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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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王城での出会い



翌朝、ゲンリュウの手配で謁見が許され、俺たちは王城に向かった。エルザはエルザとして謁見をするので、いつもの白銀の鎧を着ていた。念のため、兜で顔を隠している。



入口で武器を預かられてしまう。これは王と会うのだから、当然の措置だろう。王からの指示で、唯一ゲンリュウのみが帯刀を許されていた。



門番に中に通され、赤い高級そうな絨毯の上を俺たちは歩く。ゲンリュウはいざという時にエルザを守るために、彼女のすぐ後ろに待機している。



俺は移動しながら、様子を確認する。何人かの警備の兵士達が後ろをついてくる。



「やあ、ゲンリュウじゃないか! 久しぶりだね」



若々しい声が聞こえ、俺たちは立ち止まる。そこには俺より少し背の低い少年がいた。



品位を感じさせる身だしなみで、利発そうな目をしていた。



「これはロンベル殿下、ご無沙汰しております」



ゲンリュウがお辞儀をするので、俺も真似をしておく。正直この辺りの所作はよくわからない。



「かしこまらなくていいよ、今日は父上の見舞いに来てくれたのかい?」



「ええ、そうです」



「最近、父上は体調を崩されているからね、早くよくなるといいんだけど」



ロンベルは後ろで控える俺たちに目を向ける。



「やあ、君たちもお見舞いにきてくれたんだね、はじめまして、私はロンベル、この国の王子だ」



「俺はレンです」



とりあえず一番近かった俺が自己紹介をする。ロンベルは俺に興味があるようで、目が輝いている。こうゆう所は年相応に見える。



「君があの邪龍を打ち倒した英雄だね! 君はこの国を救ってくれた、本当に感謝しているよ」



「いやー、それほどでも」



「今度もっと武勇伝を聞かせてくれないかい? 私は立場上、中々危険な場所にはいけないからね、冒険者の話を聞くのが好きなんだ」



「もちろん、良いですよ」



ロンベルは終始上機嫌に俺たちと会話を続けた。



「悪いね、父上との謁見があるのに、時間を取らせてしまった」



「いえいえ、そんなことはありません」



ゲンリュウが謙遜する。



「つい楽しくなってしまってね、レン君、今度個人的に君を呼ぶよ」



「わかりました、その時はもっと楽しい話をしますよ」



「それは期待できるね」



ロンベルはにっこりと笑った。



俺はその笑顔を見て、とても苦手なタイプだと再確認した。



ロンベルは良くも悪くも王族としての英才教育を受けている。今の会話でエルザとの違いがよく分かった。



彼にとって、コミュニケーション能力すら王族の資質だ。笑顔や、相手への興味など、彼は計算の上で行動している。



俺は現実世界で、頭の良い世渡り上手の陽キャが苦手だった。素の性格ならば良いが、計算によって作られた性格を俺は敏感に感じ取っていた。



真っ直ぐな性格のエルザよりも、良い王になるだろう。個人的にはエルザの方が好感が持てるが。



エルザは表情を隠しているが、少し俯いていた。














長い階段を上り、謁見の間にたどり着く。ドアが開き、少し顔色の悪いグランダル王にまみえた。



俺は周りの皆の真似をして、膝をついて首を垂れた。



グランダル王は毛布を膝に掛け、不健康に肌が白かった。



「おもてを上げてくれ、貴殿らには感謝しかない」



俺は顔を上げる。これで王と会うのは3回目だ。1つはチュートリアル。そして、2回目は邪龍討伐の感謝式だ。



「レンくん、ゲンリュウから状況は聞いている、本当に君には何と感謝をしたらよいか」



他の兵や大臣が同席しているので、あえて詳細は語らない。その後も当たり障りのない話が続く。これは既定路線だ。



「貴殿は世界を救う存在だ、これからも期待をしている」



「もちろんです、俺に不可能はありませんから」



「ふふ、頼もしい言葉じゃな」



そして、王はタイミングを見計らったように周りを見渡して言った。



「すまないが、騎士エルザとゲンリュウの3人だけで話をさせてはくれないか?」



当然王の頼みなのだから、皆、部屋を出て行く。俺も一緒に部屋を出た。親子水入らずで会話がなされるのだろう。王にとっての本題はこっちだ。



謁見の間を出た時に、そこにいた数人の兵士をちらっと見る。正確には鎧の下の服装を見る。



