修行の成果
少し頭痛がした。昨日の酒が残っているようだ。俺はまどろみながら、一緒のベッドで寝ている大切な存在を意識した。
鳥の声が聞こえ、カーテンの隙間から明るい光が差し込む。目の前の可愛らしい寝顔を見て、俺は幸せな気持ちでいっぱいだった。
やっぱりポチは最高だ。
俺は不純な思いで、ポチは庭にいてもらおうなどと、少しでも考えた自分が許せなかった。
絶望に打ちひしがれ、部屋で涙を流していた俺の肩に、ポチは肉球をポンと乗せた。
そのつぶらな瞳は全てを理解し、受け入れてくれていることがわかった。
まだ諦めるのは早い。諦めたらそこで試合終了だと偉大なる教師も言っていた。俺には主人公補正があるはず。一緒に冒険をしていく中で、デレる時が必ず来る。
俺は気分を切り替えて、ポチを起こし、食堂に向かった。食堂では既にリンが起きていた。
「おはよ、レン」
リンは爽やかにそう言った。昨日あれだけ飲んだのに、元気いっぱいだった。よく見ると額に汗が浮かんでいる。
「ちょっと早く起きたから、外を走ってきたの」
アスリートのような発言をするリンを眩しく思いながら、俺は今日の予定を告げた。
「今日は朝食を摂ってから、教会に行って俺の職業を変えて、その後、昨日と同じようにブルースライムの討伐に行くぞ」
できるだけあのイベントまでにレベルと職業熟練度を上げておかなければならない。
リンはまた修行すると分かり、目を輝かせていた。
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その日から俺たちは一週間、青壁の洞窟に毎日通いレベリングを行った。その合間にリンの修行をした。リンの上達速度は凄まじく、スポンジのようにあらゆる技術を吸収していった。既にシャドウアサシン級ぐらいはあるだろう。
俺のレベルは74まで上がった。レベルが上がるにつれて、次のレベルに必要な経験値は上昇するため、そろそろブルースライムの経験値では足りなくてなってきた。
俺は道化師に続いて、魔法使いと戦士を極めた。魔法使いと道化師を極め上級職のマジシャンも極めた。また戦士と道化師により、上級職バーサーカーも極めることができた。
魔法使いのスキル
【ウインドカッター】風の刃を飛ばす初級魔法。
【アイスランス】氷の槍を飛ばす初級魔法。
【フレイムサークル】炎を広範囲に広げる中級魔法。
【サイクロン】風を広範囲に広げる中級魔法。
戦士のスキル。
『スラッシュ』前方への範囲物理攻撃。
『シールドバッシュ』盾で相手を吹き飛ばし、距離をとれる。
『挑発』ヘイトを自分に向け、攻撃対象を自分にする。
『力溜め』力をため、次の攻撃のみダメージ量を1.5倍にする。
マジシャンのスキル。
『イリュージョン』移動可能な場所へランダムで瞬間移動する。
『ドッペル』同じ行動を行う分身を一定時間作り出す。
『エアリアル』数秒間、空中を浮遊することができる。
『ジャッジメント』ランダムで何かが起こる。
バーサーカーのスキル。
『捨て身斬り』ダメージ量が2倍になるが、使用するたびに最大HPの20%のダメージを受ける。
『狂気乱舞』広範囲攻撃でダメージ量が2倍になる。使用する度に最大HPの50%のダメージを受ける。
『絶命斬り』敵単体にダメージ量が8倍になる。使用する度に最大HPの100%のダメージを受ける。
『狂戦士の怒り』発動すると、一定時間最大HPからの減少分だけ攻撃力が上昇する。
以上が俺が手に入れたスキルだ。マジシャンは攻撃スキルは一切覚えないが、優秀なスキルを手に入れられる。『イリュージョン』は回避で重宝するし、『ドッペル』も非常に強力だ。『エアリアル』も初期の移動スキルにプラスして、回避に幅が生まれる。『ジャッジメント』は某国民的RPGにあるようなランダムに何かが起こるスキルだが、この世界では絶対に使わないだろう。
英雄の中には『ジャッジメント』の効果が何パターンあるのか検証を行う者もいたが、終わりが見えなかった。レパートリーの数が尋常ではなく、何のためにゲーム製作者がここまでの力を入れたのか理解が出来ない。
