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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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無限G



本来ならば、こんな人の多い場所では発生しないイベントだ。周りの人が巻き添えになる危険がある。



「黒い奴らは危険だ! 逃げろ!」



俺が言い終わると同時に会場中に、無数の影のようなものが現れる。シャドウアサシンだ。



「エルザ! ぼけっとするな!」



放心しているエルザに声を荒げる。既に全方位からシャドウアサシンが迫ってきている。エルザは慌てて、臨戦体制を取る。



何の指示がなくとも、リン、ギルバート、ユキ、ドラクロワは観客席に現れたシャドウアサシンを倒しながら、観客を避難させていた。



「こいつら、敵かにゃ!」

「ふん、蹴散らすのみだ」



ミアやジークフリートもシャドウアサシンと戦い始める。



現れたシャドウアサシンは俺たちが王城の地下で戦った奴らよりもレベルがかなり高い。エルザを2回倒した後のイベントであり、そのぐらいの力を持っている前提で設定されている。



しかし、俺たちもあの頃より遥かに強くなっている。俺に攻撃を当てることなど、絶対にできない。



それでも、これはエルザイベントの最初の難関として有名だ。



英雄の間では無限Gと呼ばれている。なぜGかと言うと、素早さ特化の忙しなく動く黒いものが大量に現れるからだ。それを想像すると絶望しかない。シャドウアサシンはベロニカを倒さない限り、無限に湧いてくる。



更に最大数も決まってないので、倒して減らしていかないと、増える一方だ。倒すスピードが出現するスピードより早くないといずれ詰んでしまう。



俺の回避術も360度からうじゃうじゃと現れる大量のシャドウアサシンは相手にできない。数の暴力には勝てない。



「エルザ、俺のことは気にせず、『剣嵐』を使え」



エルザが頷き、重心を低くする。そして、斬撃の嵐が巻き起こる。



やはり有益なスキルだ。広範囲攻撃にも関わらず、ダメージ量がかなり高い。味方もダメージを受ける仕様さえなければ、使い勝手の良いスキルだったろう。俺には『剣の極み』があるからその点は問題ない。



俺の周囲にいたシャドウアサシンが一瞬で全部青い粒子になって消えた。



問題はベロニカを見つけることだ。ベロニカはこのイベントで自分からは攻撃をせず、ひたすら隠れることに徹する。更に素早さも高く、隠密スキルや逃亡スキルを駆使してくる。捕まえるのが至難の業だ。



更に悪いことに、この闘技場には人や障害物が多く、潜むのに適している。



つまり、無数に現れるシャドウアサシンを減らしながら、隠れるのと逃げるのに特化したベロニカを見つけなければならない。



ちなみにこのイベントは普通にプレイすれば、100回に1回成功するぐらいのLOLではよくある普通の無理ゲーだが、対応策は存在する。



このイベントの前にあらかじめ暗殺者ベロニカをパーティに加えておくことだ。そうすれば、シャドウアサシンを仕掛けてくるのが、ベロニカから暗殺集団の2番手ハシムに変わる。



ハシムの方がベロニカに比べ、遥かに捕まえやすいので成功率が大幅に上がる。



しかし、俺はこのイベントを起こす気など全くなかったので、もちろんベロニカを仲間に入れていない。現実世界でこの無限Gをクリアしないといけない。



『剣嵐』には当然ながらクールタイムがある。連発は出来ない。その間にシャドウアサシンは増えていく。



俺も範囲攻撃はあるが、シャドウアサシンを蹴散らす広範囲攻撃は魔法しかない。魔法は使用時に足が地面に固定されてしまうため、あまり使いたくない。



こういう時にソラリスがいてくれれば余裕なのだが、いないものは仕方がない。どのみちベロニカを見つけられなければ、ジリ貧だ。



俺はシャドウアサシンを少しでも減らしながら、ベロニカを捜索する。幸いパーティメンバー全員がかなりの強さを持っているので、シャドウアサシンを倒すスピードは悪くない。



「まさか……あのことが」



エルザはシャドウアサシンを蹴散らしながらも、心ここに在らずといった様子だ。



【ボルケーノ】



流石に鬱陶しくなったので、俺は距離を取って魔法を発動する。上級火炎魔法で辺りを一掃する。今まで回避をしにくくなるから魔法は使ってこなかったが、流石に300レベルオーバーの威力は凄まじい。



