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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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地の利


__________________




俺は横たわっているエルザを見つけた。まだ青い粒子になってないから、生きていることは分かる。



剣が折れている。戦いの跡もある。俺は不思議に思った。



エルザは全キャラの中でもかなり高いステータスを持つ。俺だからこそ、赤子を相手するように戦えているが、普通ならばエルザの『天歩』に反応すらできない。



そのエルザがここまでやられる相手がいるとは思えない。



カーマインならば可能だろうが、そうなると別の疑問が湧く。カーマインが相手ならば、間違いなくエルザは殺されているからだ。生き残っていることがおかしい。



俺は気絶したエルザにエクストラポーションを使った。これで命に別条はないだろう。エルザを担いで、歩き出す。



ここはグランダル城下町の端にある墓地だ。ゲンリュウの道場で、エルザに宛てられた手紙を発見したことから、この場所がわかった。



その手紙はエルザの性格をよく熟知して書かれていた。誘い出して1人にするためのものだ。エルザなら罠と分かっていても向かうだろう。



何があったのかはエルザに聞いてみないと分からない。俺は墓地から移動しながら、地面に出来ている傷を見つけた。



これは場所からして、エルザが戦ったものではない。



俺の中で1つの仮説が頭に浮かんでいる。しかし、俺はそれを信じたくはなかった。



その仮説を信じてしまえば、俺の剣が鈍る。それが結果として俺や仲間を危険に晒すかもしれない。



この理不尽な世界では、甘い考え1つが命取りになる。



俺はエルザをゲンリュウの道場に届けた。気を失っている。これは状態異常ではない。ゲームではなかったことだ。



リンにエルザのことを任せた。俺はそろそろ行動を決めなければならない。逃げているだけでは解決が出来ない。



エルザが素振りをしていた稽古場に向かう。ここは誰もいないので静かに集中できる。胡座を組んで目を閉じた。この世界に来てから、集中状態が少しずつ深くなっている。



視界が暗くなり、俺は思考の海に沈んでいく。深く、より深く。聞こえていた小鳥の声や風の音が遠のいていき、完全に消える。



()()()



ゴールの認識。最終目的はカーマインの討伐だ。カーマインを倒さない限り、エルザイベントは終わらない。



現実世界で蝿の円環から、ベルゼブブが解放されれば、グランダル王国の多くの命が失われる。それだけはあってはならない。



このまま、俺が蝿の円環を持ち逃げするのも得策ではない。いつカーマインに見つけられるか分からない状態で、今後の旅は出来ない。不意打ちを喰らえば終わりだ。



カーマインの強さは純粋なものだ。よくあるぶっ壊れたスキルや特殊な効果によって強いのではない。単純にステータスが高く、スキルが強力だ。



だからこそ、対策が立てづらい。



300レベルまで仕上げたキャラでもステータスが全然足りない。ハイ系のバフでようやくそのステータスは何とかなるレベルだ。覚醒ポチよりもステータスが高い。



仲間になるキャラではないので、強さに際限がない。そもそもゲームでは戦うことが出来るのが、ベルゼブブを討伐した後なので、それを前提にしたレベル設定になっている。



防御力が高すぎるので、通常攻撃ではダメージが通らない。俺は斬鉄剣があるから問題ないが、それ以外の武器では最大級のダメージを与えられるスキルでようやくダメージが通る。



魔法防御力も高く、ソラリスやアリアテーゼクラスでないとダメージが通らない。ユキならダメージは与えられるだろうが、わずかなものだろう。



攻撃力も高く、防御力特化の300レベルキャラで通常攻撃一撃を耐えられるぐらいだ。攻撃スキルを使われたらどんなキャラでも即死する。



英雄にとって厄介なのが、カーマインは広範囲に当たり判定がある攻撃スキルをよく使うことだ。当たり判定が狭ければ、英雄の回避術により、いくらでも戦える。それが出来ないから、強い。



