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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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夢の器



奈落には悪魔という種族がいる。悪魔は特殊な性質を持つ。彼らは一度約束をすると、破ることが出来ない。もし約束を反故にしてしまうと存在が消滅してしまう。



同時に彼らと約束をする者にも、同様の制限をかけることができる。つまり悪魔は契約を遵守する存在だ。



仲間に出来る悪魔もいる。マモンやベルフェゴール、アスモデウスなどだ。状態異常の最上位、七つの大罪系のスキルを使えるのも悪魔だけだ。



ベルゼブブが暴食状態になれるのも、その1つだ。



ただ悪魔は七つの大罪系状態異常を抜きにしても、コスパの悪いスキルが多い。大きなデメリットを内包するスキルばかりで、扱いづらかったので、俺はパーティには加えなかった。



そんな悪魔の中で、過去に大きな被害を出した悪魔がいる。トロイメントだ。



トロイメントは夢の中に住む悪魔で、夢の中に対象を永遠に閉じ込める。眠り病という名前で、目が覚めずに衰弱していく病気が流行ったが、それはトロイメントの仕業だったという設定だ。



トロイメントはある人物を夢の中に誘ってしまったことで、封印された。もう誰かは容易に想像がつくだろう。そう、我らがハイスペック代表、ソラリスさんだ。



もはやソラリスが有能すぎて怖すぎる。夢の中でソラリスにフルボッコにされた哀れなトロイメントは、あっさり封印をされた。ちょっとトロイメントに同情してしまう。手を出す相手を間違えた。最も喧嘩を売ってはダメな相手だ。



そんなトロイメントを解放することで、俺の最高の仲間ポチは最強の道を進むことできる。



ポチ覚醒には非常に長いイベントが必要となる。まず獣人の国アニマでライオンの獣人である王ライガスによるペット探しイベントを受諾する。



これもペットと言いながら、実は猫や犬ではないという、あるあるネタが入ってくる。そして、このイベントでライガスと仲良くなることで、獣人の覚醒者の話を聞く。



先代の王が、悪魔トロイメントと契約したことで、獣人は覚醒した力を手に入れたという話だ。もとより獣人は迫害の対象であり、魔法も使えないため、戦闘能力が低かった。



他の種族から攻められ、領土を奪われ、森の奥深くのアニマに移り住んだ。



そこで、トロイメントの力を借り、覚醒者を生み出した。ライガスもその覚醒者の1人であり、凄まじい強さを誇る。そして、復讐のためにアニマを出たオオカミの獣人、ウルカンの話を聞く。



ウルカンは同じ覚醒者であり、他の種族を根絶やしにしようとしている。ライガスからかつての友ウルカンを止めてほしいと依頼される。



という中々奥が深いストーリーだ。紆余曲折あり、ウルカンを倒し、最後にはグランダル王とアニマの王ライガスが友好協定を結ぶというハッピーエンドだ。



この後、トロイメントが封印されている夢の器を手に入れることができ、それをポチに使用することで、ポチの夢の中に入ることができる。



そこでソラリスのように、トロイメントを倒すことができれば、ポチは新しいスキルを取得する。そのトロイメントを倒すのも例を漏れずに無理ゲーなのだが。



ちなみにポチ以外にも獣人や動物キャラなら使用できる。猫剣士ミアなども覚醒者にすることができる。それで大幅に戦力が強化される。



以上のことを俺はつい皆に熱弁していた。



「旦那は一体どこからその情報を得てるのか、いつも不思議に思ってる」



「レン、ポチが強くなるのは分かったけど、何度も言うけど、今からアニマに行って、そんなことをする時間はない」



「ん? 別にアニマなんて行かないよ」



さすがの俺もわざわざ今からかなり距離があるアニマに行くつもりはない。ライガスと仲良くなるのも面倒だし、ウルカンとか強すぎて戦いたくない。そもそもそんな必要がない。



