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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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先代の魔王



プロメテウスは優雅な動作で俺の攻撃を回避する。その瞬間、カウンターで無数の剣閃が俺を貫いた。プロメテウスの斬撃は剣速が速すぎて英雄でも回避できない。



「なるほど、まだ私の攻撃が効きませんか」



俺がダメージを受けていないのを見て、プロメテウスは目を細める。『生魔転換』による無敵時間はもう終わっているが、『剣の極み』による無効化をプロメテウスは勘違いしたようだ。



プロメテウスが頭上に手を掲げる。



俺はすぐに斬鉄剣を外し、ミラーシールドを装備する。



プロメテウスの手から光が頭上に打ち上がり、雨のように降り注ぐ魔法【セイントレイン】だ。



ミラーシールドで跳ね返せば、かなりのダメージを与えられる。次からは使わないと思うが、初回でダメージを稼げる。



プロメテウスはアリアテーゼのように完全回復魔法を使えない。だから、ダメージを蓄積していけば、倒せる。



そこで俺はふと気づいた。嫌な予感がした。違う。狙いは俺じゃない。



俺は振り返る。初めから攻撃の対象はアリアテーゼ達だった。今あの一撃を食らえば、リンとギルバートは即死する。



俺は咄嗟に行動する。ポチは会話による意思疎通が出来ないが、スキルは俺の意思で使用できる。



【セイントレイン】が3人を貫いた瞬間、俺の視界は暗転した。



真っ暗な中でポチの遠吠えが聞こえた。一気に意識が覚醒する。



俺は『ワンフォーオール』の対象を俺にして発動した。会話で引き伸ばしたから、クールタイムを間に合わせることがギリギリできた。



リンとギルバートのダメージを全て肩代わりして、俺はあえて死に、ポチの『ワンモアチャンス』で復活した。



しかし、同じ手は二度と使えない。



アリアテーゼも数発ダメージを受けているが、高い魔法防御に助けられている。魔法が使えなくてもステータスは健在だ。



「やはり魔法はあまり効きませんね」



プロメテウスは軍刀で突きの構えをし、切っ先は遠く離れたアリアテーゼに向ける。



刀身に紫電が迸る。



『雷光突き』



目に追えない速度で直線的に突きを繰り出す技だ。



俺は構えから軌道を読み、その軌道に身体を挟んだ。そして、シビアなタイミングでスキルを発動する。



『流水の構え』



プロメテウスの姿が消える。同時に俺に凄まじい衝撃が加わる。



突きを受け止め、カウンターが発動し、プロメテウスが吹き飛ぶ。構えから発動までの時間は知っている。発動後、ほぼ0秒で対象を貫くスキルなので、発動する瞬間に『流水の構え』のカウンター時間を当てることが英雄なら可能だ。



辛うじてプロメテウスの攻撃を防いでいるが、全て紙一重だ。



【アイシクルランス】



鋭い氷柱が弾丸のような速度でプロメテウスを狙う。吹き飛ばされているプロメテウスは、地面に足が着いた瞬間、消えたような速度で回避する。



ユキが奥の部屋から加勢にきた。



「ごめん、レン、足止めしきれなかった」



それは予想の範囲内だ。大きいステータス差と何よりプロメテウスの戦い方はユキと相性が悪い。



「あなたもしつこいですね」



プロメテウスが白い手袋をユキに向ける。ユキの身体から緑色の光が現れ、プロメテウスに向かう。



『マナドレイン』対象のMPを吸収する。



普通のモンスターの『マナドレイン』は嫌がらせのような効果しかないが、プロメテウスの『マナドレイン』は異常だ。



凄まじい速度でMPが減少し、あっという間に底をつく。普通の魔法使いキャラではプロメテウス戦で使い物にならない。



アリアテーゼやソラリスのように『MP超高速回復』でもなければ、アイテムの回復程度では間に合わない。



本来であれば、ユキに精霊魔法『ニブルヘイム』を使わせたかったが、MP不足でそれは叶わない。



俺は再度、プロメテウスに向かって走る。プロメテウスはバックステップをした。



「あなたに近づくのは危険です、何を企んでいるか分かりませんので」



一気に距離を取られる。



【オールダウン】



プロメテウスが指を鳴らす。同時に俺の身体に黒い光が現れる。全能力低下のデバフだ。



ただでさえ、素早さが高いプロメテウスとの差が大きくなってしまった。これは致命的だ。本来の素早さなら足止めできるが、下げられてしまえば、奴のスピードに追いつけない。



プロメテウスはバランス型で尖ったステータスがない。攻撃力、防御力、素早さ、最大HPはウォルフガングに劣り、魔法攻撃力、魔法防御力、最大MPはアリアテーゼに劣る。



しかし、搦手を使わせたらプロメテウスの右に出る者はいない。奴は補助魔法、状態異常魔法などのスペシャリストだ。



【ディザスター】



プロメテウスの手からから黒い波動が俺に注がれる。あらゆる状態異常に高確率でかかる最強の状態異常魔法だ。



腕輪で2種類を無効にしても、他の状態異常に同時に一斉にかかる。だから、神兵の腕輪は必須装備だ。もしなければ、使われた瞬間に負けが確定する。



俺は後ろを振り返る。ちょうど、リンとギルバートはアリアテーゼを連れて部屋を出たところだった。



「これも効きませんか、随分と私と戦うために準備されているようですね」



プロメテウスは俺に【ディザスター】が効いていないを見て、俺から視線を切った。



プロメテウスは俺を見ていない。厄介な俺の相手をするより、アリアテーゼを殺すことに切り替えた。



デバフにより下げられた俺の素早さでは、アリアテーゼに向かうプロメテウスを止められない。



エリクサーで回復しようとしたが、プロメテウスはそれより早く動き出す。



プロメテウスと一対一なら倒す算段があった。やはりアリアテーゼやウォルフガングのような、どうしようもない程の強さはない。今の俺で十分に戦えている。しかし、奴が戦闘を回避してしまえば、話にならない。