素早さも俺たちよりかなり速い。英雄でも、ギリギリ反応できるレベルだ。それでもモーションからの未来予知で何とか通常攻撃は回避できる。



しかし、広範囲スキルを使われてしまえば、もはや未来予知していても死ぬ。



状態異常の完全耐性を持っているが、デバフ系は耐性がないので効果がある。



そして、魔法も使用してくる。物理系のキャラには『物理ダメージ無効』などのスキルで対応できるが、カーマインはその隙がない。



俺のマジックナイトのスキルである『魔法剣』と似た手法で戦うことができる。エンチャント系の魔法で、自身の物理属性ダメージを他の魔法属性に変換できる。



勝つために、戦力を増強させるのは今からだと間に合わない。ならば、今持っているカードで勝ち切らないとならない。



俺はそのための道筋を模索する。無数の選択肢から、正解を探す。



カーマインと戦う上で、俺にアドバンテージがある部分が1つだけある。それはカーマインが追う立場だということだ。



つまり戦う場所はこちらで決めることができる。それならば、地の利を最大限使える。



俺には一つ心当たりがある。ゲームではイベントで戦う場所は決められていた。現実になったからこそ、勝てる可能性が高まる。



考えうる最高の舞台はあの場所だ。LOLスタッフの悪意が凝縮し、プレイヤーを幾度となく絶叫させてきた嫌がらせダンジョン。



シャルドレーク遺跡。



グランダル王国から北に進んだ位置にある。徒歩で移動可能だ。ここはあの考古学者ジャスパーのイベントで回ることになる場所だ。



シャルドレーク遺跡には敵モンスターが出現しない。正確にはギミックの一つとして、ゴーレムは出現する。余裕のように思われるが、やはり無理ゲーだ。



ここのテーマはギミックだ。トラップがそこら中にあり、その悪意に何度も嫌というほど死ぬ。



もはや初見ではクリア不可能なレベルだ。何度も死にながらクリアしていくことになる。



ここに籠城する。カーマインは蝿の円環を諦めない。必ず乗り込んでくる。そこで、決着をつけよう。



方針は決まったが、まだ栄光への道(デイロード)は見えない。



ゲームでも実際に俺はカーマインと戦ったことがない。その前のベルゼブブで断念した。だから、俺は経験ではなく、データとして知識があるだけだ。



それだけでは明確な勝ち筋を見出すことが困難な相手だった。



俺は目を開けた。再び時が流れ出し、自然の音が蘇る。




俺は他の仲間にも移動の準備をするように声をかける。道場の他の人たちにも行き先を告げた。カーマインが聞きつけてくれることを期待しての行動だ。



既に夜が近づいていた。人通りが少なくなれば、俺も危険だ。蝿の円環を持っている限り、俺はカーマインに狙われる。早く移動を開始しよう。



俺は道場を出てダインの鍛冶場に向かう。もう仕事を終わるタイミングだったのか、ダインは道具の片付けをしていた。



「お! 同志じゃないか! 戻ってたんだな」



俺のことを同志と呼ぶ。別に俺はマロンちゃんのファンではないのだが。



「ダイン、申し訳ないが急ぎの仕事を頼みたい、実は武器作成の依頼がある、材料はこれで」



「同志には恩があるからな! 何だって作るぜ! また、マロンちゃんグッズがあったらよろしくな!」



ダインは快く引き受けてくれた。



その後、リリーさんのアイテムショップで必要なものを買い揃える。今回の作戦はリン抜きで行うから、ハイ系のバフ効果のあるアイテムも揃えた。またデバフ系も念のため揃えておく。




グランダル王国の入り口には既に仲間達が集まっていた。ユキ、ギルバート、ポチ、ドラクロワだ。リンにはエルザに付いていてもらう。カーマインでなければ、リンがエルザを守り切れる。エルザ自身も強いから問題はないだろう。



「旦那、それでどこに奴を誘い出すんだ?」



「目的地はシャルドレーク遺跡だ」



プレイヤーを絶望に叩き落としてきたLOLスタッフの悪意が、今度は俺たちを守る最強の盾になる。





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