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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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バトルロワイヤル



次の日、俺たちは準備を整えて、街の中央広場に向かった。



立候補希望の屈強な者たちが集まっている。立候補者にスカーフが配られていた。俺たちも列に並び、スカーフを手に入れる。



今夜、バトルロワイヤルが始まる。この総選挙は都合が良いもので、プレイヤーが入国した次の日に開催されることが決まっている。もし参加を辞退しても、30日後にまた開催される。



「やあ、やあ、国民の諸君! また今宵も楽しい総選挙の日が来た」



広場に現れた男に拍手喝采される。現キング。本名マックスだ。身長は3メートル近くあり、山のように盛り上がった筋肉に覆われている。もはやシルエットが人間ではない。顎がしゃくれており、頑丈そうな白い歯が並ぶ。スーツに蝶ネクタイという姿だが、ムキムキ過ぎて全く似合っていない。まだエルドラドのゴルディの方がちゃんと着こなせている。



「諸君、筋肉は仕上がっているか!」



「うおおぉお!!」



謎の歓声が上がる。



「マックスマッスル!」



「マックスマッスル!」



一部ファンが暑苦しくうざすぎる。



マックスは元々グランダル王国の発明家ヘルマンの学友だ。ガリガリでひ弱なマックスは、ヘルマンと共に古代テクノロジーを研究していた。



そして、あのアドマイアが保管されていた研究所で、マックスは謎の薬品を手に入れ、それを飲むことによってマックスマッスルを手に入れたというどうでも良い設定がある。



今は脳みそも筋肉に変わっているのだろう。ちなみにヘルマンは筋肉大好きになったマックスを見下していて、マックスはマロンちゃん大好きになったヘルマンを見下している。



俺は、壁にもたれながらキングの姿を眺めている男に気づいた。本戦出場が確定しているキャラクターの1人、ジークフリートだ。



日に焼けた肌に、金色の短い髪を持っている圧倒的なイケメンだ。ホストのような中性的なイケメンではなく、ワイルドで男らしいかっこよさだ。



趣味はサーフィンですとか言ってそうなイケメン、某男性アーティストグループにいそうといえばピッタリなのかもしれない。サングラスとスポーツカーがもしこの世界にあれば、間違いなく似合っている。



