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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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団欒の時間



俺は城下町に到着し、酒場で夕食をとることにした。本来ゲームでは食事は必要ないので、この酒場は情報収集やイベントのための施設だった。



俺達は空いている席に着いた。ゲームの世界だからポチも問題なく店内に入っている。リンはわくわくしながらメニューを眺め始めた。



俺は辺りを見回す。この酒場はいろいろなイベントが始まるトリガーがある。厄介なイベントが始まらないように注意する必要があった。



少し離れた所にある男がいた。小汚い酒場で、そこだけ宮殿のように華やかに見える。切れ長の目にウェーブのかかった光沢のある金髪。美しさと気高さを併せ持つ圧倒的な美男子だ。



聖騎士ラインハルト。バランスタイプキャラのランキングでは1位。回避も上手く、攻撃力も高く、有益なユニークスキルも持つ。



しかし、俺は絶対に仲間に入れなかった。ゲームでまでリア充と関わらることに耐えきれなかったからだ。



今も左右に2人ずつ、4人の美女を従えて談笑している。俺は関わりたくなかったので、目線を逸らした。



逸らした視線の先にいたのは、ヨレヨレのジャケットを身に纏った、顎髭の似合う中年の男だった。



眠そうな目に、癖のある髪が無造作に乱れている。昼行燈キャラ、哀愁のギルバートだ。ウイスキーを片手に、哀愁を漂わせている。



俺は存在感を消し、小さな声で店員に注文を告げた。リンも便乗して注文を始める。



「えっと、このジャンラビットの丸焼きと、クリーミーポテトサラダ、てんこ盛りボーンフィッシュフライに……」



ギルバートは悪い奴じゃない。むしろ人間として尊敬できるし、俺も当初パーティに加えていた。



銃を扱える珍しいキャラで遠距離攻撃と多くの探索系のサポートスキルを持つ優秀なバックスだ。



だが、彼は別名、不憫なギルバートと呼ばれる。それは彼の固有のイベントに起因する。



固有イベントとは仲間にすることで発生させることが出来るイベントで、イベントの達成でユニークスキルを覚えることができる。もちろん、ポチやリンにも存在する。



その固有イベントがある意味、無理ゲーなのだ。それは敵が強いのでもなければ、運に左右されるものでもない、特殊なアイテムもいらなければ、膨大な時間もかからない、誰でもこなせる内容だ。



それなのにある意味無理ゲーと呼ばれるのは、最悪の悲劇だからだ。凄まじい胸糞展開に、悲劇に悲劇を混ぜて濃縮し、悪意、悲痛、怨嗟、後悔、狂気を詰め込んだ内容だった。



もはやシナリオライターの頭がおかしいとしか思えない。何の恨みがあるのか、ここまでギルバートを追い込む、救いのないシナリオに執念すら感じる。



俺ですらしばらく人間不信に陥り、気分が悪くなり、本気でLOLをやめようかと思ったほどだ。まあ30分ほどで復活してまたゲームを続行したが。子供なら軽くトラウマになり、人生が変わるほどだろう。よくこのゲームが全年齢対象になっているものだ。まあ子供は最初のチュートリアルでゲームをやめるので、ここまでは来ないだろうが。



だから、絶対に仲間にしてはいけない。現実であの悲劇をギルバートに経験させるわけにはいかない。



「……それと、ポロのテリーヌ、カラコの実のソースパスタ、最高級茹でキングクラブ」



「以上で」



俺は現実に戻り、リンが頼んだ大量の注文に終止符を打った。たしかに多少の金はあるが、限度というものがある。気づかなければメニュー全て注文する勢いだった。



リンはもっと頼みたかったのに、と少し頰を膨らませた。その仕草が可愛い。



しばらくして、机の上に乗り切らないほどの料理と酒が運ばれた。リンは巨大なジョッキを掴んで、俺に向けた。



「これからよろしくね、レン」



そう言ってニッコリ笑い、豪快にビールを嚥下した。幼い少女が飲酒している光景に一瞬驚いたが、まあゲームだからありか、と考えるのをやめた。



「ああ、よろしく」



俺もグラスに口をつけた。ポチも床に置いた皿から料理を食べはじめた。



「よう、嬢ちゃん、良い飲みっぷりだな」



食事をしていると、ギルバートが向こうから声をかけてきた。せっかく無視しようとしているのに、グラスを片手に近づいてくる。



ポチは胡散臭い姿の男に警戒して、唸り声をあげた。やはりポチとは以心伝心だ。俺の意図を汲んでくれているに違いない。



「おうおう、そう怒るなよ、ワン公、これやるからさ」



ギルバートがポチの目の前に味付け肉の塊を置く。ポチは間髪入れず食いつき、一気に飲み込んだ。



「くぅーん、くぅーん」



猫撫で声でギルバートに甘え始めるポチ。このエサをもらうだけで懐くチョロさ、やっぱりポチは最高だ。



「俺はギルバートだ、この街で用心棒をしてる、よろしくな」



そう言って、にっと人が好い笑みを浮かべる。



「俺はレンだ、よろしく」



俺が名乗るとギルバートは俺の手を取り、力強い握手をした。



「この街では見ない顔だな、旅してるのか」



「ああ、そんなところだな」



ギルバートは近くの椅子を引っ張って俺たちの席に腰かけた。そこから自然に会話に混じってくる。



街の中のこと、近くのダンジョンのこと、敵の情報など、ギルバートは引き出しが多く、俺たちもいつのまにか彼のペースに飲まれていた。



こうゆう積極的なコミュニケーションをしても、嫌がられないのがギルバートの魅力だった。








________________




「そのときに何を思ったか、そいつがいきなりセイントレイを放ったんだよ、堪ったもんじゃねぇだろ」



「うわぁ、ミラージュパレスでセイントレイなんて自殺行為だな」



「ねぇ、レン、ミラージュパレスってどこ?」



「ここより南の港町シーナポートの近くにあるダンジョンだよ、壁面全体が光魔法を反射する材質でできてる」



「いや、死ぬかと思ったね、広範囲拡散光線のセイントレイが洞窟中に反射して」



「店員さーん、私、ビールおかわり」



楽しくお喋りしていると、背後から誰かが近づいてくる気配を感じた。振り返ると、眩い後光を錯覚した。



ラインハルトが悠々とした足取りで近づいてくる。



「やあやあ、失礼、あまりに美しいお嬢さんがいたのでね、声をかけようかと思って」



俺は彼の視線の先を辿った。肉を口いっぱいに頬張ったリンがびっくりした表情でラインハルトを見ていた。



「お嬢さん、良かったら僕と来ないかい? 君は本当は美しい、そんな安い冒険者服しか買えず、こんな安酒しか飲ませてもらえないパーティは君の居場所ではないよ、僕は君に最高級のドレスと高価なワインを捧げられる」



白い歯がピカッと光る。だからこの性格の悪いイケメンは嫌いだ。



「おいおい、人のパーティから引き抜くなんて、マナーがなってないだろ」



ギルバートが不快そうに言う。やはりギルバートは常識人だ。ラインハルトの後ろでは4人の美女がリンを親の敵のように睨みつけている。



ポチも歯をむき出しにして、怒っている。



「ここに最高級の味付け肉があるが……」



「ハァハァ、クゥーンクゥーン」



お腹を見せて、だらしなく舌を垂らすポチ。もうラインハルトに懐柔された。お前はそれでいいのか。何だか泣きたくなってきた。





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