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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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DHO開始



俺たちはそこから準備を始める。



クリスタルを起動させ、制限されるものを確認し、カーマインが来た場合の戦い方を入念に打ち合わせる。



ドラクロワは脳筋ではあるが、戦闘においてだけは極めて思考能力が高い。それはあのシュタルクでの戦いで分かった。



だから、俺の作戦を予想していたより、あっさり受け入れてくれた。



ポチは全く思考力がないから、単純な作戦を与えた。



俺が合図したら、突っ込んでパンチ、それから逃げる。



「くーん、ちょっと難しいけど、がんばる、パンチして逃げる!」



俺たちは作戦会議を終え、どえむ部屋のすぐ上にある小部屋に向かった。ここは壁が忍者屋敷のように回るギミックで入れる隠し部屋だ。



ここなら『スイッチ』の効果範囲にどえむ部屋が入る。中にいる人とこの部屋を行き来できる。それに小窓がついており、そこから遺跡の入口が見下ろせる。



見張りにはうってつけだ。俺たちは交代で、休みながら見張りをした。




__________________



朝日が登り始めた頃、少し休んだ俺は起きて見張りをしていたユキと交代する。



「ユキ、交代するよ」



「ありがとう、レンは今回の相手勝てると思うの?」



「もちろんだよ、俺は英雄だからな」



少し強がってみせる。



「嘘よ、別に安心させようなんてしなくていいわ」



「……俺ってそんなに分かりやすいか?」



「ええ、でも……」



「でも?」



「そこも良いところだと思うわ」



「そうゆうもんか」



「そうゆうものよ、今回は私も頑張るから」



「ああ、期待してるよ、ユキは俺たちのパーティの最強魔法使いだからな」



「ちょっと恥ずかしいけど、期待に応えるわね」



ユキはなぜか寝ようとしない。他のみんなは皆個性的な寝方をしている。ポチは犬のように丸くなり、ドラクロワは仰向けで大の字になっている。ギルバートは壁にもたれかかり、銃を抱いて寝ている。寝方すらカッコ良い。



「レンは……死なないわよね?」



ユキの声が少し震えている気がする。俺の返答を待たずに、ユキは続ける。



「私は長い年月を生きてきた、多くの死を見てきた、だから、今回もまた死を見るのが怖い、今の幸せを失うのが怖いわ」



俺はどう声をかければ良いのかわからず、何となく彼女の白い綺麗な髪を軽くポンポンと手のひらで触れた。何か自然に手が動いていた。



「心配するな、死ぬ気はない、俺は」



「英雄だから……ね、知っているわ、きっとレンじゃなければ、私を救ってもらえなかった、リンもギルバートもポチも、きっとこの前戦ったドラクロワも、皆レンの凄さを知ってる」



褒められすぎて、少し照れ臭くなる。ユキは続ける。



「だから、お願い、カーマインに勝ってね」



「ああ、約束する」



そう、俺は最強のカーマインに勝たなければならない。



一応、仮初の栄光への道(デイロード)は見えた。しかし、それは酷く脆い。カーマインの行動1つであっけなく崩れ去る。



それでも、俺はその道を進む。



そして、俺はその時が訪れたことを知った。俺の目が遠くに小さな人影を捉えた。



「来た」



俺の言葉でユキは表情を引き締め、みんなを起こし始める。



奴は隠れることすらしない。そんなことをする必要がないほどの強さを持っている。



朝日の陽光がカーマインの鎧に反射し、ぎらぎらと光っている。



堂々と正面から現れる。遠くから、監視する俺にすら、その存在感の大きさが分かる。



魔王軍幹部と相対したときのような、圧倒的な強者の圧。かなり離れているにも関わらず、全身から立ち昇る殺気に俺は鳥肌が立つ。



裏切りの騎士団長、カーマイン。人型のキャラクターの中では恐らく魔王の次に強い。



冥王ダンテは戦ったことがないので未知数ではあるが、あの時に見た前魔王の片鱗に匹敵するほどの存在感を放っている。



俺の予想は嫌な方に当たっているのだろう。カーマインはこの状況だからこそ、本気を出せる。



カーマインがチェスボート柄のタイルに近づく。あのタイルの針はプレイヤーならどれだけ防御力があっても即死だ。カーマインにも効く可能性がある。



カーマインは何の躊躇いもなく、黒いタイルを踏んだ。



俺の一縷の望みはあっけなく、断たれた。信じられない反応速度だった。初見にも関わらず、針が出てきた瞬間に後退し、トラップを回避した。



「危ないねぇ、これは、だから俺をここに誘き寄せたのか、いやー、面倒だ」



カーマインはそう言って、両手斧を振りかぶった。



俺には何をする気か分からない。



そして、凄まじい速度で振り下ろす。



爆発のような突風と轟音が重なり、俺は思わず目を閉じた。再び目を開けた時、遺跡の前にあった黒と白のタイルは粉々になり、土の地面が剥き出しになっていた。



「よーし、これで、問題ないねぇ」



俺達英雄が必死になって突破できる道を探したギミックを、カーマインは呆気なく力だけで無効化した。



ゲームではありえない。ダンジョンの壁や床は破壊不能オブジェクトのはずだ。



「見てるんだろ? レンちゃん! 今殺しに行くからさ、いっぱい後悔しててちょーだい」



まあ、想定済みだ。この程度で止められないことくらい。



悪いが、後悔するのはお前の方だよ、カーマイン。



俺は次の作戦に移行する。英雄の闘い(DHO)を見せてやろう。




________騎士団長_________




俺に油断はないが、レンという男は侮れない。ここも俺を誘い出すための場所だ。あえていろんな人にここに行くことを触れ回っていたのだろう。俺が調べればすぐにここにいることが分かった。



