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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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強制縛りプレイ



遺跡の中は迷路のように入り組んでいる。その途中に山ほどのトラップがある。俺は記憶を頼りに進む。



「ストップ、そこの壁、前を通ると飛び出してきて、潰されて即死だから気をつけて」



「ストップ、そこの天井、下を通ると槍が落ちてきて即死だから気をつけて」



「ストップ、そこの床、踏んだら透き通って、下に落下して即死だから気をつけて」



「ストップ、そこの空間、理由わからないけど通ったら即死だから気をつけて」



まともに進むことが出来ず、ドラクロワが苛立ち始める。



そして、俺達はもはや10歩ごとに配置されている即死トラップをひたすら掻い潜りながら進み、少し開けた正方形の部屋の前に来た。中央には光るクリスタルが3つある。



「ストップ」



ここがこのシャルドレーク遺跡で最も難易度が高いギミックがある俺の目的地だ。



部屋に入る前に全員を制止する。



「この部屋は本当にやばいから話をよく聞いてくれ」



縛りプレイという遊び方を知っているだろうか。縛りプレイは自らに制約を設けることで、ゲームの難易度を上げる遊び方だ。



簡単に思えてしまうゲームを熟練したプレイヤーが楽しむための手法だ。



この部屋は通称『どえむ部屋』。縛りプレイを強制される悪魔の部屋だ。ただでさえ、難易度が高いLOLで縛りプレイをするなど、頭がおかしいとしか思えない。そんな思いを実現した部屋だ。



まず中央のクリスタルによって、制限されるものが決まる。選ばれるのは、『移動不可』『スキル使用不可』『魔法使用不可』『回復不可』がある。敵に付加として『物理ダメージ無効』『魔法ダメージ無効』『アイテム効果無効』も選ばれる。



どの制限をされるかは、クリスタルの色によって決まる。この色は部屋に入った瞬間にランダムで4つ決まり、その後は変更されない。クリスタルの範囲はドーム状にちょうど床全面を覆う。だから、部屋の外に出れば効果はなくなる。



その条件下で襲ってくる全てのゴーレムを倒さなくてはならない。全てのゴーレムを倒すことで、扉が開き、次の部屋に向かうことができる。



そして、次の部屋にも同じ制限クリスタルがあり、更に強化されたゴーレムが現れる。それを3回戦終えればクリアだ。



3つ目の部屋のゴーレムは異常な強さで、制限されながら戦うのがかなりきつい。



更にこれはスタッフの悪意なのか、間抜けなのか分からないが、これらのゴーレム、時間が経てばリポップする。リポップとは時間経過で再度出現することだ。



これのせいで難易度がバグり始める。なんと3つ目の部屋で最強ゴーレムと戦っている間に、1つ目と2つ目の部屋のゴーレムがリポップして乱入してくるのだ。頭がおかしいとしか思えない。



制限の組み合わせは部屋に入った時のランダムなので、この辺りは完全に運ゲーとなる。これによって攻略不可に陥ることも多い。



典型的なのが、『移動不可』だ。これも結構よく現れる。7つの選択肢から4つ選ばれるのだから、組み合わせは全部で35通り、その内『移動不可』が選ばれる組み合わせは、20通り、確率だと約57%だ。3回戦で一回も選ばれない確率は約8%。なぜかゲームが絡むと俺は計算が早くなる。




『移動不可』は効果範囲に入ってから3秒後にその場から移動が出来なくなる。回避特化の英雄達にとって最も困る制限だ。なぜ3秒の猶予があるのかというと、部屋に入ってしまった瞬間に発動したら、入り口のすぐ近くに立ち尽くすことになってしまうからだ。それではパーティ全員を部屋に入れられない。だから、中央まで歩いてくる3秒の猶予を与えている。



しかし、この条件でも防御力と攻撃力を高めれば、その場から動かずに襲ってくるゴーレムを倒すことは可能となる。



恐ろしいのは、敵を全て倒して次の部屋の扉を開いても制限が解除されない点にある。つまり移動出来ないので、次の部屋に行くことができない。もはや致命的な欠陥だ。



『イリュージョン』や『スイッチ』などの、移動系スキルも使用不可になる。自分の意思ではないノックバックや吹き飛ばしは効くので、うまく角度を調整して、ゴーレムから攻撃をもらい、次の部屋のドアに向けて吹き飛ばされるか『自爆ファイアー緊急回避』の要領で、足下に【ファイアーボール】を放ち、吹き飛ばされながら次の部屋に移動する方法もある。



『魔法使用不可』になってしまえば、魔法が使えないので、敵に吹き飛ばされるかアイテムで吹き飛ばされるしかない。



これで4人パーティ全員を移動させるとか、ありえない作業量になる。基本、ゴーレムはその間に何度もリポップする。きついのは次の部屋の扉開いているから、次の第二部屋のゴーレムも雪崩れ込んでくる。



次に『魔法使用禁止』と『物理攻撃無効』のセットが来ると終わる。魔法じゃないとダメージ与えられないのに、魔法が使用出来ない。魔法属性ダメージを与えるアイテムがないと詰む。



また単純に『魔法ダメージ無効』『物理ダメージ無効』が重なると詰む。精霊魔法以外にダメージを与える術がない。



このように、運にも大きく左右されるギミックだ。クリアするためには必要なアイテムだけ買い揃え、ひたすら組み合わせが良いことを祈りながら挑戦し続けるしかない。



ちなみに俺は1504回目の挑戦でクリアできた。比較的、早くクリアできてほっとした記憶がある。今では良い思い出だ。



「というわけで、制限されながらゴーレムを倒したら勝ちだ」



「ふん、簡単そうじゃねぇか、俺は全て理解したぜ! 要はボコボコにすれば良いんだろ?」



この脳筋は何も理解していない。



「違うわ、制限されるものが何かによって臨機応変に動くべきね、もし魔法が制限されなかったら私が戦うわ」



「俺は魔法が使えないからな、ドラと一緒に物理担当をするか」



「わん! 僕もぶつり」



皆のやる気に俺は驚いていた。今の話を聞いてなぜやる気出るのだろうか。



「いや、危ないからやらないよ」



「………」



俺の発言で皆無言になり、何を言っているんだという目で俺を見てくる。いや、普通に考えれば、ゲームでも死にまくりの運ゲーに現実で挑戦するわけがない。



やはりまだ皆とは価値観の食い違いを感じる。一般的な価値観を持つ俺に早く追いついてほしいものだ。



「俺たちは攻略をしにきたんじゃない、ここでカーマインを待ち伏せる」



俺の作戦はこの制限空間にカーマインを誘い込み、奴の強みを奪い取って、一方的に攻撃する。



その名も『どえむ部屋ホイホイオペレーション』DHOだ。何だか化粧品っぽい略な気もするが、気にしない。



「これより! オペレーションDHOを開始する!」



オペレーションが被っているか気にしない。なぜならかっこいいからだ。



「は? DHOってなんだ?」



ちょっと恥ずかしいので、ドラクロワの質問には答えない。



こうして俺達のDHOは始まった。





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