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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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おもてなし



「さあ、我が眷属達よ、客人に美酒を振る舞うが良い」



ダイニングに移動し、俺たちは席についた。バレンタインは高らかにそう告げる。



ドアが少し開き、大きめの蜘蛛がお盆を背中に乗せて入ってくる。



「ぎょえええええ、くくく、くも! くもむりぃ!!」



俺は絶叫して、隣の仲間に抱きついた。この抱き心地、安心感がある。



「悪いな、旦那、俺にそっちの趣味はないんだ」



「って、ちがーう! というか蜘蛛に運ばせないくれ!」



蜘蛛の背中にあるお盆にシャンパングラスがあるが、歩くたびにめちゃくちゃ溢れている。そもそも蜘蛛に運ばせるのが、無理だろう。



「エリザベス! 君という女は! あんなに何度も練習したじゃないか、もっと揺れないように歩くんだ」



バレンタインが蜘蛛に向かって謎の説教をし始めた。



「もういい、エリザベスは下がっていなさい、客人が君を怖がっているからね、アンドレ、料理を持ってきなさい」



次に蛇が現れる。頭の上に乗せたお皿からソースがドボドボと床に流れている。



「いやいや、さすがに蛇に運ばせられないでしょ」



「旦那、蜘蛛はダメなのに、蛇はいいのか?」



「ん? 普通蛇は別に怖くないでしょ」



「俺には旦那の感覚がわからないな」



おかしなギルバートだ。それにしても、バレンタインは床に手を付き、お皿を懸命に運ぶ蛇を応援していた。



「アンドレ! もう少しだぞ! あれだけ練習したじゃないか! ソースは少し溢れているが、やり遂げるんだ!」



アンドレと呼ばれた蛇は何とか机までたどり着いた。ドラクロワが皿をひょいっと持ち上げて、机に置いた。



「おう、ヘビ公、てめぇ、ガッツがあるな」



ドラクロワが親指を上げて、蛇を称賛する。他の者達も自然と拍手をした。蛇は照れ臭そうに戻っていた。



いや、何だよ、これ。



俺は思わず突っ込みたくなる。続いて、またバレンタインが

指を鳴らす。



「続いて、我が眷属によるもてなしの音楽を披露しよう」



悪い予感しかしない。奥にあったカーテンが開いて、コウモリやカエル、黒猫などが現れる。その前にバレンタインは立ち、タクトを振り翳した。



「さあ、今まで練習した成果を見せる時だ」



そう言って、大きくタクトを振り下ろした。



ネコが爪でバイオリンの弦を引っ掻き、蛙がトランペットの口を舐め、コウモリはシンバルに身体をぶつけて、気絶した。



もはや、ただの騒音でしかない。



「な、何をやっている、この日のために必死に練習したじゃないか! フランシス、トランペットは舐めるだけでは音が出ないと何度も教えただろう、それにアンジェリカ、君は弦で爪を研いでいるだけではないか、シュミット、君はいつも気絶してしまう、なぜいつも頭から行くのだ、身体を当てるんだ!」



バレンタインが空回りまくっている。一同はただそのやり取りを、どうして良いのか分からず見守っていた。



「別にそこまでもてなそうと頑張らなくてもいいと思うな、俺たちはただ、美味しい酒と飯があれば十分だ」



ギルバートが見兼ねて助け舟を出す。



「私も料理を手伝うわ、メアリーがするんだけど」



ユキはそう言って、メアリーにチェンジする。



バレンタインは涙目で俺たちを見つめた。若干気持ち悪い。



「うう、何という優しさ、懐の深さ、我は感動した!」



こうして俺たちは全員で宴会の準備をし始めた。問題は食糧がないことだ。最後に買い物に行ったのは、80年ほど前らしい。結局俺たちは自分達の食料を持ち寄った。



ただワインだけはビンテージの物が多く、美味しいものがあった。何本かは酢に変わっていたが。



「そうだ、我が家族も呼ぼう」



バレンタインが指をぱちんと鳴らす。しばらく待ったが誰も来なかった。バレンタインはこほんと咳払いをして、立ち上がった。そして、部屋を出て行く。



少しして、2人の人物を連れてきた。



巨大な鋼鉄の鎧。ガランは軋みながら歩き、頭を下げた。



「拙者はガラン……よろしく頼む」



無口な武人タイプ性格をしている。続いて、隣で少女の西洋人形が浮いていた。



「あら、私の遊びに付き合ってくれなかった人ね、私はアリスよ」



スカートの両端を持ち上げ、貴族のようなあいさつをするのは、闇人形アリスだ。



アリスとガランも混じって、宴会が再開される。2人は食事をしないが、すぐに仲間たちと打ち解けていた。



「ふははは、アリスよ、我が伝説を語ってやってくれないか?」



「いやよ、面倒くさいもの、それより、あなた達2人、彼氏はいるのかしら?」



アリスはバレンタインを完全に無視して、メアリーとリンと女子トークを続けている。



「……で、ではガラン、君に我が伝説を語ってもらおう」



「御意、我が主人は……すごい、どこがすごいかというと……いろいろすごい」



ガランはボキャブラリーが少な過ぎて、全く凄さが伝わってこない。



「……仕方がない、我自身が伝説を語ってやろう、時は1500年前、ある貴族の」



何かバレンタインが自分語りを始めたが、誰も聞いていなかった。俺もワインを飲みながら、女子トークの内容を気になって盗み聞きしていた。



「好きなタイプはあるのかしら?」



「私より強く、修行を見てもらえる人、パーティ全員の生存確率を上げるために行動できる人ね」



リンは質問の意図を理解していない気がする。



「私は優しい人だったらいいな、こう、キラキラしてて、王子様みたいな人かな、ちなみにユキちゃんの好きなタイプなら私、全部分かるよ」



メアリーは子供らしい解答で微笑ましい。



「あ、ごめん、ユキちゃん、怒らないで、ちゃんとレンさんには秘密にするよ」



どうもメアリーとユキの間でやり取りがあったらしい。何で俺の名前が出たのだろうか。



ふと見ると、ポチが黒猫のアンジェリカと一緒に良い感じになっていた。実際は分からないが、2人でご飯を仲良く食べてて楽しそうだ。



「では、場も暖まってきたところで、我の渾身の見せ物をしよう、ドラキュラギャグ、略してドラギャグ100連発だ!」



バレンタインが踊るようにして、前に出る。そして、急にモジモジしながら、ギャグを放った。



「にんにくがーーー、にくい!」
























無音が生まれた。全員が固まり、困惑が生まれる。あまりの笑えなさに恐怖すら感じる。



「は、は、は……とても……うける」



ガランが棒読みで言った。



それから残り99個のドラギャグは、苦痛以外の何物でもなかった。ガランが事務的に99回、とても……うける、と言い続けた。俺はむしろその忠誠心に感動をしていた。






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― 新着の感想 ―
[良い点] エリザベスさん、アンジェリカさん、シュミット氏、いいですね!!アンドレ氏とフランシス氏とともに、ぜひ今後も!登場してほしい!!
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