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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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カーマイン戦



崩れた瓦礫で足場が悪い。カーマインの攻撃の度に遺跡は破壊され、既に天井はなく、屋外に出ている。



「おらぁ!」



地面に叩きつけられたデストロイヤーの衝撃波で俺は吹き飛ぶ。吹き飛ばされながらもカーマインから視線を切らさない。



カーマインが消える。



消える寸前の体重移動からどちらの方向に移動したのかを計算する。右に移動した。



予備モーションがあるスキルを発動するなら、その隙に対応できる。ここは通常攻撃が来る前提で考える。



奴の攻撃パターンから当たり判定が大きい横薙ぎが来る可能性が高い。特に右からの回り込みで遠心力を乗せている。そこからの唐竹方向の攻撃はないと予想。



距離とスピードから、自分へのヒットタイミングを算出する。



今だ。



俺は目で捉えることができなかったカーマインの攻撃を回避する。



ああ、この感覚だ。懐かしい。ゲーム時代の全盛期の俺が戻ってきている。



息をつく暇もない。カーマインは回避されたと判断した瞬間、踏み込んで勢いを殺し、追撃に入る。俺はスキルを発動する。



『不動心』『ドッペル』



同時に斧が地面に叩きつけられ、凄まじい衝撃派が伝わる。



カーマインのこの攻撃パターンは威力が高く、もし避けられても周りを吹き飛ばすことが出来る。



しかし、自身にも隙が生まれる。本来なら敵を吹き飛ばすので、そんな隙は気にならない。しかし、俺が相手では状況は変わる。俺は『不動心』によって、ノックバック無効になっている。



既にカーマインが振りかぶった瞬間に、攻撃軌道を読み、その軌道を回避した上でスキルを発動していた。



『閃光連撃』



カーマインが吹き飛ぶ。斬鉄剣の効果で、防御力自慢のカーマインに大ダメージを与えられた。妖刀村正の『主人殺し』も上手く発動している。



俺は追撃に入る。カーマインはまだ空中にいる。足が地面に着いていない状況で広範囲スキルは発動出来ない。だから、奴は通常攻撃で俺を向かい打とうとする。



接近する俺にデストロイヤーを振り出す。完全な読み通り、それならば合わせられる。



『流水の構え』



完璧なタイミングでカウンターを発動し、更にカーマインにダメージを与える。



今から5フレーム後に、スキルを発動する。



俺はタイミングを測り、『金ダライ』を発動する。カーマインの着地の瞬間にヒットし、強制スタンに持って行く。



ドッペルの効果がギリギリ残っている。俺は動けないカーマインに連続で攻撃をする。



スタンが切れるタイミングを見計らい、距離を再度取る。



すぐにカーマインの追撃が来るかと思っていたが、カーマインは立ち止まっていた。



「……レンちゃん、驚いたよ、君、強いねぇ、てっきり策を弄することしかできない奴だと甘く見ていた」



カーマインの表情から笑顔が消える。



「今だけは1人の武人として、本気でお前と戦おう」



雰囲気が変わった。この感覚。全身から鳥肌が立つ。魔王軍幹部と相対した時にも感じた圧倒的強者の圧だ。



カーマインの身体が一気に近づく。ただ真っ直ぐに向かってきた。そして、予備モーションに入る。俺が一番恐れていたことだ。



ただ突っ込み、広範囲攻撃スキルを発動する。それが最も恐れていた攻撃。英雄の力を持ってしても、回避は不可能。



『大震撃』『スイッチ』



俺はこの状況のことを事前に打ち合わせていた。カーマインが広範囲スキルを放ったら、物理ダメージ無効のユキと『スイッチ』すると決めていた。ユキが即座に魔法で攻撃をする。



本当なら【ニブルヘイム】を使って欲しいが、ユキは敵NPC扱いなので、ここで使用すれば俺たちにもダメージが入ってしまう。



他にもカーマインと本気の戦闘になった際に、取り決めていたことがある。ギルバートは離脱することだ。ギルバートはカーマインの攻撃が擦れば一撃で死ぬ。だから、グランダル城下町に戻るように伝えている。



ポチと竜化したドラクロワなら、一撃では死なないだろうから、一緒に戦うように伝えた。しかし、横槍でカーマインのモーションが変わり、俺が読みきれなくなってしまえば、終わる。



だから、俺の合図を待つように伝えている。



今がその時だ。俺は『スイッチ』のクールタイムが終わるまで身動きできない。もしクールタイム中に先程と同じ状況になれば、『イリュージョン』を使用するしかなくなる。カーマイン相手に運任せの『イリュージョン』は危険すぎる。



