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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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捕らわれの男



________捕らわれの男_________



俺は生き残る術を知る男、カマセーヌ。



大義や信念なんて、どうでもいい。命が一番大事だ。だから、捕まったあとはひたすら平身低頭、反省している演技に従事している。



幸い、俺の流した情報で避難が上手くいったようで、あとは俺の演技が上手かったからだろうが、比較的厳しい対応はされていない。



しかし、俺は牢屋暮らしなんてまっぴらごめんだ。牢屋暮らしでは、趣味の人殺しができない。



いや、看守に頼めば許可されるのだろうか。俺は牢獄のシステムをいまいち理解していない。趣味ぐらい許されなければ、やってられない。



以前服役していた男からは、趣味の読書をずっとしていたと聞いた。それなら、同じ趣味の人殺しも許可される可能性は十分にある。



しかし、飯が不味いと聞く。俺はうまい酒をくびくび飲みたい。やっぱり隙を見て逃亡を計るのが良い。



俺は学習できる男だ。弱そうに見えて実は強いパターンがあることを学んだ。あのリンという女、弱そうに見えて、アホみたいに強い。



しかし、あの地味男の仲間達はシャルドレーク遺跡という場所に向かったと、見張りの兵士達が話していた。



今が脱獄のチャンスだ。俺は150レベル。人類最高峰の強さを持っている。たまたま300レベルオーバーという化け物連中と会ってしまったが、普通ならば俺が負けるはずがない。



まずは武器を取り返すことからだな。俺は行動しようと立ち上がる。



その時、すぐ近くで爆発音が響いた。



急に辺りが騒がしくなる。見張りの意識も、そちらに向く。これは暁光だ。



【ハイパワーアップ】



俺はこっそりと魔法を発動しておく。



そして、鍵のかかった扉に向けて、正拳突きを放つ。あっけなくドアは吹き飛んだ。



見張りの兵士が襲ってくるが、俺は軽くかわして、腕を捻り上げて、そいつの剣を奪う。



やっぱり俺は最強だ。失われた自信が戻ってきた。



反乱軍の格好をした奴らが、こちらに走ってくる。なるほど、この俺をわざわざ救出に来てくれたのか。



「お前ら、俺はここだ、わざわざ来てくれるとは、やっぱり俺が必要だったんだな」



そう声をかけるが、何故か反乱軍の奴らの雰囲気が、おかしい。躊躇いなく俺に切り掛かってきた。



「ちょ、おいおいおい、俺が誰かわかってるだろ? 反乱軍二番手のカマセーヌ様だぜ?」



反乱軍達はお互いに顔を見合わせる。



「お前知ってる?」



「いや、俺は知らない」



「もしかして、あれじゃない? 反乱軍の分隊の1つとか」



「ああ、さすがにそんな下っ端じゃ覚えてないわな」



ん? 何だか嫌な予感がする。



「まあ、いい、どうせ使い捨ての分隊の奴らだろ? 殺そう」



何か食い違いがあるように感じる。結局剣を抜いて、襲いかかってきた。



腹立たしい。この俺様を知らないとは、組織でも末端の人間なのだろう。



俺様の力を分からせてやるしかない。





























「ありえなぁぁぁい!」



俺は全力で、逃亡していた。あいつら俺よりも普通に、強かった。



人類最高峰だよ、俺。意味がわからない。



「こそこそ逃げ回りやがって」



素早さが負けているので、結局追いつかれる。俺より強い奴ら数人に囲まれてしまった。絶望的過ぎる。



俺は剣の柄に手をかける。こうなったら仕方がない。男にはやるべき時がある。



俺は剣を地面に置いて、正座した。必殺、土下座だ。心を込め、出来る限り卑屈に、惨めに思われるように頭を下げる。



その瞬間、眩しい雷光と共に敵の2人が吹き飛んだ。



俺は顔を上げる。そこには紫電を纏ったあのリンという少女がいた。



反乱軍の奴らが一斉に切り掛かる。リンは踊るように、無駄のない流れるような動きで、全ての攻撃を回避し、カウンターを放っていく。



「すげぇ……」



俺は素直に感嘆していた。これはステータスが高いとかそんな次元じゃない。紛れもない戦闘技術だ。



「よし、俺は……」



少女が戦っている。それなのに俺は膝をついて、座り込んでいる。俺は剣を持って立ち上がった。俺が選ぶ選択は1つ。



もちろん、この機会に便乗して、とんずらする。



あんな連中の戦いに巻き込まれたんじゃ、命がいくつあっても足りない。俺はいつだって生粋のリアリストだ。



街中には反乱軍の奴らの他にもやたら強いモンスターが跋扈している。俺はひたすら逃げ惑う。



息も絶え絶え、何とか狭い路地に逃げ込んだ。だいぶダメージを負ってしまっている。この隙に回復したい。



「へぇーカマセーヌさん、レベル150もあるんだ」



急に声がした。路地が暗くて相手の姿はよく見えない。それよりなぜ俺様の名前を知っているのだろう。



「何者だ? なぜ俺のことを知っている」



そもそもなぜレベルまで知られているのだろうか。俺しか知らない情報のはず……いや、酒場で酔っ払ってよく自慢してしまうから、知っている人間は多いかもしれない。



「まあ、俺は有名人だからな、知っていても不思議じゃない」



「初対面だけどね」



「……」



俺は剣を構える。不気味な奴だ。殺すのが一番と決定する。



光が差し込み、相手の姿が見えた。あまりにはひ弱そうだ。強さのかけらも感じない。



俺は今まで運が悪かった。あの地味男パーティは化け物揃い。反乱軍の連中も俺より強い。これはあくまで運が悪かっただけだ。



今まで俺様は負けたことがなかった。それを今証明してやる。



それに久しぶりの人殺しだ。心がワクワクしてくる。悲鳴が早く聴きたい。



俺は一気に攻撃に出る。その瞬間、俺の横にそいつがいた。



「ほへ?」



これは明らかに素早さに差があることを物語っている。俺は慌てて剣を振るう。白い手がその刃を受け止めた。これも知っている。防御力が突破できず、ダメージが入っていない。



「えっと、持っているのは……」



「ひいいいい!」



俺は一気に地面を蹴って、その男から離れる。今とても嫌な予感がした。何だか、舌なめずりをする怪物に睨まれたような気分だ。



やばいやばいやばい。俺の危機センサーが警鐘を鳴らしている。こいつはやばい。きっと俺の最強技、土下座も通用しない。



そもそも、俺より素早さが高く、俺の攻撃力を上回る防御力を持っているなんて、かなりの高レベルだ。



俺はこれでも強者の情報は掴んでいる。ボスとか、あのフリードリヒ家の当主とかは絶対に喧嘩を売っちゃいけないとわかっている。



でも、こんな奴知らない。俺を値踏みしている。大きな目で俺を見てくる。それは人を見る目じゃない。獲物を吟味する目だ。



「いらないな」



そう言って興味をなくしたように、背中を向けて去っていった。



俺はへなへなと地面に崩れる。命拾いした。



もう危ない橋を渡るのはやめようと決心する。実家に戻って畑仕事をしようと決意した。



俺はただの凡人だ。この世界にはアホみたいに強い奴がゴロゴロいて、命がいくつあっても、足りやしない。





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