俺は鎧の下に反乱軍が着ている服があることを認識する。やはりゲームと同様だ。



この後、兵士達が襲いかかってきて、反乱軍イベントがスタートする。



俺は先手を打って行動に出た。



「ああ……急にお腹が! ちょっとトイレ探してきます!」



俺はいきなり走り出す。



「お、お待ちください、レン様」



慌てて1人の兵士が俺を追いかけてくる。さすがに部外者を王城で1人にはしないだろう。



俺の素早さがあれば、十分に撒くことは可能だが、あえてスピードを落として追いかけさせる。



そっちは頼んだと、最後に振り返り、仲間に目で合図を送った。



「レン様、トイレはそちらではありません!」



俺が違う方向に向かったので、兵士も慌てている。俺はスピードを緩めて距離を調整する。



そして、目の前にあった螺旋階段の手すりから、空中に飛び出した。下まで吹き抜けになっている。



「え! レン様、何を!」



俺は空中で振り返り、追ってきた兵士と目を合わす。武器を持っていない今、これが最大の攻撃だ。



「よう、反乱軍さん、ちょっとあんたらを利用させてもらう」



兵士は明らかに動揺した。剣に手をかけようとするが、もう遅い。



『スイッチ』



俺と兵士の位置が一瞬で入れ替わる。もともと俺がいたのは空中だ。螺旋階段の下までもう落下するしかない。



「ば、ばかな!?」



兵士はなす術もなく、落下していき、床に激突した。俺も後を追うように飛び込み、地面の近くで『エアリアル』により、落下ダメージを0にして、着地した。



兵士は動いてはいないが、死んでもいない。この世界では死んだら青い粒子になる。ある距離落下をすると気絶状態になる。



俺は急いで兵士を近くの小部屋に引きずり、兵士の鎧を奪って着替える。これで準備は完了だ。



今ごろ、謁見の間でも戦闘が始まっているだろう。戦闘に関してはドラクロワとユキに任せている。あの2人の強さなら、敵が多少の手練れであっても問題ない。



リンとギルバート、ポチの3人には爆弾の捜索をしてもらっている。候補は100通りほどあるので、その場所を全て伝えた。状況を王に伝えて、グランダル王国の兵士達には一切戦闘をさせずに捜索に加わってもらう手筈だ。



ゲームでは勝手に兵士も戦闘に加わって自滅していくので、現実ならではの手段だ。ドラクロワとユキだけに戦闘を集約する。



これで捜索効率は上がり、成功率は著しく跳ね上がるはずだ。見つけた後の時間的の余裕もできる。



俺は急いで美術館保管庫に向かった。























________裏切りの騎士団長________



始まった。



今回は俺が関与することが出来ない。だから、極力気づかなかったふりをするために、城の遠い位置にいる。



気づいたとなれば、さすがに俺も反乱軍の討伐をしなければ立場上おかしい。俺が参戦すれば、一瞬で計画が終わってしまう。かと言って手を抜いて戦えば、ゲンリュウあたりに勘づかれるだろう。



俺は子飼いの隠密から状況報告を、通信用水晶で聞く。



予想外に戦闘はたった2人で担っているらしい。俺が用意した奴らは今でこそ腐って底辺の仕事をしているが、能力自体は申し分ない。そいつらを武器も使わず、2人だけで抑えているのだから、かなりの力量だろう。



そして、兵士達は総動員で爆弾の捜索を始めている。明らかにおかしい。



「んー、臭いねぇ、これ、計画、初めから知られてたかな」



レンが1人離脱して姿を消したというのも気になる。追っていた反乱軍の1人とも連絡が付かない。これはやられたと見ていいだろう。



「そう……彼か、彼が裏で手を回してるのかな」



俺は立ち上がって自分の武器、赤黒い両手斧を持ち上げる。



レンの行動は読めないが、もしこの事態を事前に察知していたのなら、1人離脱したのには理由がある。もし、俺の計画を更に知っていたとすると、どうゆう手に出るか。



「んー、俺が一番嫌がることは何かなぁ、そもそもそこまで情報漏れてるのは信じ難いけどねぇ」



念には念を入れよう。もし心配し過ぎて杞憂だったなら、それでよい。俺が一番嫌がることは、宝物庫からあれを持ち出されることだ。



「宝物庫行ってみよっか、もしレンちゃんがいたら、盗人って大義名分があるし、殺しても違和感ないよねぇ、たぶん」



俺は計画の遂行のため、宝物庫に向かう。もし途中でレンに出会ったら、申し訳ないが、死んでもらおう。



俺はやり遂げなければならない。そのためには多少の代償は必要だ。







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