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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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シャルドレーク遺跡



俺達は真夜中になってシャルドレーク遺跡に到着した。小高い丘の上にあり、巨大な石の建造物がごちゃごちゃと入り組んでいる。



俺はジャスパーイベントでこの遺跡は経験している。途方もない回数、死にまくったからギミックは全て頭に入っている。



初見殺しはまだ優しい。一度死ねば2回目に回避できるからだ。一番きついのは運ゲーだ。もはや実力ではどうにもならない部分はただ無心で試行し続けるしかない。



恐らく普通のプレイヤーは、あれだけ殺されればもはや怒りでゲームを叩きつけるだろう。生粋の死にゲーファン以外には攻略不可能なダンジョンだ。



「みんな、気をつけてくれ、ここでは俺の指示を完璧に守ってほしい、絶対に勝手に動かないでくれ」



俺は全員に釘を刺す。特に脳筋のドラクロワとか怖すぎる。危機感のないポチも怖すぎる。



遺跡の入り口が開かれており、その前にはチェスの盤面のような黒と白のチェック模様のタイルがあり、苔が生えている。両脇にはドラゴンの像が置かれている。



「全員止まれ」



最初のギミックがここにある。当初、攻略法が発見されるまで、誰もダンジョンに入ることができなかった。



黒いタイルを踏むと、地面から針が現れ、即死する。これは防御力やHPなど関係なく即死する。カーマインは仲間になるキャラではないから、現実になったこの世界でどうなるかわからない。爆弾によって死ななかったのだから、あまり期待は出来ないが、この針で倒せる可能性もある。



このようなトラップは他のゲームでもよくあることだ。



しかし、LOLのトラップは似て非なるものだ。白いタイルだけを踏んで進めばよいのだが、途中でなぜか白いタイルからも針が現れて即死する。



謎解きが大好きなプレイヤーはここで、規則性を見出そうと何度も死にながら、どのタイルに針があるか割り出そうとした。



多くの説が出始めた。一つはタイルの色が違っている説。光の加減で同じ白いタイルでも種類が違うように見えるところもある。しかし、この説は映像分析班がタイルのテクスチャーに差がないことを割り出して、否定された。



次に出てきたのは、上から俯瞰して見た時に、罠がある場所に規則性がある、模様になっているのではないかという説だ。



針が出てきたタイルをメモして、マッピングし、どんな規則があるが確認する。



しかし、この説も否定された。ある時は針が出てきて、ある時は針が出ないタイルがあったからだ。



次に提唱されたのが、プレイヤーが決まったルートを通ることで、ゴールに行けるのではないか説だ。迷路のようになっている可能性を考えた。



しかし、同じルートを通っても前に出てこなかったタイルから針が現れて死んだ。



それならば、タイルを踏まないように『空中散歩』を利用するプレイヤーも現れる。しかし、意地でもギミックに挑戦させたいLOLスタッフはここでも手を打ってきた。



タイルを踏まずに空中を通って門に近づくと、周りのドラゴンの像が動き出し、炎による集中砲火を浴びて即死する。



次に物を投げてトラップがあるか確認するという原始的な方法にチャレンジするプレイヤーも現れる。しかし、これも失敗した。



物を投げて確かにトラップは発動する。それで安全を確認してから、自分が乗って何故か針が現れて即死する。



次に針が現れた瞬間に後退して回避できないか、という反射神経攻略法が提唱される。



かなりシビアなタイミングだが、これは可能だった。足先がタイルに乗った瞬間に、一気に引っ込めることでギリギリ針をかわすことができる。



しかし、結局はこの攻略法も現実的ではなかった。まず同じタイルでも針が出てくるときと出てこないときがあるのが問題だ。針が出てくるかチェックするために一瞬足で踏むが、もし出てこないときに足を引っ込めてしまえば、次に踏む時は針が出てくる可能性がある。



針が出てこないときは、そのままそのタイルに移動しなければならない。この判断がタイミングとしてシビアすぎる。



更に絶望するのが、次のタイルに触れることで、自分が今乗っているタイルを移動したと認識されるようで、安全だった今乗っているタイルからいきなり針が現れて即死することもある。



普通なら針トラップ程度で苦戦するゲームなどない。しかし、それがLOLクオリティ。当初誰も謎を解き明かすことができず、シャルドレーク遺跡に入ることすらできなかった。



