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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
131/370

もう1人の英雄



_____________




レンから情報を聞いた。そして、私がキングに勝つことは不可能だとわかった。



それが嬉しかった。



不可能を可能にするのが英雄。私はレンと同じ英雄になりたかった。だから、不可能な壁にぶつかったことが嬉しかった。



時が止まる。



そして、身動きが取れない私に、キングは容赦なくパンチを繰り出す。



凄まじいダメージを受けるが、私は大丈夫だ。『極根性』がある。一撃死はしない。



時が動き出す。



否応なく吹き飛ばされて、場外のラインを一瞬で抜ける。私は待つ。2秒間を。



2秒経つ。私は行動が可能になった。まだ場外にいるが、地面に着いてはいない。今から戻れば間に合う。



私は2秒後に行動できるよう、あえてキングの斜め45度で時を止められて吹き飛ばされた。私は重さのステータスが低い。角度を調整すれば、2秒後にもまだ着地していないと思った。



これで地面に到着するまで、余裕が生まれる。



私は考えた。勝つためにどうすれば良いのか。常に思考は、レンならどのような手段をとるかだ。私のステータス、スキル、全ての情報を私は勝つために組み立てる。



まず『キングパンチ』を回避することはできない。これは時が止まる性質上、絶対だ。ならば、思考を『キングパンチ』を受けた後、どうするかに持っていく必要がある。



だから、ダメージを受ける角度を調整して、2秒後も負けていない状況を作った。これが成功するかは賭けだったが、上手くいった。



しかし、身動きが取れるようになったが、ここから円の中に

戻らないといけない。私には空中を移動するスキルがない。



でも、ひとつだけ円の中に復帰出来るスキルがある。



『残影』



私の身体が残像を纏う。もちろん、これでは復帰できない。



私は空中でポケットから小石を取り出した。キングのジャンプにより生まれた小石をこっそりポケットに入れていた。



一部のスキルは空中では使用できない。しかし、フィールドオブジェクト、つまりこの小石が足の裏にあれば、使用することができる。レンの『空中散歩』から学んだ。



私は小石を足の裏に押し当てる。そして、スキルを発動する。



エクスカリボーをキングに真っ直ぐ向ける。既にキングは私を見ていない。勝った気になって観客に愛想を振りまいている。



「決まったぁあ! ついに出ましたキングパンチ、見事な勝利です」



まだ勝負は終わっていないが、司会はキングの勝利を確信している。そうか、これがいつもレンが持っている気持ちなんだ。周りが不可能と諦めたことを、覆す英雄の心。



剣先から紫電がほとばしる。



私はずっと憧れていた。あの人の戦い方に。



型などない変則的で異常な戦い方。しかし、常に結果は自分の望む場所に着地させる。あの人が負ける姿を私は予想できない。



だから、ずっと悔しかった。足を引っ張り続ける自分を呪った。



美しい紫電が剣先から私の身体を覆う。



シリュウ戦では戦わせてすらもらえなかった。邪龍戦では途中で脱落した。そして、プロメテウスには人質に取られた。



私は王子様を待つヒロインになんてなりたくない。



私が望むのは対等な関係。そのためには、並ばないといけない。あの人のいる世界に足を踏み入れないといけない。



狙いを付ける。マックスの巨体に向け、エクスカリボーを構える。



私の最強の攻撃力を誇るスキル。そして、離れた距離を一瞬で詰めるスキル。












『雷光突き』















キングマックスの残りHPがどれぐらいかは把握している。最後にこの私の最強をぶつけるために、『残影』を温存していた。



これが私の見つけた栄光への道(デイロード)だ。




刹那の時間で、離れていた距離を埋め、紫電を纏うエクスカリボーをキングに突き立てていた。



落雷のような轟音が鳴り響く。そして、残影により、わずかに遅れて、複数の轟音が重なる。



スキルが終わり、キングは仰向けに倒れていた。



司会は唖然としていた。何が起こったのか分からないようだ。



私は勝利した。



「し、信じられません、キングマックス、戦闘不能、戦闘不能です! 勝者はリン!」












エクスカリボーを観客にいるレンに向けた。



見ててくれた? 少しは私も強くなったでしょ。そう心の中で告げる。



今まで感じたことのない高揚感に包まれていた。そうだ、不可能を可能にした私にはすべきことがある。少し恥ずかしいけど、あの人に近づくために。



「よっしゃ……かった」



私は勝利のダンスを始めた。
















_______________________



俺は見くびっていた。何が慰めようだ。リンのことを甘く見ていた。



俺はリンが『キングパンチ』の初期モーションの時に、斜め45度まで飛んだことで、気づくことができた。確かにリンはプレイヤーよりも重さの数値が低い。敢えて角度をつけて吹き飛ばされることで2秒後の行動が可能になる。リンはそれを自力で思い付いた。



もはや思考がゲームのNPCではない。英雄の思考だ。



リンの最強の攻撃手段は『雷光突き』だ。『残影』はここに使いたい。しかし、『雷光突き』にはデメリットがある。移動距離が長すぎることだ。



もしキングマックスに当たらなかったら、一発で場外になる。速さからして回避はできないだろうが、発動までのため時間がある。発動をした瞬間に攻撃範囲が決まるので、そのため時間にキングマックスに移動されれば、当たらずに終わってしまう。



リンは攻撃範囲まで計算していた。最後の『雷光突き』はもしキングに当たらなくても円の中で止まる距離だった。そうなれば、『キングパンチ』をもう使えないキングに勝ち目はなかった。



英雄の領域に彼女は足を踏み入れた。



片鱗はあった。あのアリアテーゼ戦だ。俺がエルフの秘薬を投げただけで、リンは『生魔転換』を使った。



その時点から、彼女はゲームキャラとしての思考から外れていた。



この世界でここまでたどり着けるのは、恐らくリンだけだろう。頑張り屋リン。その二つ名が全てを物語っている。



俺がどうゆう人間だったか。俺は不可能を超えるために、努力をした。ずっと努力をし続けた。周りからは時間の無駄だと言われても努力を続けた。



だからこそ、今の俺がある。



リンは努力の才能がある。英雄になるためにの必要条件だ。



努力を続け、成長し続ける弟子か。頼もしいと同時に恐ろしい。俺を超えられないように、俺自身も成長していかないとならない。



リンのエクスカリボーが俺に向けられている。



ああ、分かっているよ。お前の勝ちだ。



会場からは盛大な拍手が生まれる。その溢れんばかりの拍手の中、リンは顔を真っ赤にしながら何かを始めた。



「ん? 何してんだ? 変な動きだな」



正直な感想を漏らしたら、隣のギルバートが信じられないという顔で俺を見た。





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