そして、その効果は異常だった。効果が極端過ぎて、絶体絶命の状態を覆すこともあった。しかし、悪い方にも振り切れており、そちらの効果が出れば終わりだ。
体感としては、3分の2くらいの確率で悪い方の効果が出る。とても現実になった今、使えるスキルではない。
バーサーカーはLOLでは一番使い勝手がいい。スキルを使い、HPを減らし、HPが少なくなることで『狂戦士の怒り』で攻撃力が上昇していく。
ボス戦は基本一撃死なのだから、防御力やHPなど不要だ。攻撃特化のバーサーカーは非常に使いやすい。
それにダメージの重ねがけができるのも強い。LOLは原則ステータス補正の重ねがけはできない。たとえば攻撃力を1.2倍に上昇させる魔法【パワーアップ】は重ねがけは効果がない。
しかし、『捨て身斬り』と『狂戦士の怒り』は効果が重複する。これは内部的に『捨て身斬り』はダメージ量上昇、『狂戦士の怒り』は攻撃力上昇だからだ。
たとえば、攻撃力100で敵の防御力が100だとする。『狂戦士の怒り』で攻撃力が150に上昇し、『捨て身斬り』を放つと、通常なら150-100で50ダメージだが、そのダメージ量が補正されて50×2で100ダメージとなる。補正される場所が違う場合、重ねがけができるのだ。
『絶命斬り』はもはやネタだろう。ポチの『ワンモアチャンス』かレアアイテム命の腕輪がないと使った瞬間にゲームオーバーになる。
リンもレベルが52まで上がった。このレベルまで上がり、大器晩成型の恩恵が出始めている。同じレベル帯では平均的なステータスまで来ている。更にスキルも取得した。
【ウインドカッター】風の刃を飛ばす初級魔法。
【ファイアーボール】火球を飛ばす初級魔法。
【ライトニング】中範囲に稲妻を落とす初級魔法。
【フレイムサークル】広範囲を炎上させる中級魔法】
【ハリケーン】広範囲に竜巻を起こす中級魔法。
【サンダーボルト】敵一体とその周囲に落雷を起こす中級魔法。
【パワーアップ】攻撃力を一定時間1.2倍にする。
【ガードアップ】防御力を一定時間1.2倍にする。
【スピードアップ】素早さを一定時間1.2倍にする。
【ハイケア】味方1人のHPを最大HPの50%回復させる。
『根性』HPが0になる攻撃を受けると、30%の確率でHP1で耐えきることができる。
『ハイガード』発動中、ほかの行動が一切できないが、受けるダメージ量を0.5倍に出来る。
『成長』パーティの取得経験値が少し増える。
『生命魔法』一定時間、MPの代わりにHPを消費して魔法を使用できる。
以上だ。魔法は風と炎、雷をメインで使える。こう見ると非常にバランスが良い。ステータスも偏りなく伸びている。俺はゲーム時代リンを使っていなかったから、あまり知らないがこのまま高レベルになればかなりの戦力として期待できる。
そもそも俺はゲーム時代運が悪くリンが現れたのが、終盤だった。そこからレベリングする気力もなく、既に仲間も強力だったからあえて仲間に加えなかった。
ゲーム時代の最終パーティーは、忠犬ポチと大魔導ソラリス、覇王ウォルフガングだった。
ウォルフガングは魔王軍の幹部だ。魔王城である条件の下、倒すことで仲間になる。超肉弾戦タイプ。圧倒的な防御力と膨大なHPを持つ、攻撃力も並外れており、スキルも攻撃特化だ。魔法は一切使えないので、物理攻撃無効の敵には勝ち目がないがソラリスがいるので何の問題もない。
それまでは長い間、鋼鉄のガランを仲間にしていたが、ウォルフガングは完全に上位互換だったので乗り換えた。
バランス型としてはラインハルトがLOLで一番だと言われるが個人的にはリンの方が良い。
まずラインハルトは性格がムカつく、リンは応援したくなる。ラインハルトはイケメンでムカつく、リンは可愛い。ラインハルトは自分が対象のスキルしか使えない、リンは味方をサポートできる。
個人的な理由も多いが、リンを仲間にできたことは幸運だった。