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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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不死身のゴリラ



俺たちは一旦全員でゲンリュウの道場に移動した。道場は十分な広さがあるし、ゲンリュウもいるので護衛にもなる。この城下町で一番安全な場所だ。



そこで俺のパーティの皆にカーマインが恐らく生きていることを伝えた。俺が知るカーマインの強さも伝える。



俺の話を聞いて、ギルバートは表情に影を落とした。



「旦那……、聞く限り俺たちに勝ち目はないように思えるんだが」



「ふん! この俺様なら余裕だな!」



ドラクロワは無視しておいて、ギルバートの懸念は最もだ。普通に考えれば、勝てる見込みはない。戦力の増強が不可欠だ。



俺はこの後の行動を考えた。本来エルザイベントではこの後、反乱軍のアジトを壊滅させるイベントがある。



今回の騒動を起こした反乱軍のアジトの情報が入り、再びグランダル王が狙われないように、エルザが俺たちに頼み込んでくる。



エルザは「私は王女ではない、ただの騎士だ」とかっこいいセリフを口にし、共に反乱軍のアジトを壊滅させるという流れだ。



これも当然、安定の無理ゲーとなる。反乱軍自体が強いのもあるが、反乱軍の飼っているモンスター、シルバーバックがやばい。



シルバーバックは巨大なゴリラの姿をしていて、250レベルパーティでようやく倒せるほどの強さだ。だから、全員300オーバーで、チートなユキやドラクロワがいる俺たちが負ける道理はない。



しかし、シルバーバックが恐ろしいのは、ステータスではない。英雄達からはその異常さから、不死身のゴリさんという愛称で呼ばれている。



シルバーバックは初め、アジトのある部屋に閉じ込められている。反乱軍の者達も、手に負えないからだ。



そして、反乱軍が追い詰められると自暴自棄になり、シルバーバックを解放する。ゲームでよくある流れだ。



しかし、そこでプレイヤーはおかしな現象に遭遇する。死闘を繰り広げ、ようやくシルバーバックを倒したあと、奥に進むと再びシルバーバックが現れたのだ。



ボスモンスター2匹目など、訳が分からない。そして、そのシルバーバックを苦労して倒したあと、3匹目のシルバーバックが現れた。



すぐに英雄の中の検証班が、この事態を調査した。そして、そこに恐ろしいバグがあることが判明した。



このイベント、追い詰められた反乱軍がスイッチを押すことによって、扉が開きシルバーバックが現れるという流れだ。



検証の結果、このイベントの発生条件は、シルバーバックが閉じ込められている部屋の外に存在しないことと反乱軍の残り人数が30%を切ることになっている。



そう、何とこのイベント、シルバーバックを倒すと閉じ込められている部屋の外にシルバーバックがいないことになり、シルバーバック出現イベントのフラグが成立し、再び反乱軍がスイッチを押して、シルバーバックを解放してしまう。



一体何体のゴリラを飼っているんだと突っ込みたくなるが、ボスモンスターが倒しても倒しても現れるという地獄を経験することになる。



しかも、このイベントはシルバーバックを倒さないと先に進めることができない。



なので攻略法として、一体目のシルバーバックが解放されたら、シルバーバックを倒さずに逃げ続けながら、残った反乱軍の残党狩りをし、全員を倒してから、シルバーバックを倒す必要がある。



スイッチを押す反乱軍がいなければ、シルバーバックを再び解放することはできないからだ。ちなみに自分でスイッチを押しても、シルバーバックが現れる。



もう一つの攻略法もある。スイッチが押されるよりも前に、『ドッペルスイッチ』で部屋の中に侵入し、狭い空間でパーティがいないソロ状態でシルバーバックを倒す。これでシルバーバックは復活しない。



