結果発表
広場には多くの国民が集まっている。司会進行役のマッチョマンが、大声で盛り上げている。
「レディースアンドジェントルメン! 今宵も熱きバトルが繰り広げました! さて、本戦へと進むのはどの選手なのか!」
広場には出場者達が集まっている。リンとドラクロワも俺を見つけて、近づいてきた。
司会者は本戦確定者を読み上げていく。もちろん、俺やリン、ドラクロワの名前もあった。
「よお! 俺は45枚だったぜ!」
ドラクロワが自慢げだ。さすがはドラクロワだ。単純な戦闘能力で言えば、この中で最強だろう。リンは少し残念そうだった。
「私は42枚だった……悔しい」
リンに勝ったと分かり、ドラクロワは心底嬉しそうにガッツポーズをしていた。リンもさすがとしか言いようがない。もはやこの立候補者の中に敵はいない。
「おい、レン、てめぇは何枚だった?」
「あ、いやー、まあ俺のことはいいよ」
さすがに言いづらいので、言葉を濁す。ドラクロワはその反応で勝ちを確信し、にやにやと「まあ、俺様は強いからな」などと言い、とても満足そうだった。
「さて、続いては枚数での個人賞です!」
司会が連続で枚数を告げていく。ぎりぎり5枚の候補者も多い。
「おっと、素晴らしい! ドラクロワさん、まさかの45枚! これはもう一位が決まったか!?」
今まで不憫な立ち位置だったドラクロワが脚光を浴び、ドラクロワは胸を張って、周りの人に手まで振り始めた。
「おしい、リンさん、42枚、ドラクロワさんには負けましたが大健闘です!」
拍手が起こるが、リンは満足していないらしく、最後まで悔しそうだった。
「そして、ついに我らがキング! 一体何枚なのか!」
司会がわざとらしく間を取り、広場にひと時の静寂が訪れる。
「52! 52です! 信じられません! 過去の選挙での最高数を更新しました! 歴史的な瞬間です! ドラクロワさんをこえて、一位! もはやこれは確定でしょう!」
ドラクロワがあからさまにガーンとしていた。わかりやすい性格過ぎて、可愛いとすら思えてくる。52枚はゲームでも見たことがない。
「いやー、一位が決まりました! さすが我らがキングです、この記録は当分破られることがないでしょう! 一応残りの人の枚数も読み上げておきましょう」
司会が次の人の枚数を確認する。
「………………」
急に後ろのスタッフの所に向かい、何やら確認をしている。しばらくして、また戻ってきた。
「あ、そのー、なんというか」
司会の男は冷や汗をダラダラ流して、マッチョのくせに少し小さくなっていた。
「えー、その……レンさんの枚数が……」
一瞬、躊躇ったあとに、司会の男は諦めたように告げる。
「101枚で……一位となりました、過去最高数更新です……」
場が静まり返る。ドラクロワも、リンも、キングも、周りの国民全員が口をぽかぁと開けていた。
「よっしゃ! 勝ったぁあ!」
俺は勝利のダンスを踊り出す。周りからの目なんて気にしない。
だから、リンとドラクロワには言いづらかった。さすがに数字が数字なだけに、ショックを受けてしまうかと心配していたからだ。
俺は絶対に一位になるために、いくつか保険をかけていた。ロードが出来ない現実では、運が絡むこのイベントに正々堂々立ち向かうのは得策ではない。
もちろん、ドラクロワやリンには申し訳なく思うが、現にマックスに一位を取られている。結果論で言えば、俺の行動は正しかった。
俺はバトルロワイヤルの最後にある手を打っていた。
____俺が自力でこれ以上集めるには、今から絶対に本戦確定者に出会っていけない。
そう、自力で集めるためには出会ってはいけない。
____ただこれでスカーフを奪おうとしても、すり抜けてしまう。
そう、奪おうとしても意味がない。
_____結局、俺が奪えたのは38枚だった。
そう、俺が奪えたのは38枚だ。
もうお分かりだろうか。俺は一位になるために、現実でしかできない手を使った。
