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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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ジェノサイド戦



俺は古びた洋館の中に入った。同時に燭台に紫色の炎が灯る。蜘蛛の巣が天井に張り巡らされ、床には埃が積もっている。まるで某ゾンビホラーゲームに登場するステージだ。



俺はすぐに先に進むドアを開け、次の部屋に向かう。屋内なら隠れる場所が多い。先程いた部屋から物音が聞こえた。ジェノサイドも俺を追って入ってきたようだ。



奴は狂気に支配されているように見えて冷静だ。AIに知性がある。僅かな物音でも追跡してくる。



俺は行き止まりのルートに入らないように注意しながら、ドアを静かに開けて、次々と部屋へと進む。



「あら、こんにち……」



部屋に入った瞬間、喋り出した少女の人形の口を慌てて塞ぐ。今は音を出すわけにはいかない。



少女の人形は息苦しそうに、もごもご喋っている。



美しい青い目とブロンドの髪、紫色のドレスを着た人形だ。人形は急に黒い闇になって消えた。俺はほっとした。あとは今の音をジェノサイドに聞かれているかどうかだ。



しばらく待ったが、物音がしない。諦めて帰ったという説を信じたい。



ドアが急に開き、ジェノサイドが姿を表す。俺の希望はあっさり打ち砕かれた。



ジェノサイドは一歩で俺を間合いに捉え、大鎌を振りかぶる。俺は一歩後退した。これで大丈夫なはずだ。



ジェノサイドの一撃が途中で中断される。成功した。やはり屋内に逃げ込んだのは正解だ。部屋にある柱が鎌の軌道に入っているため、振り抜くことが出来ない。攻撃が中断されれば、素早さは上がらない。



