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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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理不尽な力




もう良い。レンを殺す。



「レン、お前には俺の気持ちはわからねぇ、ただ黙って死んでくれれば良い」



「悪いが死ぬ気はない、最後にもう一度考えてほしい、俺たちが戦わない道は存在しないのか?」



「ああ、レンちゃんが蝿の円環を返さないかぎり、存在しない、どちらかが死ぬまで、この戦いは終わらねえ」



「……そうか、じゃあ、俺も冷徹にならないとな」



その時、俺は確かに見た。レンの目の奥に魔物がいた。



俺は圧倒的な強さを持っている。



それにも関わらず、レンの目を見た瞬間、俺は恐れてしまった。初めて人を恐れたのかもしれない。



ただの小僧じゃないのか。何で最強の俺が奴を恐れている。意味が分からない。



あれは一切の情を切り落とした目だった。俺を人間とも思っていない。その切り替えの速さはもはや人間ではない。



本人は恐らく自覚がないだろう。だが、この男は間違いなく、()()だ。



レンの姿が急に消える。同時に白い髪の少女が現れる。



俺は一瞬のことで、反応が遅れた。何か、移動系のスキルだろう。なぜ俺が使えないスキルをレンは使えるのかわからない。



彼女はどこまでも冷たい眼差しで俺に手を差し向けた。



同時に俺が今まで経験したことのない程の、魔力を感じた。ありえない。こんな魔力量は人間の域ではない。



手の平から浮かび上がる魔法陣は俺が見たこともないほど、複雑で美しいものだった。白く透き通る魔力によって構成されている芸術のように思えた。



なぜ、彼女は俺が使えないのに、魔法が使えるんだ。レンが何かしているのか。状況に理解が追いつかない。



しかし、俺は鎧の効果もあり、魔法防御力もかなり高い。上級魔法でも大したダメージにはならないだろう。

















【ニブルヘイム】



















一瞬、部屋が白く輝く。その後、今まで経験したことのないほどの冷気が溢れ出し、部屋中を埋め尽くす。



寒いなんていう次元ではない。全ての命を一瞬で奪うほどの超低温。



「かはぁ!」



俺は今まで感じたことのない激痛を味わった。



ただの氷魔法ではない。血液まで凍るほどの到底人間が生きることのできる冷気を超えていた。信じられない速度でHPが削られていく。俺でなければ、生き残れるものはいないだろう。



こんな高火力は魔法、今まで見たことがない。上級魔法が遊びに思えるほどの威力だった。



白い少女はポーションを口にしている。恐らくエクストラマナポーションだろう。



【アイシクルランス】



無数の氷柱が空中に現れ、俺を突き刺す。



アイシクルランスは初級魔法だ。それにも関わらず俺の魔法防御力をあっさり突破し、HPを削っていく。



しばらく、攻撃が続き、再び少女がレンの姿に変わる。



「どうだ? 効いただろ?」



「……いやぁーすごいねぇ、今の、ちょっと、痛かったかな」



「クールタイムが終わったら、またさっきの魔法をするから、お前が消えるまで続ける」



まずい。移動ができず、スキルも使えない。魔法も使えない。遠距離攻撃が出来ない。これでは一方的に攻撃を受けるだけだ。



「カーマイン、もう一度聞く、なぜ蝿の円環を求める?ベルゼブブが現れれば多くの命が失われる、それにでかい蝿はめちゃくちゃ怖い」



今、この場にそぐわない言葉が聞こえた気がしたが、きっと聞き間違いだろう。



俺はレンの行動の意味を考えていた。恐らく今話しているのは、あの瞬間移動能力のクールタイムがあるからだ。



スキルには全てクールタイムが存在する。無条件での連発はできない。



白い少女があの極寒の魔法を使用した後、アイシクルランスで攻撃を続けたのは、レンが再び戻るまで、クールタイムを消化する必要があったからだ。



だから、今俺に話しかけているのは、ただの時間稼ぎ。先程までとはもう目の色が違う。本気で殺しにきている。



「はぁ、無視か、まあいいよ」




またレンの姿が男に変わる。こいつは知っている。グランダルでは顔の知れた男だ。



「ギルバートさんか、あんたレンちゃん側なんだよねぇ、悪いけどさ、多分あんたの攻撃では俺にダメージを与えられないよ」



「ああ、俺じゃあ無理だ、けどな、俺にも出来ることがある」



『バレットスコール』『アサルト』



凄まじい弾幕の嵐が俺に向かう。同時に2つの影が一瞬で部屋に入ってきた。



俺に攻撃をしようとしている。しかし、無数の弾幕により、のけぞって反撃出来ない。



「おらぁぁ! くらいやがれ!」

「わん!」



俺の死角、背後から2人の攻撃をまともに受ける。



「ぐっ!?」



何だこれは。俺の防御力をあっさり突破してきた。ありえないほどの攻撃力だ。



その2つの影は一瞬で離脱し、ギルバートのように天井の装飾に乗った。



竜人と獣人だ。竜人の攻撃が俺に通るのは分かる。やつらは希少な種族であるが、生粋の戦闘種族だ。もともとの能力は人間とは比べものにならない。だが、獣人風情が俺にダメージを与えていることが信じがたい。



