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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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反乱軍対策



「ん? 中に誰かいるのかい? ゲンちゃん」



ほんの一瞬だけ、陽気な目に鋭さが見えた。



「レンくんのご友人が来ているだけじゃよ」



「ん〜、なら僕もご挨拶に行こうかな」



ゲンリュウがそれを止める。



「やめておきなさい、せっかくの友人同士で集まったのに、水を差すのはよくないと思わんか」



「……」



カーマインが無表情でゲンリュウを見下ろす。わずか数秒だが、圧力を感じた。



「……そうだよねぇ、確かに僕は遠慮ってもんがないから良くない、失礼失礼! じゃあ、僕はお城に戻るよ」



カーマインはそう言って、大きく手を振って離れていく。しかし、途中で立ち止まった。



「ああー、勇者ちゃん、あ、レンちゃんって言うんだっけ、僕ね、強い子は好きなんだよ、機会があったらいつか手合わせしてみたいねぇ」



俺の目を真っ直ぐ見据えて、そう告げた。笑顔とは対照的に目は笑っていない。身体から嫌な汗がじっとりと出ていた。カーマインの姿が石段から消えるまで、俺はその場から動けなかった。



グランダル王国騎士団長カーマイン。陽気なように見えて、かなりのキレ者、道化を演じている虎だ。騎士団の中では鬼のカーマインとして恐れられている。



見るからに分かる。100%パワハラ上司だ。あの人の下で働くのは俺は無理だろう。



「カーマインも一応、ロンベル王子側にいる、あやつはエルザを排除しようと動くような奴じゃないが……念のためエルザには会わさせんようにしておこう」



いや、排除しようとしている黒幕があいつだ。



俺たちは部屋に戻り、この後の行動を決めた。これは既定路線だ。次に何が起こるかは分かっている。王に謁見をするのだ。



ゲンリュウの口添えがあれば可能だ。エルザも容態の悪い父親と会いたいと思っている。俺たちは敵の懐ではあるが、王城に向かうことを決めた。



普通ならば敵も王城では行動を起こさない。そんな考えはLOLでは通じない。ゲームではこの王城でも無理ゲーが起こる。



兵士の中に王国転覆を企む反乱軍が混じっており、いきなり襲いかかってくるのだ。偶然、反乱軍が現れて、エルザを殺されてしまうという、分かりやすい設定だ。



この反乱軍がアホみたいに強い。どう考えても、プロの戦闘集団だ。さすがに王城の中でカーマインが自ら動くわけにも行かないので、雇ったのだろう。



このイベントもかなりの難易度を誇る。理由は武器を取り上げられた状態で戦わなければならないことだ。王と謁見するとなり、念のため武器を取り上げられる。その上でかなりの強さを持つ戦闘集団を相手にしなければならない。



武器がなくても戦える徒手系のスキルを持っているキャラや魔法使いキャラを揃えていくのが定石だ。俺たちにはユキやドラクロワがいる。だから、ユキとドラクロワには前面で戦闘をしてもらうことになる。あの2人なら十分戦える。



しかし、この程度では無理ゲーなんて呼ばれない。このイベントには時間制限がある。既に城に爆弾が仕掛けられていて、時間が立つとゲームオーバーとなる。



どれだけ規模が大きい爆弾なんだ、とか、王もろとも爆発してんじゃん、と突っ込みを入れたくなるが、そうゆうイベントなので仕方がない。



この時間制限が厳しすぎる。時間内に敵を制圧し、爆弾を探し出して撤去しなければならない。



この爆弾の位置もランダム要素があり、隠し場所を知っているだけでクリアできないように悪意のある工夫がしてある。更に見つけた後も解除するのに、かなりの時間がかかる仕様だ。



ここにきていきなりファンタジー要素を壊す爆弾解除イベントになる。最後には色のついた配線を切断するお決まりもある。



これも頭がおかしい無理ゲーだと話題になった。武器なしで反乱軍に負けることも多いし、もし反乱軍に勝てても物理的に時間が足りない。



プレイヤーの意見では、あの3倍の時間があればクリアできる難易度と言われている。この辺りは安定の無理ゲー仕様だ。



俺は事前に襲撃が起こることを仲間達には共有するために、ひと段落したところで、仲間たちだけを違う部屋に集めた。さすがにゲンリュウとエルザにはなぜ俺がそんなことを知っているのかと疑われるので、身内だけに説明した。



「旦那が言うからには確証がある話だな、分かった、対策を立てよう」



「ええ、そのことが分かっていれば、やることは1つね」



「さすがだな、リン、そのとおり、やることは1つだ」



リンは英雄の思考についてこれるようになった。話がよく通じる。




















「そう、俺たちはがやるべきことは1つ! 反乱軍が現れるどさくさに紛れて、王城の宝物庫に侵入し、お宝を盗み出し、そして、全ての罪を反乱軍に着せる!」


























「ごめん、その発想はなかった」



「旦那……さすがにそれはどうかと思うぜ」



「レン……それは悪いことだと思うわ」



「くぅーん……」



「いいぜ! 楽しそうだ!」



なぜか皆から可哀想な物を見る目を向けられた。1人だけ例外はあるが。俺は慌てて弁解する。



「いやいやいや、別に私利私欲のために盗もうってわけじゃないって」



俺は一から意図を説明した。グランダル王国の宝物庫には、ある腕輪が収められている。それは絶対持ち出し禁止の代物だ。



蝿の円環。ベルゼブブが封印されている腕輪だ。カーマインがそれを持ち出すことで、ベルゼブブが解き放たれる。



だから、その前にこっちが手に入れようという魂胆だ。ベルゼブブを倒すのではなく、そもそも戦闘にならなければいい。



しかし、絶対に王に頼んでも持ち出しなんて許されない。だから、王城の反乱軍イベントに便乗し、先に盗み出そうと考えた。反乱軍のせいにできれば、俺たちが罪に問われることもない。



一通り説明をしたら、皆も納得してくれた。



「すまない旦那、早とちりしてしまった」



「いいって、俺がそんなことを本気で言い出す奴には見えないだろ?」



「あ、ああ……そうだな」



なぜか目が泳いでいる気がする。



「さあ、そうと決まれば、作戦会議だ、エルザを反乱軍から守りながら、お宝をゲットする」



「何かレン、楽しそう」



楽しくなんてない。こちらは命がかかっている。



まず状況は整理する。宝物庫な王城の地下にある。地下へは美術保管室の隠し通路を通っていける。隠し通路の開け方は既に知っている。



美術保管室は当然ながら、衛兵が常にいて警備している。更に地下に行けたところで、宝物庫に入るには鍵が必要となる。これは内側から開けるタイプの鍵でもないので、『ドッペルピッキング』も使用できない。



鍵はどこにあるかは不明だ。ゲームでは宝物庫はイベントで国王に解放してもらって入れるようになるからだ。



それに問題は時限爆弾だ。これが爆発してしまえば、皆が死ぬ。ゲームではタイムが0になった瞬間、視界全面に爆炎が広がり、すぐにゲームオーバーになった。これは『火属性無効』などでは対応できず、『根性』系のスキルや『ワンモアチャンス』も意味がなかった。もっとシステム上のゲームオーバーだ。



ゲームでは避難をさせる、また自分が逃げ出すことができなかったが、現実ならば状況を説明して避難させられるだろう。被害は最小限で済むはずだ。



反乱軍王城占拠イベントという新しい無理ゲーに向けて、俺は綿密に計画を立てた。





  

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