このまま鎌を振り抜けない狭いところに居続ければ安全だろう。何の解決にもならないが、ジェノサイドも俺を殺せないはず。



ジェノサイドは左手の鎌を背中にしまい、手を俺に伸ばす。そして、俺の胸ぐらを掴んだ。



「えっ? ちょ、ちょっと待って、それ、反則!」



凄まじい力で引っ張られ、俺は柱の影から引きずり出される。何とか妖刀村正で掴まれていたジェノサイドの手を打ち払うが、すぐに大鎌の攻撃が来た。



俺はそれをすれすれで回避する。



甘かった。安全地帯なんて甘いことを考えていた。ゲームでは掴み攻撃なんて無かったが、現実になりジェノサイドは自ら考えるようになっている。



大鎌が届かないなら、掴んで引きずり出せばよい。そんな当たり前の考えが出来るようになっていた。



俺は踵を返して、脱兎のごとく逃げ出す。素早さは相手の方が速いが、障害物を上手く駆使して距離を取る。



危なかった。もしジェノサイドの手にも即死判定があれば、俺は触れられた瞬間に死んでいた。



奴が俺を引っ張り出してから大鎌で攻撃したことから、即死判定は大鎌にしかないことが分かる。



「あら、また会ったわね」



西洋人形か、話しかけてくるが、俺は無視して素通りした。

今はそれどころじゃない。



逃げ続けても埒が開かない。いずれ、俺の体力が尽きて、追いつかれる。



俺は覚悟を固めた。ミレニアム鑑賞イベント、誰もクリアしたことのないジェノサイド討伐を成し遂げるしかない。



ゲームと現実は違う。そのせいで、ジェノサイドは強化された。しかし、条件は俺も同じだ。現実になったからこそ、出来る手もある。



俺はドアを開け、その部屋の中央で立ち止まった。そこは可愛らしいぬいぐるみなどが溢れた子供部屋だった。



部屋の奥に続くドアを開けた。長い廊下が続いている。



俺は先に進まずに、振り返った。そして、ちょうど追いついてきた怪物に相対した。



不気味なうめき声を上げ、口から白い湯気が吐き出されている。



「ジェノサイド、逃げるのは終わりだ、覚悟しろよ」



俺は斬鉄剣と妖刀村正を構える。



あらゆるダメージを与えられず、状態異常無効、デバフ無効、大鎌に触れたら即死。素早さが天井知らずに上昇していく正真正銘の怪物。



俺は今からジェノサイドを攻略する。



誰もが不可能だと諦めた敵だ。恐らくゲーム制作スタッフすら、倒させる気がない。死の谷を越えさせないために作られたモンスター。



だが、不可能を超えるのが、英雄の仕事だ。



俺は笑っていた。集中力が極限まで高まる。意識が広がり、ほんの僅かなジェノサイドの動きまで精密に知覚できる。



ジェノサイドが動いた。速い。俺が攻撃を回避し続けた為、恐ろしいほど速くなっている。



しかし、その速さは()()()()だ。



大鎌の軌道が見える。横薙ぎだ。俺は地面すれすれまで身体を低くして、その攻撃をやり過ごす。



そのままジェノサイドの脇を通過し、左手側に移動する。ジェノサイドは遠心力をそのままに回転して、二撃目を放つ。先ほどより更に速い。俺は右後ろにバックステップしながら、かわす。



ジェノサイドに明確な隙が出来た。あらゆるダメージを受けないジェノサイドに防御という意識はない。



さあ、お前を終わらせる攻撃を受けてみろ。



『ドッペル』俺の身体が2つに分身する。



全て計算した。俺の計算にミスはない。これでジェノサイドを倒せる。



俺は意を決し、『閃光連撃』を放った。



無数の連撃がジェノサイドを襲う。しかし、やはりダメージの数字は現れない。



ジェノサイドが吹き飛ぶ。俺は追撃に入る。初めから『閃光連撃』で倒せるとは思っていない。俺の真の技はこの後だ。



吹き飛んだジェノサイドは向こうの部屋まで飛ばされるが、すぐに起き上がろうとする。



俺はすぐにその最強の技を放った。



これでさよならだ。ジェノサイド。



あらゆる敵を葬る。英雄としての最強の技。その名も……。






















『ドアを閉める』だ。























俺はドアを閉めた。



















「よっしゃ! 勝った!!」



俺は勝利のダンスを踊り始める。ミレニアム懸賞イベントをクリアして、踊らない英雄はいるだろうか、いや、いない、反語。



俺は遂にミレニアム懸賞イベントすらクリアしてしまった。嬉しさが止まらない。



ジェノサイドはいつまで経っても、ドアから出てこない。出てこれるはずがない。



俺の思いついた最強技『ドアを閉める』に勝てる敵などいない。



俺はあるバグを利用した。無限隠れんぼと呼ばれるバグだ。



闇人形アリスを仲間にするために、彼女と屋敷の中で隠れんぼをすることになる。



彼女を見つけても、近づくとすぐに消えてしまい、それを何回も繰り返して、最終的に彼女を捕まえるイベントだ。



そう、俺が口を塞いだのは闇人形アリスだ。あの時、もごもご言っていたのは、「私の力が欲しければ、私を捕まえてごらん、ほら、おーにさん、こーちら」だ。そして、姿を消した。



あれでイベントが始まった。アリスのイベント中は屋敷のマップが特殊な編成をされる。



例えば、ドアを開けて次の部屋に入り、また同じドアから元の部屋に戻ろうとしても、別の部屋になっている、という感じだ。



そして、ここには致命的なバグがある。ある順番で部屋に入ってしまうと、永遠に外に出れず、かつアリスを捕まえることもできない状態になるのだ。



そうなってしまえば、リセットしてやり直す以外、方法がない。



これが無限隠れんぼと呼ばれる所以だ。だから、俺はジェノサイドを無限隠れんぼに嵌めた。



無限隠れんぼになるルートは覚えている。俺は無限隠れんぼになるギリギリまで、移動した。あと一つドアを潜れば、無限隠れんぼになるところまでだ。



そして、ジェノサイドはダメージを与えられなくとも、吹き飛ばすことはできる。だから、俺は次の部屋にジェノサイドを吹き飛ばした。



後はドアを閉めれば、無限隠れんぼが発動する。ジェノサイドがドアを開こうが、この部屋には二度と戻ってこれない。



ジェノサイドは永遠に出ることが出来ない牢獄に捕われた。



「ふぅー、よし、戻るか」



また1つ不可能を超えることができた。



俺は来た道を戻り始める。途中の部屋に壁にもたれかかっている大きな甲冑があった。






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