俺を無視して、仲間の所に向かってしまう。



「待て! お前の相手は俺だ」



追いかけながら声を張り上げる。プロメテウスは俺に見向きもしない。距離が離される。



リンとギルバートではプロメテウスの前で何も出来ず殺される。



俺にはもう祈ることしか残されていない。



全員が助かる唯一の方法がある。その為の仕込みはしている。



あとは運次第だ。最果ての村を出てからの時間はずっと意識している。



俺の読みでは、そろそろのはずだ。いつその時が訪れてもおかしくない。そのために、時間稼ぎもした。



俺はプロメテウスに少し遅れて、部屋を出る。既にプロメテウスはリン達との距離を詰めている。



プロメテウスが軍刀を振るう。





















残念だったな、プロメテウス。



その刃はもう届かないよ。
























振るわれた軍刀が静止する。その男は手のひらで、斬撃を止めていた。手には傷1つついていない。



「プロメテウス君、何をしているのかな」



プロメテウスの表情に焦燥が走る。一瞬でバックステップして、距離を取る。



アリアテーゼが現れた男に助けを求める。



「ダンテ! プロメテウスはこの妾を殺そうとしています! それに魔王様を」



「落ち着いてください、アリアテーゼさん、私は耳が良いので、全て聞いていましたよ」



プロメテウスの姿が消える。ダンテに目論みが伝わった以上、開き直ったのだ。



無数の斬撃がダンテを狙う。



「やめなさい」



俺はダンテが何をしたのか、知覚出来なかった。消えたプロメテウスの身体がいつの間にか吹き飛ばされている。ダンテは手を払ったような動作をしただけだった。



プロメテウスはゆっくりと立ち上がる。かなりのダメージを負ったようで、表情は苦痛に満ちている。



これが俺の保険だった。



プロメテウスが魔王城でアリアテーゼを殺そうとする上で、こちらの味方になり得るダンテを遠ざけるのは予想していた。



ドラクロワとは違い、ダンテは地位的には魔王軍のトップだ。プロメテウスから指示を出すことは出来ない。



ならば、最果ての村を襲わせ、救済に向かわせる選択が一番だ。1度目の襲撃はちゃんとダンテが助けに来るかのテストも兼ねていたのかもしれない。



しかし、アドマイアなどに襲わせたところで、他の者でも同じだが、ダンテ相手に時間稼ぎにならない。



だから、一旦姿を消して、ダンテに捜索させようとするだろう。俺ならそうするし、ネロならその選択をする。



だから、それをさせないように手を打った。最果ての村には殺戮兵器アドマイアを止めることができる者が1人だけいる。



勇者アランだ。アランにはアドマイアのスキルや行動を教え込んだ。300レベル越えの元勇者だ。アランならば、アドマイアを倒せる。



これにより、時間稼ぎが出来なくなり、ダンテはすぐに戻ってくることになる。



ネロは優秀である分、行動がある程度読める。アリアテーゼとプロメテウスが同席していたのには驚かされたが、ダンテの方は読み通りだったのだろう。アランにも感謝をしないといけない。



この策にはデメリットもある。これで俺はプロメテウスを殺せなくなった。ダンテがプロメテウスを殺すことを許さない。



二段構えの作戦だった。ダンテが戻る前にプロメテウスを殺せるならそれで良い。もし殺しきれないなら、リンを守ってもらうために時間を稼ぐ。



これが俺の方針であり、作戦は成功した。



「くっ……ダンテ……良いのですか? 私は魔王様の生命維持装置に細工をしています、魔王様を救いたければ、アリアを殺してください」



プロメテウスが邪悪に笑いながら言う。アリアテーゼがそれを聞いて焦る。魔王を人質にとれば、ダンテは何も出来ない。














「プロメテウス……それは本気で言っているのか?」




















俺は息が出来なくなった。本能が身体を萎縮させている。



圧倒的な力が空間を押しつぶしている。ゲームでは感じることがなかった。



ウォルフガングやアリアテーゼにも感じた絶対的強者の圧。それが何段階も上、遥かに強い。空気が振動していると錯覚する。



もし戦えば勝てる気がしない。



ダンテは丸眼鏡を外した。後ろで髪を結っていた紐が風化して消滅する。長い髪が揺れる。目は紅く光っている。



穏便なダンテとはまるで別人だった。



「……魔王様」



アリアテーゼが呟く。今のダンテはかつての姿。先代魔王の時の姿なのだろう。



プロメテウスは身動きが取れず、小刻みに震えていた。



「もう一度聞こう、プロメテウス、それは本気なのか?」



先代魔王の問いかけ。ここで返答を間違えればプロメテウスはこの世から消える。







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