ジークフリートは強者に戦うために立候補しており、国王に興味はない。
だから、俺は広場で最後にこう持ちかけた。
「バトルロワイヤルで、最後の10分、この広場で俺と戦わないか? 勝った方が、それまでに集めたスカーフを5枚だけ残して相手に譲る、その条件で戦おう」
戦闘狂のジークフリートはすぐに乗ってきた。彼からすれば、別に国王なんて目指してないから、一位の恩恵なんてどうでも良い。それよりも俺と戦えることに興味が湧いたようだ。
奪うとすり抜けてしまうスカーフも、譲るでは普通に手渡しできた時はほっとした。
更に保険として、ミアにも声をかけた。猫剣士ミアはお金が大好きな守銭奴キャラだ。国王になれば、お金持ちになれると憧れてエントリーした裏設定がある。
そして、俺はエルドラドで稼いだ大量の金がある。そう、スカーフ一枚あたりに値段をつけて、バトルロワイヤル後半で広場で余剰分のスカーフを買い取る条件を申し出たのだ。
ミアからすればお金が稼げて、本戦にも出場できる。メリットしかない。ミアはお金を稼ぐために必死になってスカーフを集めてくれた。
こうして俺は最後の大広場にて、ジークフリートから28枚、ミアから35枚譲ってもらい、自分の38枚と合わせて、101枚になった。
「おい、レン、テメェ何かズルしただろ!」
ドラクロワが怒りながら指摘してくる。リンは何かに気づいてはっとした。俺は既に我を忘れていた。
「おいドラクロワ、これをズルなんて呼ばせない! このピーキーな難易度のLOLでは、目的を実現するためにあらゆる手を駆使しないとならない、英雄の思考は常に目的から逆算される、あらゆる不可能を覆すことに俺たちは命をかけてきた! このバトルロワイヤル、どうしても運が絡んでしまうイベントだ、ロードができない現実世界で俺は運に頼るわけにいかなかった、結果論ではあるが、実際にキングは一位をとった、俺の行動が正しかった証明だ、そもそも、譲渡がダメならルールに明言化すべきだ、明言されていない=してもよいが英雄での常識、常識にとらわれないことが俺たちの常識だ、本当ならリンとドラクロワのスカーフをまとめて一位を取るつもりだったが、何だかドラクロワとリンがノリノリだったから言い出せず、仕方ないから競争を楽しませてやろうと考えた俺が間違っていたといいたいのか! それに加えて……」
数分後、ドラクロワは静かになった。何だが若干距離を置かれている。俺もついかっとなってしまった。英雄の考え出した技は、絶対にズルではない。攻略法と呼ぶべきだ。
「ドラちゃん……、レンにそのワードは禁句だから」
「お、おう、俺が悪かったよ……」
リンがドラクロワをフォローしている。少し悪いことをしてしまった気がする。
「よお、レン、さっきはありがとな」
表彰式が終わり、ジークフリートが話しかけにきた。
「俺の技……完璧に見切られてたな、この俺が一撃も入れられないなんて、想像以上の強さだった」
「謙遜はしないよ、回避に関してはこの世界で一番上手い自信があるし」
「本戦で当たったらよろしく頼む、それと俺はしばらく傭兵としてこの国に滞在する予定だから、何かあったら雇ってくれ、お前といれば学べることも多そうだ」
「ああ、何かあったら、声をかけるよ」
ジークフリートは俺に名刺のようなカードを渡して、去っていった。正直、強さとしては今の俺たちのパーティには必要ない。だが、ジークフリートがいることで発生するイベントもある。
いざという時は手伝ってもらうことにしよう。ジークフリートは頭脳の面で運良く、母親ではなく父親に似た。しっかりしていて聡明だ。仲間に入れても、面倒なことにならない。不思議なことにイケメンなのに、俺もイライラしない。
本戦は明日から始まる。そちらはトーナメント形式になる。俺たちはユキとギルバートとポチが待つ宿屋に戻った。
ここまでは順調だが、俺はまだあの仮面の人物に不安を持っていた。できれば、トーナメントでぶつからずに終わってほしい。