ポチとドラクロワが同時に現れ、ユキと戦うカーマインを追撃する。即座に『動体感知』で察知したカーマインが対応する。



俺はタイミングを見計らい、『金ダライ』を発動している。カーマインがカウンターをしようと狙うタイミングで強制スタンがかかる。



その隙を俺のパーティ最強アタッカーの2人が、見逃さない。



「くらえ! おらぁ!」

「えい!」



凄まじいダメージ量だろう。カーマインが吹き飛ばされる。2人はすぐに距離を取る。彼らには俺の『金ダライ』のクールタイムが終わるまで、逃げてもらう。ヒットアンドアウェイだ。



俺は『スイッチ』のクールタイムが終わったのを確認し、再び岩陰から飛び出す。



同時にユキが離脱する。また俺の『スイッチ』要員として、効果範囲内に身を隠してもらう。



これが俺の考えたカーマインを倒す継続可能なコンビネーション。



「なに? これ? 何でこの俺がやられてんの?」



カーマインが頭をかく仕草をする。そして、ふと顔を上げて、カーマインの表情が曇った。



それは明らかな動揺だった。



本来、戦闘中に相手から視線を切ることなど出来ない。だが、カーマインは本気で驚いたように、ある方向を見ていた。



危険と知りながら俺もその視線を追う。カーマインはそんな小細工をしないと信じている。



黒煙だった。



黒煙が3つ空に昇っている。それは遠くに見えるグランダル城下町から上がっていた。俺はその光景に見覚えがあった。



()()()()イベントが始まっている。



本来ならば、反乱軍のアジトを襲撃するイベントの後に戻ってきたら発生するイベントだ。それが自動的に起こっている。



かなりまずい。あのイベントが現実になれば、多くの住民が死んでしまう。



エルザやリンも安全ではない。王都陥落イベントはレベルや強さではどうにもならないことがある。



俺も早く王都に戻らなければならない。



俺は再び、カーマインに視線を戻す。そして、問いかける。



「騎士団長、国民を守らなくていいのか? いや、エルザを守らなくていいのか?」



カーマインは苦い表情で首を振った。



彼がなぜかエルザを殺そうとしていないことは気づいていた。墓地の件、外にも戦いの跡があった。あれはエルザを待ち伏せしていた敵を先にカーマインが倒していたのだと思う。



「俺には明確な優先順位がある、蝿の円環が最優先だ、だから、俺の取る選択肢は1つ」



分かっている。蝿の円環が最優先。ならば、一刻も早く俺を殺し、蝿の円環を奪い取るのみ。



ここからはギアが変わる。正真正銘、本気のカーマインだ。



『覇道撃』



カーマインが叩きつけたデストロイヤーから、俺に凄まじい衝撃派が一直線に、向かってくる。これは直線的ではあるが、当たり判定が広いため、左右に避け切ることは不可能。



『スイッチ』



俺は仕方なく、クールタイムが終わったばかりの『スイッチ』でユキとチェンジする。



「レン! 逃げて!」



すぐにユキの声が聞こえた。反射的に何かを感じとり、『イリュージョン』を発動する。



瞬間移動した先から先程自分がいた場所が見えた。カーマインの一撃によりクレーターが出来ている。『スイッチ』で切り替わる瞬間を狙われていた。



カーマインは一度見ただけで俺の策を看破し、ユキの位置を感知系スキルで追跡していた。



力だけではない。戦闘IQが高い。先程から、広範囲攻撃しか使用してこないのも、当たり判定が狭い攻撃では俺に避けられると既に気づいているのだろう。



一瞬でカーマインの姿が消える。素早さに差がありすぎて、動きを追いきれない。



未来予測でカーマインの行動を推測しようとする。破壊した衝撃で砂埃が上がっていて、動き出した瞬間のカーマインが正確に目視できていなかったから、予測の精度が下がる。



コンマ数秒の世界で俺は攻撃パターンをいくつか算出した。ここからは運だ。『イリュージョン』も『スイッチ』も使えない今、自分の回避術を信じるしかない。



回避不能のパターンもいくつか存在する。一か八か回避行動を行う。



今までの戦いでカーマインの速さは理解した。ヒットタイミングは正確に求められる。



俺は回避動作に入った。その瞬間、カーマインの姿が見えた。予想していたより、()()



やられた。



俺は理解すると同時に絶望した。こいつはステータスやスキルで最強なんじゃない。



俺が回避すると分かっていたから、あえてスピードを緩め、ヒットするタイミングを遅らせた。確実に俺に当てるために。



NPCがそんな行動をすることは、ゲームではあり得ない。



既に回避モーションに入っている俺に、カーマインは遅れてスキルを発動する。



絶対に回避できない攻撃。














『大震撃』
























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