ベロニカの姿を探す。ベロニカには『気配遮断』のスキルがある。これはいかなる索敵スキルでも対象者を感知ができないという効果だ。俺は盗賊のスキル『気配察知』を持っているが、当然無効化されている。



更に『透明化』も使うことができ、あらかじめ決めて置いたポイントに瞬間移動する『脱却』のスキルも使える。効果範囲は自分の周囲10メートル以内と狭いが、入り組んだ建物の中で使われれば厄介だ。



素早さも高く、即死系のスキルもいくつか揃えている。これだけ聞くとかなり強いように思えるが、実際のところ、そこまでベロニカは使えるキャラじゃない。



素早さ以外のステータスは低く、特に攻撃力がない。即死スキルは確率系のものも多いので、即死が発動しないこともよくあるし、何より即死無効のスキルを持つ敵も多い。そもそも俺も神兵の腕輪を装備している時点で、即死無効だから気にしなくていい。



だから、戦闘になれば俺が負けることはない。しかし、隠れられると話は別だ。ベロニカを捕まえるのはかなりの難易度を有する。



エルザイベントの中では100回に1回ぐらいクリアできる時点で序の口のイベントだが、コンティニュー出来ない現実世界では辛すぎる。



俺をエルザを見る。シャドウアサシン相手に戦えてはいるが、やはり精彩を欠いている。ゲームではエルザが死んでゲームオーバーになることが半分ぐらいある。



観客は既に避難が進んでいる。俺は仲間達に声をかけた。



「みんな、一旦ここに集まってくれ! 今回はエルザが標的だから彼女を守る、俺とリンだけ主導者を捜索する」



俺の声でパーティメンバーが集まってくる。これでエルザのことは気にしなくていい。ドラクロワ、ギルバート、ユキがいればエルザがやられることはないだろう。ポチは俺とワンセットだから、俺についてきてもらう。



一瞬、『格安石ころ結界』で内側に閉じこもろうかと頭によぎったが、シャドウアサシンを減らしていかないとこのシュタルクが滅亡する。



「リン、探すのは暗殺者ベロニカ、黒いフードを深く被った小柄な女だ、奴に触れればこの騒動は終わる」



俺はリンに状況を詳しく説明する。ベロニカのスキル構成も伝える。



「了解! 手分けして探す?」



「いや、一緒に行こう、『脱却』のスキルを使われた時にその周囲にいることは分かってる、固まっていた方がいい」



俺とリンはシャドウアサシンを隙間を縫うように走り出す。数を減らすのは他のメンバーに任せ、とにかくベロニカを探す。『気配察知』が使えない以上、目視しかない。さらに『透明化』も使われているため、空間の揺らぎを見つけなければならない。



俺達はしばらく探し続けたが、中々見つからない。やはり正攻法ではきつい。100回に1回の成功を現実で、持ってくる幸運はない。ならば、現実だからこそできる手を打つべきか。



俺は集中を始める。そのことを察したのか、リンが俺に襲ってくるシャドウアサシンを相手にし始めた。



ゲーム時代の知識を総動員する。俺はエルザイベントを最後までクリアしていない。しかし、途中までは進めた。だから、この後の展開は知っている。



俺は大きく息を吸い込んで、声を大きく響かせた。



「ベロニカ! お前の依頼人の倍のお金を払うから! 話し合おう!」



しばらく返答がない。ゲームでは出来なくても現実なら可能性があるはず。



そして、俺の読み通り、彼女が姿を現した。















「お金くれるのかにゃ!?」
















「って、ちがーう!」



目をキラキラさせて現れた猫戦士ミアに俺はツッコミを入れる。なぜ俺は命懸けの場面でコントをしているのかと、悲しくなる。



そもそも失敗したのは俺のせいじゃないし、ベロニカの性格なんて知らないし、もともとダメ元だったし。と言い訳を頭の中で並べる。



ベロニカは無口で、「御意」「任務完了」「死ね」ぐらいしかゲーム中も喋らない。無口過ぎて性格とか分かるわけがない。よって俺は悪くない。



ベロニカの固有イベントで、無口なベロニカと仲良くなろうとするものがある。まるでデートに誘うナンパ師みたいな感じなのだが、口説く度に氷点下の眼差しで「死ね」と言われる。なぜかそれが一部のコアな変態(ファン)には人気だ。



「レン、遊んでる暇あったら、探して」



「はい……」



リンから冷静な指摘が入り、取り敢えず憂さ晴らしに近くのシャドウアサシンを切り裂いた。





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