検証班は当時このバグを調べ上げた。ちなみに俺もその時の検証班の一員だった。



そして、詳細が判明した。このイベントはスイッチを押して、シルバーバックが飛び出した後、すぐに扉が閉じて、スイッチが押される前の状態に部屋がリセットされていた。



シルバーバックが外にいる状態で、シルバーバックの閉じ込められた部屋に『ドッペルスイッチ』で入ると、中にもシルバーバックがいるという意味不明な状態になる。



俺は個人的に、これはバグではなく仕様だと思っている。さすがにデバッグで気づかないはずがないし、わざわざ部屋をリセットする必要がない。間違いなく、これはLOLスタッフの真心のこもった純粋な悪意だと思っている。



LOLスタッフはいかにプレイヤーを絶望させるかを考えている。彼等には難易度という意味を今一度教育すべきだ。しかし、ただでは転ばないのが俺たちだ。



俺たち英雄はこの悪意を利用しようと考えた。部屋がリセットされるならば、あらかじめ置いておいたアイテムもリセットされるのではないか。それを利用すればアイテム無限増殖が出来るかもしれない。



アイテム無限増殖。それはRPGを愛する全プレイヤーの夢だ。



しかし、その計画は泡沫の夢となった。



確かにアイテムも込みで部屋はリセットされる。しかし、増殖するためにはアイテムをゲットした上で、もう一度部屋をリセットさせるしかない。この機会が存在しなかった。



少し複雑ではあるが、アイテムを置き、その状態を記憶させ、アイテムを入手する。そして、リセットして再度現れたアイテムを拾う。これで増殖が完成する。



スイッチが押され、扉が開き、シルバーバックが飛び出してきて、すぐに扉が閉まる。閉まった瞬間、開く前にリセットされてしまう。アイテム無限増殖のためには、開いた瞬間から閉じる瞬間までの間に、部屋のアイテムを回収しなければ成立しない。



これが時間的に不可能だった。そもそも、シルバーバックが飛び出してくるから、入ろうと思っても吹き飛ばされるし、うまく入り込んでアイテムを入手しても、扉が閉まるまでに部屋を出るのが間に合わない。



扉が閉まってしまえば、部屋はリセットされる。つまり、自分がいない状態にリセットされる。もし中にプレイヤーがいれば、画面が真っ暗になり、何も操作できないという状況に陥る。



こうして、俺たち英雄はスタッフの悪意に敗北したという歴史がある。



まあ、今は正直どうでもいい。爆弾解除イベントが成功していないのだから、反乱軍アジト襲撃イベントにはならないだろう。



わざわざ、反乱軍のアジトに向かうのも面倒だし、いつカーマインが現れるかわからない。そんな悠長なことはしていられない。



それに反乱軍アジトイベントがなければ、次のイベントが起こらない可能性がある。エルザイベントのメイン、王都陥落イベントだ。



アジトを壊滅させ、王都に戻ってくると、王都で煙が上がっている。中にはモンスターと反乱軍が暴れているというイベントだ。



現実になった世界で、グランダル城下町の人々を危険に晒したくない。王都陥落イベントを起こさないためにも、アジト壊滅イベントはクリアしないのが得策だ。



やはり逃げるのが一番か。



俺は今後の行動を決める。グランダル城下町にいれば、いざカーマインが襲ってきたとき、他の者達に危害が及ぶ可能性がある。



だから、誰にも被害の出ない場所で戦うべきだ。奴は俺が蝿の円環を持っているかぎり、どこまでも追いかけてくるだろう。



だが、逃げても勝ち目はない。少なくとも今の戦力では足りない。絶対に力を借りなければならない必須な戦力がある。



「よし、戦力を強化しよう」



ずっと黙って考えていた俺の発言を聞いて、リンが尋ねる。



「今から修行するってこと? さすがにそんな余裕はないと思うけど」



「いや、修行はしない、しなくても大幅な戦力アップは見込める、彼の力を引き出せればね」



俺はその者を見つめた。一同が俺の視線を追い、()()()()



そろそろ彼の力が必要だ。彼には目覚めてもらうしかない。皆から注目され、彼は可愛く首を傾げた。





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