いや、正確には竜人より獣人の方が攻撃力が高かった。意味が分からない。恐らく俺の攻撃力に匹敵する。見た目とは違い、怪物としか思えない。



状況は最悪だ。こちらの手が封じられ、一方的に攻撃を受ける。それも異常なダメージ量だ。魔法も物理攻撃も信じられないほどの高火力だ。



このペースで削られていけば、俺でも長くは持たない。ならば、行動するしかない。



「悪いが……遊びは終わりだ」



レンは賢い。策士としては右に出る者がいないだろう。



だが、奴は間違いを犯した。俺を敵に回したという間違いだ。



いくら策を弄そうが、圧倒的な力の前には無意味。



俺は武器を強く握る。アイテムまで使用禁止であれば、俺は負けていたかもしれないな。



この両手斧。全てはこれから始まった。王から授かった国宝。ずっと一緒に保管されていた蝿の円環を通して、ベルゼブブの意識が染み込んだ斧だ。



デストロイヤー。それがこの斧の名前だ。かつての戦争で、魔王軍幹部ティアマトを打ち破った戦利品。



俺はデストロイヤーを振りかぶる。何の工夫もない。策もない。ただ俺とこの斧の力を存分に振るうのみ。



「おおおおおおおらぁぁ!!」



渾身の力を込めて、地面に斧を振り下ろす。




_________________



地震とさえ思えた。カーマインの絶叫は俺の場所まで届き、凄まじい揺れが起こる。



同時に床が崩れた。



想定は出来ていた。しかし、実際に目の当たりにするとその理不尽に絶望する。



俺は落下しながら、冷静になっていた。



カーマインは針のタイルを破壊した。これは本来プレイヤーではありえないことだ。ゲームではダンジョンの壁などは破壊不能オブジェクトとなっている。



しかし、カーマインはそれを破壊した。その理由は恐らく、説明文だ。カーマインの斧、デストロイヤーの説明文はこうなっている。



全てのものを破壊することができる戦斧。



それはゲームではただの説明文だったが、現実になった今、効果を持ち始めた。



本当に全てを破壊できるようになってしまった。それにより、遺跡の部屋自体が崩落した。そして、制限するクリスタルも破壊可能だ。



本来ならば、DHOはこの時点で完成しており、俺たちの勝ちだった。クリスタルの効果範囲はドーム状で床一面を覆う。つまり、四角い部屋の天井隅には効果範囲が届いておらず、制限されない。



ゲームでは天井隅に捕まって、遠距離攻撃でゴーレムを倒すのが一般的な手段だった。



そして、移動不可は部屋の中央まで来させるために3秒間のラグがある。ドラクロワとポチをその3秒以内に攻撃させ、天井隅に退避させれば、移動不可は発動されない。



精霊魔法【ニブルヘイム】はユキが敵NPC扱いなので、仲間もダメージを受けるため、部屋にカーマインとユキだけにする手間はかかる。



俺はこの魔法と物理の波状攻撃で、カーマインを倒すつもりだった。恐らく、もしデストロイヤーがなければ俺の勝ちだっただろう。



しかし、現実は残酷だ。カーマインの枷が完全に外れてしまった。

















地面に着地する。



何の策もない。勝負が始まる。勝ち目なんて万に一つもない。絶望的な戦い。



砂煙の中から、凄まじい速度でカーマインが現れる。俺よりも遥かに早い。



カーマインの予備モーションから、攻撃パターンを瞬時に特定し、未来予知を行う。



デストロイヤーの一撃を紙一重でかわす。やはりゲーム時代に自分で戦った相手ではなく、データしか持っていない相手では精度が落ちる。経験に勝る糧はない。



俺はこの極限状態で今までになく集中しているのが分かった。反応すら厳しいカーマインの動きをその集中力で読み切る。



コンマ数秒、選択を間違えば、俺はあっけなく死ぬ。ゲームで戦うところまで行くことさえできなかった最強との戦いが始まった。




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