「だって、もう夢の器持ってるしな」



俺はアイテムボックスから夢の器を出して、机に置いた。東洋の骨董品のような陶器だ。蓋がついている花瓶と表現するのが正しいと思う。



「……いつ手に入れたの?」



何かに気づいたリンはジト目で俺を見てくる。俺は誤魔化すように頭をかいた。



「いや、これもグランダル王国を救うためだからな、ポチが強くなれば、国が平和になる! 全ては国益のためだ」



だから、俺は悪くないはず。そう自分に言い聞かせる。



本来、夢の器はアニマとグランダル王国の友好協定が結ばれた日、グランダル王から感謝を込めて、宝物庫から1つ褒美をもらえるというイベントがある。



そこで、宝物庫に眠る夢の器を入手することができる。



俺は宝物庫に侵入したとき、蝿の円環だけではなく、夢の器も持ち出した。俺はあの時、()()()()()だけを持っていった。



夢の器は間違いなく必要なものだ。



「泥棒」



リンの言葉がぐさりと刺さる。俺のガラスのハートは木っ端微塵だ。



「レンは悪くないと思うわ、国を守るためには手を汚すことも必要よ」



ユキが慌ててフォローしてくれる。ユキは本当に良い子だ。



「ということで、ちょっとポチと出かけてくる」



俺は気を取り直して、道場を出ようとする。



「どこに行くの? もし途中でカーマインにあったら……」



ユキが心配そうに問いかける。



「大丈夫だよ、奴は国民にとって有名人だ、さすがに人通りの多い所で俺を襲わない、それにどちらにせよ同じだよ、ここにいようと危険度は変わらない」



俺の言葉の意味がわかったのか、そこからは誰も俺を止めなかった。カーマインの強さなら全員が揃っている状態で襲われても俺たちは殺される。人数は関係ない。



「それに、夢の中で手伝ってもらわないといけない奴がいる、気に食わない奴だけど、あいつのスキルがどうしても必要だからな、無理矢理連れて行く、ポチ! 散歩に行くぞ!」



「わん!」



ポチと俺は走り出した。道場の石段を駆け下り、アイテムショップでリリーさんに挨拶する。リリーさんのお店はあの後順調に経営を続けられているようだ。



俺はリリーさんから、眠り粉を購入した。単純に状態異常睡眠にする効果だ。わざわざ説得するのも面倒なので、無理矢理眠らせて連れて行こうと思う。



ふと、あれ、これって誘拐じゃないかな、と頭をよぎった。しかし、俺は大丈夫だと判断した。勝手に眠らせて、無理矢理ポチの夢の中に連れて行って、スキルを使わせるだけだ。問題なし。



それにあいつは嫌な奴だから、そうゆうことをされてオッケーなキャラだと思う。何気に酷いことをしている自覚はある。



すぐにその人物は見つかった。白昼堂々、美女をナンパしている。他にもナンパライバルがいたようで、2人のナンパ男に困った美女が挟まれていた。



何て低次元なんだ。俺は呆れてしまう。むしろ間に挟まれた美女が可哀想だ。



周りの皆も見て見ぬふりをしている。誰かあの子助けてやれよ、と思う。俺は今ちょっと忙しい。



その時、背後から男性が声をかけた。勇気がある紳士だ。



「ラインハルト、そこのお嬢さんが困っている、やめなさい」



言い争いをしていたラインハルトは男を見もせず、邪険に扱う。



「黙っていてくれないか? これは彼と僕の問題だ、先にこの麗しのレディに声をかけたのは僕だ、彼女もこの僕と遊びにいくことを望んでいる! それに彼と僕は存在が別物だよ、なんだい? 君のそのちっちゃくずんぐりむっくりな体型は? そんな容姿でよくこのレディに声をかけられたね」



ラインハルトはうざったらしく相手を煽る。声をかけた男性がラインハルトの肩に手を乗せた。



「もう一度言おう、彼女が迷惑をしている、やめなさい、それともこの私の言うことが聞けないのか?」



「うるさいなお前、この僕に指図するなんて何様……」



ラインハルトが手を振り払いながら、振り向く。そして、その男の顔を確認する。



わなわなと震え出し、顔から血の気が引いて行く。



「ち、ちちちち、父上様ではありませんか!!」



そこから凄まじく研ぎ澄まされた無駄のない動作で、土下座をする。あまりの美しさに俺は目を奪われてしまった。



声をかけたのは、ラインハルトの父親、ジェラルドだった。







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