背中に無骨な大剣を背負っており、目は強者を品定めをするようにぎらついている。装備品も機能性重視で装飾などほとんどないが、それがとても良い雰囲気を醸し出している。



俺は早速ジークフリートに話しかけた。現実世界ならこんなイケイケのパリピっぽい男に話しかけられないが、ゲームでなら大丈夫だ。



「ジークフリートさん、ですよね? あなたも総選挙に出るのですか?」



「ん、俺の名を知ってるのか……、まあな、王位とかは正直どうでもいい、ただ強い奴と戦いたいだけだ」



このイケメン、典型的なバトルジャンキーだ。自分より強い者と戦いたいという願いを持っている。



「お前……名前は? かなり強いだろ」



ジークフリートは俺の全身を眺める。それだけで強さが分かるようだ。



「レンといいます」



「ふん、敬語はいらん、強者は気遣いなど不要だ」



「じゃあ、ジークって呼ぶね! ジークはこの中だと誰が強いと思ってる?」



「……まさかここまで急に距離感詰めてくるとは思わなかったが……まあいい、そうだな、国王、あっちの猫耳娘、あとは俺もよく知っているドレイク」



ジークフリートはその後、雰囲気を変えて続ける。



「それから、あの少女と柄の悪そうな男、お前の連れだろ? あいつらもとんでもない強者だな」



ジークフリートの分析が正確すぎる。もはや、よく異世界転生である鑑定とかいうスキルを、持っているんじゃないだろうかと疑いたくなる。



「世の中には強い奴がまだ多くいるんだな、親父並みに強い奴らがゴロゴロいやがる、俺もまだまだ強くならないとな」



俺は気になっていることを聞いてみた。



「じゃあ、あの仮面にフードの男はどう思う?」



あの仮面の人物も広場にいた。俺はジークフリートが何かしら情報を持っていることを願った。



「俺も知らない奴だが、あれは男じゃなくて女だな、ローブの上からだが、筋肉のつき方と動かし方で分かる」



予想外のことで俺は少し驚いた。背が高いからてっきり男だと思っていた。



「あいつもかなり強いな、恐らくスピードファイターだ」



あの速度、俺を超える速さだった。それだけで異常な存在だ。ジークがあの人物の正体を知っているのではないかと期待していたが、そう上手くいかないらしい。



俺はその後、いくつかジークフリートと話をして、その場を離れた。



その後、猫耳が可愛い子に挨拶に行き、リンに白い目で見られた。俺は別に猫耳が好きなわけではないんだが。可愛いのは否めないので、仕方ない。



__________________________



太陽が沈み始める。俺たちのパーティは街中のバラバラな位置に散らばった。リンとドラクロワと狩場が被るとスカーフ集めの効率が落ちるからだ。



俺は腕にしっかりとスカーフが巻いてあることを確認した。



いよいよ、バトルロワイヤルが始まる。俺の目標はもちろん、一位になることだ。



街中にゴングのような音が響き出した。開始の合図だ。俺は動き出す。街中で赤いスカーフを巻いた者たちが戦い始めた。



このイベント中はシステム上、HPが0になっても死ぬことがない。単純に気絶状態になるだけだ。だから、俺も思う存分戦える。



俺を視認した男達が一斉に襲ってくる。あまりに遅すぎる。俺は二刀流を抜き、切りつけながら男達の間を縫うように移動する。



一瞬で5枚のスカーフを手に入れた。このまま隠れていれば本戦出場は確定なんだが、俺の目標はスカーフ数一位だ。



戦闘の音がする方へ向かい、次々とスカーフを奪う。俺は残り時間とスカーフ数を常に意識する。ライバルはもちろん、リンやドラクロワだ。しかし、一番の敵は国王マックスだった。



ゲームでも毎回マックスが異常な数のスカーフを集めている。



俺は更にペースを上げて、敵を探す。落選者が増えてくると敵に遭遇する頻度も減ってくるが、1人が持つスカーフ数は増えていく。ある意味、スカーフ集めは運も絡む。



「ふんぬぅ!」



角を曲がった瞬間、強烈な風圧を感じた。俺は一瞬でその場を離脱する。マックスだ。どうやら運悪くマックスと遭遇してしまったようだ。体中に大量のスカーフを巻いている。この辺りの候補者は軒並みやられたのだろう。



マックスが完全に俺を狙っている。俺には逃げる以外の選択肢はない。拳が振り下ろされる。俺は回避したが、轟音が響き、風圧で吹き飛ばされそうになる。



マックスの攻撃は回避自体は容易いが、腕があまりに太く、当たり判定が広い。さらに風圧や衝撃波による二次被害もある。



俺は『不動心』を発動した。これで風圧や衝撃波が無効化される。この2つにはダメージはないが、のけぞりやノックバックは起こり得る。さらに当たり判定にランダム要素が含まれるから、俺でも完璧な回避をしようとすると、余分な動きをしなければならず、時間をロスしてしまう。



俺は一目散に駆け出す。戦うなんて愚かな選択だ。ここは逃げの一手。さすがに素早さは俺の方が高い。曲がり角を何度も曲がり、マックスを完全に撒いた。



その後、近くにいる候補者を片っ端から狩りまくり、スカーフ数を増やしていく。合計数が25になる。



運が良く、他の本戦確定者には遭遇していない。残りの時間を確認する。



マックスのスカーフ数は30から50の間になることが多い。ゲーム時代も一位になるためには運が絡んだ。自分の運とマックスの運だ。先程、遭遇したマックスを見る限り、結構スカーフが多めな気がする。



更にペースを上げたい。できれば、複数集めている候補者を狩って一気に枚数を稼ぎたい。



俺はそれから何人か狩って、38枚まで来た。残り時間があと少しになる。俺が自力でこれ以上の集めるには、今から絶対に本戦確定者に出会っていけない。彼らと戦ってしまえば、大幅な時間のロスになる。



そして、俺は大きな広場に出て、彼らに遭遇した。










「よう、待ってたぜ」



大剣を構え、にっと笑う放浪騎士ジークフリートと。



「にゃはは、私も会いに来たよ!」



猫耳が可愛い猫剣士ミアだった。



2人とも本戦進出が確定しているスカーフを奪うことが出来ないキャラクターだ。



俺は刀を構えて、向かってきたジークフリートの攻撃を避けた。ミアは向かってくる様子はなく、こちらを観察している。



ジークフリートは完全なアタッカータイプだ。魔法は使えず、スキルも攻撃スキルと自分の攻撃力を上げるスキルしかない。



素早さと攻撃力は突出して高いが、防御力は低く、攻撃を受ける前に敵を殲滅する戦闘スタイルだ。



優秀な後衛や盾役と一緒なら、アタッカーとしてかなりの強さを誇る。しかし、ソロではそのアンバランスなステータスが仇となる。



更に言えば、攻撃を避けることに特化している英雄にとっては、もはや相手にならない。



『剣の舞 閃』



大剣を使っているとは思えないほどの高速の剣技。ジークフリートは複数の『剣の舞』を使いこなせる。攻撃パターンも多い。



だが、俺には通用しない。



俺は全ての攻撃を回避し、カウンターを連続で叩き込み、ジークフリートを呆気なく、地面に横たわらせた。まあ、攻撃を受けなくても俺には斬撃属性が効かないのだが、英雄として回避することが力の誇示になると思っている。



ただこれでスカーフを奪おうとしても、すり抜けてしまう。ゲーム時代では彼らに遭遇するだけでタイムロスとなり、マックスに勝てる見込みが薄くなる。



しばらくして、コングが鳴り響き、バトルロワイヤルは終了した。



結局、俺が奪えたのは38枚だった。




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