表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
122/370

諦めない心



「ば、ばかな……俺様が……ただの人間に負けた?」



ドラクロワは何が起きたのか信じられないようで、呆然としていた。ドラクロワが噛ませ犬のようになってしまっていて、ちょっと可哀想だ。



このにゅーこく審査、LOLが発売された当初は特に話題にはならなかった。



単純に攻撃力のステータスが足りないだけだと、多くのプレイヤーが思い、またレベルが上がったら訪れようと考えた。



しかし、途中からある説が流れ始める。いつまで経ってもシュタルクに入ったという情報が流れて来ない。



「にゅーこく審査、絶対に勝てなくね」



ある英雄プレイヤーがかなり高レベルで挑んでも、門番に勝てなかった。この英雄プレイヤーは、更に躍起になり、ありとあらゆる手を使ってステータスを向上させて挑んだが、やはり勝てなかった。



最終的には、覇王ウォルフガングまで連れてきた。ネットで公開されたその動画は、大きな反響を呼んだ。その名も『覇王敗れる』だ。



あのウォルフガングが一介の門番に、腕相撲で吹き飛ばされる姿は、はじめ俺も爆笑してしまった。



しかし、ここで諦めないのが俺たち英雄だ。にゅーこく審査突破のためにあらゆる道を模索した。



そんな時、あるプレイヤーがこんな考察をした。



門番のセリフが関係しているのではないかと。腕相撲で負けた後、門番はあるセリフを言う。それには何パターンかレパートリーがあった。



「まだまだ腕力が足りないようだな!」

「まだまだ体力が足りないようだな!」

「まだまだ気合が足りないようだな!」



これがそれぞれステータスの数値を表しているのではないか、という考察だ。これは正しいことが証明された。



検証班により、他のステータスを変えずに攻撃力だけを変化させて門番に挑んだ結果、攻撃力が低い時は、腕力が足りないようだな!と言われ、攻撃力を高めた時は、体力が足りないようだな!に変化した。



そして、検証は続き、体力が足りないようだな!は最大HPが関係していることが分かった。



しかし、ここで検証班は大きな壁にぶつかる。気合が何の数値か分からないのだ。全てのステータスで実験をしたが、どうしても気合が分からない。



ここで出た仮説は、門番専用の変数が使われているのではないかというものだ。しかし、それが何かを見つけ出すのは不可能に思えた。



不正にゅーこくにチャレンジするプレイヤーも現れた。『空中散歩』により、空から侵入しようとすると、門番のフライングラリアットによって撃墜される。



壁抜けをしようとしても、中に侵入した瞬間、マッスルイリュージョンによって空間に現れた門番により、捕まってしまう。



もはや最強の門番だった。



そして、恐ろしいことに、このシュタルクに入らなければ進めることが出来ないイベントも多くある。にゅーこく審査を突破できないことで、全てのシュタルクが関与するイベントをクリア出来なくなってしまう。



特に注意が必要なのが、グランダル城下町で発生する『商人の護衛』というサブイベントだ。グランダル城下町にいるコポポというある成金商会会長の息子で、性格が悪い商人見習いがいる。こいつをシュタルクまで護衛するイベントだ。



ちなみにコポポの父親は浮気性で奥さんに逃げられ、いつも権力を盾に女性に言い寄っている。今頃、裏帳簿がバレて捕まっているだろう。



まずイベント発生の条件はグランダル城下町の門近くにいるコポポに話しかけるだけというものだ。



コポポは見た目が派手で、明らかにイベントキャラなので、街を隅々まで探索する生真面目プレイヤーは必ず話しかけて、このイベントを開始してしまう。



そして、絶望する。コポポが仲間になり、シュタルクまで護衛することになるのだが、このコポポ、敵の攻撃を一撃でも受けると『いたぁぁい! 帰るぅぅ!』というユニークスキルが発動する。



その効果により強制的にグランダル城下町へ戻されてしまう。画面がブラックアウトし、景色がグランダル城下町に変わり、「チミのせいで、ひどい目にあったよ、チミ、この国の宝であるボクを守る気あるの? 弱すぎて、まだその辺のホームレスの方が良い働きをするよ」とネチネチと文句を言われ、初めからやり直しになる。



つまり一度もコポポが攻撃を受けずにシュタルクまで連れていかなければならない。これがとても難しい。素早さがとても遅く、敵の攻撃は回避出来ないし、パニックになると急に走り出して、自滅する。



そして、コポポはイベントをクリアするまで、仲間から外すことができない。これが『にゅーこく審査被害者の会』が設立された大きな要因だ。



シュタルクに入れない以上、コポポは常に仲間にいる。そして、どれだけ遠くに移動しても、コポポが一撃でも攻撃を受ければ、はじめの街であるグランダル城下町まで戻されてしまう。



