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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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英雄の領域へ



俺の戦いが終わった。ドラクロワは両頬をパンと叩き、俺に握手を求めた。



「戦えて良かった、気付かされたぜ、鍛えることだけが強さじゃねぇ、戦術って言えばいいのか、それをレンぐらい練ることが出来れば、もっと強くなれる、次に戦ったときは俺様が勝つ!」



俺はドラクロワと握手を交わす。力強い手だった。



ひと昔前の少年漫画のような展開だが、俺は嫌いじゃない。喧嘩をして殴り合って、河原で2人で寝そべって友情が芽生えるという奴だ。



ドラクロワと少し仲良くなれた気がする。



__________________



俺は観客席に戻った。ギルバートは俺たち2人とも大きく賞賛してくれた。外から見てると、凄まじい戦いだったようだ。



そのあとはしばらくあまり興味のない試合が続き、俺は暇だったのでポチと遊んでいた。番狂わせも起こらず、順当に勝つだろう人が勝ち上がっていく。



そして、ついに注目の戦いが行われる。



「いよいよ、始まるな」



ギルバートは不安げな表情で下を見下ろす。リンとキングの戦いが始まろうとしていた。



正直、リンが勝つ見込みはない。既に『キングパンチ』を前の試合で使用していたら勝ち目はあるが、ここまで一度も『キングパンチ』を使っていない。



次のリンとの試合、間違いなく『キングパンチ』が発動する。



俺でさえ『キングパンチ』は回避出来ないから、バトルロワイヤルで1位の恩恵がなければ、キングマックスに勝つことは出来ない。



そもそも『キングパンチ』が発動する瞬間、正確にはモーションが始まってマックスが振りかぶった時に、システム上、時が止まる。



その間は空中だろうが、何かのスキル中であろうが、全てが止まる。



これはゲームのシステムなので、どうにもならない。そして、身動きができないプレイヤーにパンチが炸裂し、時が動き出す。



吹き飛ばされている間も2秒ほど身動きが取れない。そして、2秒後には余裕で壁か地面に激突しており、場外判定となる。



そもそも、ダメージはとてつもなく高く。300レベルを越えていても一撃で死ぬ。



もはや発動された瞬間に負けが確定するぶっこわれスキルだ。



会場にリンとマックスが現れた。まるで巨人と少女だ。



大歓声が上がる。これは注目されているカードだ。当然マックスの人気は不動。それに加えて、リンはここまでの試合で人気を勝ち得た。



可愛らしい容姿に、恐ろしいほどの強さ。そして、俺が教え込んだ回避術。人気が出るのも当然だ。



「さあ、やってまいりました! ついに我らがキングと、彗星のように現れた可憐な闘士リンの戦いが始まります!」



司会が煽り、会場は喧騒に包まれる。



「旦那、嬢ちゃんに勝ち目はあるのか?」



ギルバートが心配そうに聞いてくる。



「……リンには悪いが、勝ち目はない」



そもそもゲーム時代にも『キングパンチ』の攻略法は見つけられていない。そのため、試合で使われないようにするのが、攻略法だった。



「さあ、それでは行きましょう!」



ゴングが鳴り、試合が開始される。



先手はリンだった。風のように突進し、エクスカリボーでマックスを叩く。クリティカルが発生し、激しい音が響く。リンは一切手を緩めず、凄まじい速度で攻める。



これがリンの選んだ戦略か。俺でもそうせざる得ないかもしれない。



この怒涛の攻めはリンらしくない。これは『キングパンチ』を使われる前にHPを削り取ろうという作戦だろう。



しかし、マックスの最大HPはかなり高い。間に合わないだろう。一つ引っかかるのは、『残影』を使わないことだ。リンら気づいていないのか。



リンの最強のユニークスキル『残影』を使用すれば、ダメージが何倍にも跳ね上がる。効果時間は10秒ほどだが、『キングパンチ』を使われる前に倒し切るなら、温存など無用だ。



マックスの攻撃をリンは回避しながら、同時に攻撃する。回避術はさすがだ。回避だけではなく、全ての回避にカウンターを織り交ぜている。中々出来る芸当ではない。



マックスが腰を落とす。ジャンプする気だ。ノックバック無効の術がないリンには、これを食らえば一発場外が決まる。



リンはそのモーションを見た瞬間、一気にマックスに向かい、ジャンプした。マックスがジャンプで飛び上がるより早く、太い首にしがみつく。そして、マックスと同時に空中へと上がる。



どうやら自分で攻略法を見つけたようだ。ジャンプの効果範囲は範囲内全てだ。本来、回避のしようがない。しかし、マックスの真上はあたり判定がない。



リンは飛び上がったマックスが最高点に達したのを確認し、自分もマックスの身体からジャンプし、更に上に向かう。



マックスが轟音を響かせながら、地面に激突する。衝撃波が広がり、砕けた小石が散乱する。



リンにダメージはない。リンはマックスの頭上にいる。そのまま落下しながら、マックスのウェークポイントの頭に『五月雨斬り』を放つ。



当然全ての攻撃がクリティカルになり、大きなダメージが入る。



リンは自力でマックスのジャンプを攻略した。これで『キングパンチ』以外の攻撃でリンが負けることはないだろう。



十分にリンは成長している。俺が想定した以上だ。



ダメージを与えるペースが早い。俺が想像した以上にダメージを与えられている。これならば、『キングパンチ』を発動させずに倒せる可能性もあるのかもしれない。



リンの猛攻は止まらない。とにかく一手でも多く、攻撃を重ねている。俺の感覚ではマックスのHPが5分の1ほどまで削れた。



しかし、最悪の展開が訪れてしまった。



マックスが特殊なモーションをする。『キングパンチ』の予備動作だ。これでリンの敗北が決まった。



よく頑張っていたと思う。ジャンプも攻略したし、『キングパンチ』使用前に倒そうという戦略も悪くなかった。あとでその点は慰めるべきだろう。



リンはマックスの身体を蹴り、上にジャンプした。


























俺の脳裏に一陣の光が走った。













英雄としての思考が、一筋の光となって進む。



「まさか!?」



思わず声を上げて立ち上がった。頭の中にある考えがよぎった。しかし、あのスキルは空中では使用が……いや、方法はある。可能だ。



俺は見つけた栄光への道(デイロード)を。



この絶望的な状況を覆す術を見つけた。そして同時に信じられなかった。



まさか、リンはこの道に気づいているのか。俺よりも早く、栄光への道(デイロード)を見つけていたのか。



もし、本当に彼女がそれを成し得たなら、それは彼女が俺たち(英雄)の領域に足を踏み入れたことになる。



俺はリンのスキル、ステータスを全て知っている。彼女には恐らく唯一のマックスに勝つ手筋が残っている。



しかし、それは常人には気づくことが出来ない細い光だ。ゲームのNPCがたどり着ける思考ではない。



リンは飛んだ。マックスの斜め上の位置に。偶然とは思えない。俺もその行動で気づくことができた。それなら『残影』を使わなかった理由もわかる。



マックスのスキルにより、時が止まった。



空中でリンが静止する。







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