そして、生まれた新しい説。今ではそれが真実だと思われている。



そもそも規則性ないんじゃね説。



初めの黒タイルだけ確定針で、その他は完全にランダム。後半に行けば行くほど確率が高まっていくという説だ。LOLではいつも通りだが、確率の設定をシビアにしすぎたせいで、何百人ものプレイヤーが何百回とチャレンジしても、誰も渡りきれない絶望のトラップになった。



俺は以上のことを皆に説明する。知っておけば暴走して、トラップに引っかかることはないだろう。



「くぅーん、それじゃあ、中に入れないよ」



「いや、入る方法はある」



俺達はその条件の中でタイルを渡り終える技を見つけた。英雄たちは決して諦めたりしない。1つは『イリュージョン』を使い続け、たまたまチェス版の向こう側に移動することを願う、運頼み戦法だ。



これは現実世界では通用しない。



だからもう一つの技、通称『ドラゴン騙し』を使う。これは空中を移動しながら、下に物を落として、あえてトラップを発動させる。そうすることで、ちゃんとタイルを渡っていると認識されて、ドラゴンの像が動かない。



俺達が試行錯誤の末にたどり着いた攻略法だ。



「ユキやギルバートは俺が背負って、『空中散歩』するよ、ドラクロワとポチは多分助走つけて幅跳びすれば、向こう側まで行ける」



ドラクロワが目算する。そして、ちょっと眉間に皺を寄せる。



「いや……ちょっと遠いんじゃねぇか? できるとは思うぜ、俺様はすごいからな、でも……ちょっと遠い気が」



柄にもなく、弱気な発言をしている。針による即死で脅しすぎたのかもしれない。



実は俺もちょっと遠いかもって思ってた。



「ああ、それなら良い方法があるから安心してくれ、それじゃあ、俺達が先に行くからポチは石をひたすらそこの黒いタイルに投げ続けてくれ」



「わかった! 石を投げ続ける!」



俺はユキを背負い、『空中散歩』で移動する。



「重くないかしら? 大丈夫?」



ユキはなぜか不安そうに確認してくる。300レベルオーバーの俺のステータスなら全く問題ないのだが、なぜ気にするのだろう。



俺が移動中にもポチがトラップを、発動させてくれるので、ドラゴンは動かない。



俺は2往復して、ユキとギルバートを渡らせた。



「よし! じゃあ、ポチ、トラップの発動は俺が代わるから、ドラクロワを投げてくれ!」



「わかった! ドラクロワを投げる!」



「え? はぁ?」



混乱するドラクロワをポチが持ち上げる。さすがの筋力だ。あの重さが異常に高いドラクロワを軽々持ち上げている。



「おい! ちょっと待て、待て待て待て、良い案って俺を投げるってことか!?」



「そうだよ」



「僕、今までよんそく歩行?だったから、投げるってこと初めて! 失敗したらごめんね」



「おいおいおい! 待て待て! 犬コロ! てめぇ、ごめんですまねぇだろうが!」



「ポチ、失敗は成功のもとだよ、失敗を恐れずに挑戦しよう」



「おいおいおいおい! 恐れろよ! 失敗は失敗だろ! 俺が死んだらもう成功できないだろ!」



「わかった! じゃあ、投げるね」



俺は石を投げてトラップを発動させておく。



ポチは大きく振りかぶる。



「えい!」



「くそやろおおおおお!」



力加減が分からないのか、ミサイルのように回転しながら、ドラクロワが凄まじい速度でこちらに飛んできて、頭から壁にめり込んだ。



まるでかの有名な野球選手のレーザービームを彷彿とさせる投擲だ。



「やった! 成功した!」



「よくやった! ポチ! じゃあ、ポチもこっちにジャンプしてくれ」



瓦礫から頭を抜いたドラクロワはご立腹だった。



「あとでぜってぇ、ぶっころす!」



意外にポチとドラクロワは気が合うのかもしれない。仲良くなりそうだ。



ポチは軽くジャンプして、あっさりチェス版を飛び越えた。



「よし、中に入ろう、中もトラップてんこ盛りだから、注意してくれ」



俺達はシャルドレーク遺跡の中に入っていった。






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