これではゲームが全く進められない。コポポを仲間にしてしまった被害者達はあらゆる方法を試みた。



コポポを街に置き去りにしたり、石化させて放置したり、高価な防具を装備させて被ダメージを0にしたり、そんな努力は全て水泡と化した。



コポポは主人公から決まった距離が離れると、自動的にスキルを発動する。「チミ、護衛なのに、ボクを置いていって、何を考えているんだい? これだから貧民の考えは分からないよ」と文句を言われる。石化して放置してもスキルが発動し、石化が解けていて、文句を言われる。



石化したコポポを担いで運ぶ方法も試されたが、範囲攻撃で石化したコポポに攻撃が当たればスキルが発動する。防御を上げて被ダメージを0にしてもスキルが発動して、戻される。



このように仲間にした瞬間、ゲームが詰むことが確定するイベントだった。



話がだいぶ脱線してしまったが、他にもシュタルクに入らないことで大きな不利益を被るイベントがいくつかある。今ではそれらのイベントは発生させないように回避するのが主流になっている。



「さあさあさあ!  次の相手は誰なんだーい?」



門番が大胸筋をピクピクさせて、誘ってくる。仕方がない。そろそろ俺の出番か。



「俺がやる」



「ほほーう、今度は華奢なボーイだ、そんな貧弱な筋肉で、このビューティフルマッスルに勝てるのかな?」



「締まってるよ、締まってるよ」と謎の合いの手が入る。



俺は既に300レベルオーバーだ。筋力と体力、つまり攻撃力と最大HPは十分に条件を満たしている。あとは気合だけだ。



実はこのヒントは合いの手を入れるもう1人の門番がくれる。負けた後にこいつに話しかけると、「折れない心、諦めない強い気持ち、それこそがマッスルメンタルだ!」とよく分からないアドバイスを言われる。



これがヒントだった。実はこの気合という数値、チャレンジした回数によって、上昇していく。つまり最初に勝つことは絶対にできない。



必ず拮抗した状態に陥り、門番の必殺技で負ける。一定時間以内に10回負けた後、11回目に勝てるようになっている。



この一定時間というのも結構シビアで、負けたらすぐ再戦というサイクルを繰り返していってちょうど良い。



次の日になったり、少しでも休憩を挟んだりしてしまうと、回数がリセットされてしまう。そもそもこれだけのヒントで、普通にプレイしていたら気付けるはずがない。負けると分かっているのに、11回も連続で挑戦し続ける頭がおかしいプレイヤーしかクリア出来ないだろう。



これはある検証班の英雄が、どうしても勝つことが出来ず自暴自棄になり、ただ無心でひたすら挑戦をし続けた結果、発覚した。



ついに門番を倒すことができ、この情報に今まで多くの時間を費やした検証班は歓喜したのが良い思い出だ。あの時、歴史が動いたと言っても過言ではない。



俺は門番の手を握り、開始の合図を待つ。



「レディ、ゴー!!」



合図と同時に、渾身の力を入れる。()()()()へと。つまり、俺の手の甲の方向に力を入れた。



当然、一瞬で負ける。門番はきょとんとしていた。



普通にプレイしてしまえば、必ず勝負は拮抗し、アホみたいに長い名前の門番の必殺技が繰り出されてしまう。だから、時間のロスを避けるためにもこれが最善策だ。



「もう一回、やらせてくれ次は勝つ!」



「……あ、ああ、さっきのは何かの間違いだな! 良いだろう! かかってきなさい!」



再度、手を握り合う。



「レディ、ゴー!!」



「やられたー」



1秒もかからずに敗北し、すぐに腕を握りなおす。



「もう一度、再戦だ!」



「……その……腕相撲のルール知ってる?」



門番の困惑を無視して、負けまくる。あっという間に10回負けることができた。仲間達も初めこそ、奇妙な戦いに興味を持っていたが、もう飽きてきている。俺が弱すぎると思っているのだろう。



「ドラクロワ、よく見ていろ、これが英雄の力だ」



準備は整った。



「悪いな、門番、今までのは全てお遊びさ、今から本気を出させてもらう」



「ははは、いいだろう、君の熱き本気をこの腹筋にぶつけておくれ!」



11回目、俺は打って変わって、全力で腕相撲を行う。門番の表情が歪む。



「な、なんなんだ! この圧倒的なパワーは!」



「悪いな、これが英雄の勝ち方だ! メテオドライブインパクトォォオオ!」



べちっ。



机に門番の手の甲が触れた。つい気分が乗ってしまって、門番が使っている技名を叫んでしまったが、地味な勝利でちょっと恥ずかしい。



「くっ、私の負けだ、見事なマッスルだったよ、にゅーこくを許可しよう!」



他の仲間達は何が起こったのか理解できず、驚いた表情で俺を見ている。特にドラクロワはよほど信じられないのか、口を大きく開けて、固まっていた。



リンはもう慣れているのか、全く驚いていなかった。また変な技を使ったのね、ぐらいにしか思っていないのだろう。



こうして、俺達はシュタルクへの入国許可を手に入れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