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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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回避王への道



それから俺はリンをパーティーに入れ、ポチと遊び始めた。リンは張り切っていたが、何もせずポチとじゃれあっている俺に不服そうに声をかけた。



「そろそろ先に進まない?」



「え? いや、進まないよ、だって敵いたら危ないし」



俺の返答にリンは眉間に皺を寄せる。その仕草が可愛い。



「でもここで遊んでても仕方ないじゃない」



そこでようやく俺はリンが知らないことに気づいた。今思えば、プレイヤーは常に視界にダイアログが流れるが、NPCは気づかないのだろう。



「今経験値稼いでる、もうリンも5レベルくらい上がってるよ」



俺のダイアログには断続的にブルースライムからの経験値が入っていた。さすがに推奨レベル65のダンジョンモンスター、三等分されているとはいえ、すごい勢いでレベルが上がって行く。



これぞ英雄達が編み出した『養殖スライムレベリング』だ。タールが尽きるまで寝ててもレベルが上がって行く。



「え!何これ、すごい、けどちょっとずるい」



彼女が自身のレベルを確認して言った。その言葉が俺の琴線に触れた。彼女は言ってはならないことを言ってしまった。



俺は一気に彼女に近づき、まくし立てた。



「いいか、これは正攻法だ、決してズルではない、そもそもこのLOLのピーキーな難易度設定はまともな人間ではクリアできない、こうゆう抜け道を使ってやっとクリアできると思いきや、やっぱり出来ないくらいの難易度なんだ、俺たち英雄が長い月日を費やし、彼女も作らずというか作れず、学業も犠牲にし、友達関係も絶って、というか初めからそもそもほぼないが、その血の滲むような努力のすえにたどり着いた技なんだ、それをズルなどと呼ばせることは許せない」



リンは泣き出した。




















俺は冷静になり、何とかリンを宥めた。リンは10分ほど泣き続け、落ち着いた。



涙目のまま、俺が少しでも動くと、身体をびくっと反応させて怖がっている。



「悪かったよ、もう怒ってないから安心してくれ」



リンはまだ若干距離を感じさせながら頷いた。やってしまった。理想郷が遠のいてしまった。



俺は何とか挽回しようと策を練る。そして、思いついたアイデアを口にした。



「よし、俺が稽古をつけてやろう」



ふと思いついたのだ。ゲーム時代はNPCにテクニックを教えることなどできなかった。だから回避が元から上手い素早さが高いキャラが使える仲間ランキングで上位にくる傾向があった。だが、現実になった今なら仲間にも俺の回避テクニックを教えられるかもしれない。それで大きく生存率が上がるはずだ。



「リンには強くなってもらいたいからな」



俺の言葉にリンの目が燃え始めた。彼女の性格はよく知っている。頑張り屋という二つ名の通り、彼女は熱血、スポ根、努力、修行、などのテーマが大好きなのだ。



「わかった、私がんばるから」



小さな手で拳を作り、気合を入れてガッツポーズをする。その仕草が可愛い。もうスイッチが入っており、先程の泣き虫なところは完全な消えていた。



俺は立ち上がり、リンから距離を取った。



「まずは見本を見せてやる、俺に一撃を入れてみろ、全力でいい」



「これでも私は冒険者の端くれ、甘くみないでね」



20分後、汗だくで肩で息をして座り込んでいるリンがいた。



「はぁはぁ、レンってすごい……全く当たらない」



俺は汗一つかかず、リンを見下ろしていた。まあ当然だろう。リンみたいに攻撃モーションが素直なキャラの攻撃を歴戦の英雄が回避できないはずがない。



「いいか、分かったと思うが回避こそ全てだ、この世界では一撃で死ぬ攻撃をしてくる奴らが五万といる、防御力なんて何の意味もない」



LOLプレイヤーは回避テクニックにランクをつけていた。一番下からスケルトン級、ガルーダ級、シャドウアサシン級、エルザ級、ナイトメア級、アバランチ級だ。これらはその名前となっている敵の攻撃を完全に避けるテクニックがあるかどうかで判断される。一つだけ敵ではなくて味方キャラだが、気にしないで欲しい。ちなみにチュートリアルの巨神兵の難易度はスケルトンよりも下だ。



そして、英雄と認められるのはアバランチ級を持っている者のみ。魔神兵器アバランチ、5本の機械のアームや5個の備え付けてあるレーザー砲がバラバラに動き、攻撃してくる強敵だ。



レーザーはまさに光速であるため、撃たれてからの回避は不可能。常に5個のバラバラに動く銃口の射線に入らないようにしながら、5本のアームの攻撃を回避しないといけない。更に背中から追尾ミサイルを撃ってくる。



俺は最大3体のアバランチに囲まれて、1時間回避を続けた。もはや、頭で考えていては間に合わないレベルだった。身体が勝手に動き、未来視にも匹敵する予測ができていた。現実になった今はあのような無茶はできないだろう。



俺はゲーム時代のことを思い出しながらリンに回避テクニックをレクチャーする。必要なのは予測だ。敵の攻撃モーションを予測し、その軌道から身体を逸らす。その際に出来る限り最小限の動きで回避をすることも気をつけないといけない。攻撃が連撃となる場合、次の攻撃も見切らないといけないので体勢を崩してはならない。



一通り説明した後、実戦をしてみる。



「よし、じゃあ今度は俺が攻撃するから、回避してみろ」



「はい!よろしくお願いします、師匠」



いつのまにか師匠になっている。



俺は木の棒をアイテムとして取り出し、わざと大振りで上段から攻撃した。リンはその攻撃を見切り、左にひょっと避けた。俺は振り下ろした木の棒を跳ね上げるように斜め上にふる。リンは避けきれず、攻撃が直撃した。



「い、痛い……」



「今上段からの攻撃を回避した際、安心して気を抜いただろ、攻撃はほとんど連撃でくる、次を予測しないといけない、そもそもあの振り下ろした状態なら次の攻撃は逆袈裟しかない」



それから俺たちは2時間ほど訓練に励んだ。リンの動きはまだまだだが、大分良くなった。飲み込みが異常に早い。あと二、三日でスケルトン級にはなれるだろう。



そこで俺の道化師の熟練度がマックスとなったので、今日は打ち止めにした。職業を変えてからレベルを上げないともったいない。



俺のレベルも34まで上がり、ポチはレベル15、リンは初期レベル1から13まで上がった。ポチが次のスキルを取得したのは非常に大きい。



『ワンモアチャンス』俺にとってポチがナンバーワンなのはこのスキルによるところも大きい。『ワンモアチャンス』は主人公のHPが0になると自動的に発動し、HP1で復活できるのだ。もし回避にミスって一撃死しても一回生き返れるのは、かなり大きなアドバンテージだ。もちろん、一日に1回しか使用出来ない制限はある。



俺も道化師のスキルを全て覚えることができた。



『ハリセン』どこからともなくハリセンを取り出し、叩く。大きな音を立てることができる。音だけでダメージは与えられない。



『金ダライ』対象一体にどこからともなく現れた金ダライを落とす。1のダメージを防御力無視で与えることができる。少しの間ヒヨコが頭上に現れ、スタン効果がある。



『ボケ』ボケることができる。特に意味はない。ツッコミがいないから寂しい。



『ジャグリング』どこからかお手玉を取り出して、ジャグリングする。発動すると20秒くらい他の行動が何も出来ない。特に意味はない。



これらのステキなスキルを手に入れた。



「ポチ、帰るぞ」



居眠りしてるポチを起こし、俺たち二人と一匹は城下町へと帰還した。









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