おびき寄せられているのは分かっている。しかし、俺は蠅の円環を奴が持つ限り向かうしかない。



奴は一つ失策を犯した。エリス王女と離れるべきではなかった。彼女がここにいないのであれば、俺は遠慮をする必要がなくなる。



俺の中には明確な優先順位がある。俺の目的のためなら、レンの仲間もろとも殺す覚悟は出来ている。容赦はしない。



細い通路を進む。『動体感知』『魔力感知』『気配察知』などの索敵スキルを常時発動し、五感を研ぎ澄ませる。俺は身体の周りに薄い膜のようなものをイメージする。



俺の反応速度ならば、その膜に触れた瞬間に回避や反撃が可能だ。



壁が迫り出してくる。俺はバックステップでかわす。少し進むと天井から槍が降ってくるが、こちらもかわす。



様々な罠があるが、どれも子供騙しだ。何もない空間も「魔力感知』で、微細な魔力を感じる。近寄らない方が良いだろう。



まだレンからの攻撃はこない。俺に死角はない。早く襲ってきてほしいものだ。



しばらく進むと正方形の部屋についた。真ん中に光を放つクリスタルがある。俺は最大限の警戒をする。部屋の中央に移動すると、金属のような細い身体を持つ人形が数体現れる。



魔法で動いている人形だろう。刺客なのは分かるが、動きは緩慢だ。俺の敵ではない。



俺は先頭の人形の首に瞬時に斧の刃を入れる。その感触ですぐに理解する。『物理ダメージ無効』だ。普通の人間ならば、ここで焦るだろうな。



だが、俺は潜ってきた修羅場の数が違う。『物理ダメージ無効』のスキルを持つ相手くらい何度も戦ってきた。



【エンチャントフレイム】



全ての物理ダメージを火属性に変換する魔法だ。これで俺は『物理ダメージ無効』の敵を倒してきた。



「……!?」



俺はここで事態を理解する。



()()()使()()()()()()()



なるほど、これがレンの策か。物理属性無効の敵に魔法を封じられる。倒す術がなくなる。



だが、甘い。それだけでは俺は倒せない。俺には圧倒的な防御力がある。正確にはロンベル様が与えてくれたこの鎧の力だが、俺には並の攻撃力ではダメージが通らない。



それにこんな遅い攻撃に当たるはずもない。俺は人形の攻撃を回避しようとした。



俺に人形の打撃が入る。



「あ?」



意味が分からない。今俺は避けたはずだ。こんな斬撃、受けるはずがない。



そこで俺は理解する。()()()()()()()



俺はそれでも焦らない。俺には最強の防御力がある。実際に先程の攻撃も俺には効かなかった。



この程度がレンの策なら拍子抜けだ。しかし、実際に困ってはいる。物理属性無効に魔法使用禁止ならこの戦いが終わらない。



俺がやられることもないが、戦いを終わらせることもできない。



いっそのこと、この部屋ごと力で破壊するか。またはあの宝石を壊すのも良いかもしれない。
















「待っていたよ、カーマイン」














俺に声がかけられる。



俺は慌てて振り返った。足が地面から動かないから、多少無理な態勢になる。



そこにレンがいた。レンは部屋の天井隅にいた。部屋の装飾の出っ張りに、足をかけている。



動いていなかったから俺の『動体感知』にかからなかったのだろう。



「レンちゃーん、やるねぇ、俺はまんまと罠に嵌められたわけだ?」



俺は陽気な声を出しながら、奴を殺す策を探す。移動は出来ないから、広範囲スキルを使う必要がある。



「無駄だよ、カーマイン、今広範囲スキルで俺を殺そうとしたでしょ?」



図星だった。実際使用しようとしても、スキルは発動されない。スキルも制限されているようだ。



「いやー、すごいねぇ、レンちゃんってさ、何者? 何でこんなこと知ってんの?」



「企業秘密でね、それより、カーマイン、お前とゆっくり話したかった、こんな場でもないと襲われるから話せないからな」



「ああ、俺も何も出来なくて暇なんだよ、話相手になってほしいねぇ」



「お前、エルザを殺す気ないだろ?」



俺は出来る限り反応を示さないように努力した。核心をついた質問だ。しかし、思わず黙り込んでしまう。それが肯定を意味すると分かっていながら。



「やっぱりか、おかしいと思ったんだ、エルザがやられるなんてお前しかありえない、だけど、お前は強すぎる、エルザが生き残れるはずがない」



「ただの気まぐれだよ、殺そうと思えばいつでも殺せる」



「嘘はいいよ、お前はエルザを殺さない、理由を教えてほしい」



苛立つな。俺は意識して落ち着いた声を出す。



「レンちゃん、理由なんて大したことないよ、ほら、エルザちゃん、別嬪さんじゃん、殺すには惜しいでしょ」



「そう、答える気はないか、じょあ、質問を変えよう、なぜベルゼブブ復活を狙う」



こいつは今までの人間とは別物だ。目が語っている。全てを知り尽くしている。意味がわからない。こいつはこの前、召喚された勇者という魔王を倒すための存在ではないのか。



レンは続ける。



「俺はお前と戦いたくない、お前が本当のことを言ってくれるなら、俺たちは協力できるかもしれない」



協力?



何が協力だ。



お前に俺の何が分かる。



あの絶望を知りもしない奴が、勝手なことを言うな。俺の苦しみをお前に分かってもらおうなどと思わない。



苛立つ。何も知らぬ他人が、軽々しい言葉を吐くな。








「黙れ、小僧があぁ!」














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