した。
魔法陣から、ボロボロの黒い布を纏った亡霊のようなモンスターが現れる。
私はその背中にエクスカリボーを打ち付ける。
「え!?」
手応えがない。物理ダメージ無効ではない。攻撃がすり抜けた。亡霊は空中を反転して私に向かってくる。予想より動きが速い。
私は一旦距離を取るために後退する。ギルバートの銃弾が亡霊をすり抜ける。ならば魔法で攻撃する。私は詠唱時間が短い【サンダーボルト】を使う。
しかし、その稲妻も亡霊すり抜ける。
これではダメージを与える術がない。
亡霊が向かってくる。どう倒せば良いか考える。しかし、全てがすり抜ける以上、何も出来ない。
速い。横に飛んで避けるしかない。亡霊が両手を広げて向かってくる。私の目算だと回避しきれない。あの速さで更にウイングスパンもかなりある。間に合わない。
ダメ元で回避動作に入ろうとした瞬間、私の視界が急に違う景色に変わった。
私はこれを知っている。
私は安堵した。