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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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ユートピア構想



俺はもじもじとその場で固まるブルースライムを注意深く観察する。どうやら上手くいったようだ。



これはスキルでも何でもない。英雄達にはよく知られた技、『格安石ころ結界』だ。ゴミアイテムの尖った石は先述した通り、敵や仲間が踏むとダメージを与える効果がある。



しかし、実態は仲間が踏んでダメージを受けるが、敵はどんな知能が低そうな敵でも、どれだけ巧妙に隠して設置しても、100%迂回されてしまう。何のためにあるか分からないアイテムだった。



それを逆手に取ったのが、『格安石ころ結界』だ。石を隙間なく並べれば、敵はそれを迂回せざるを得ない。現実的に考えれば、軽く跳ねれば飛び越えられるし、跨ぐぐらい軽くできるはずだが、何故か敵はそれをしない。



だから、尖った石で敵を囲めば身動きを封じられ鉄壁の牢獄となる。俺は円の周りを歩きながら移動し、あえて敵が入る用に空けておいた入り口にも石を並べて、ブルースライムを完全に閉じ込めた。



そして、タールを取り出す。それを石で出来た円の中に次々と投げ込む。少女はまだ警戒を怠らないまま、不思議そうな顔で尋ねてきた。



「ねぇ……何をしてるの?」



「え、タール投げてる」



「なぜタールを投げているの?」



「ああ、ブルースライムを倒そうと思って」



俺の返答に少女は血相を変えて言う。



「ダメ!このスライムは攻撃されると分裂するの」



「うん、知ってる」



俺はたっぷりとタールを円の中に流し込んだ。タールが燃えている地面をモンスターは回避するが、石ころ結界内全域にタールを広げれば、避けることができない。



「よし、まずはこんなものか」



そして、魔法スキル【ファイアーボール】を使用する。足元に赤い魔法陣が広がり、手の上に小さな火球が生み出される。俺はこの世界に来て初めて使った魔法に感動していた。



その火球はブルースライムに飛来して命中した。ダメージ数値が現れ、炎はタールに引火し一気に石の円の中を火の海に変えた。



「だめだって!たしかにブルースライムは火属性が弱点だけど、そのぐらいの威力では倒すのに時間がかかって分裂されちゃうから」



少女は焦った表情で、声を張り上げた。



鮮やかなオレンジの炎が円の中を埋め尽くす。継続的にダメージ数値が視界に現れる。



彼女の言葉通り、ブルースライムは身体をプルプルと震わせ、ダメージを受けながら分裂を始める。



しばらくしてかなりの数に増えたが、それでも石の結界は出ることができない。俺は定期的にタールを投げ入れながら、その場に座り込んだ。



少女はその異常な光景に絶句していた。大量のブルースライムが近くにいるにも関わらず、こちらを襲わず、なす術なく炎に包まれている。



少女はもう危険はないのだと理解し、少し落ち着いて俺に話しかけてきた。



「あの……正直、何がなんだか分からないけど……ありがとう、助かったわ、私はリン、あなたは?」



「俺は蓮太郎だ、レンでいい」



ゲームで名前を付ける時、俺はいつもレンとつけていた。だからこの世界でもレンでいいだろう。



頑張り屋リン。二つ名がそもそもちょっと可哀想なキャラだ。仲間にするのが難しいキャラランキングでは上位に位置する。



まあ一位の大魔導ソラリスに比べると天と地の差はあるが、リンを仲間にしにくい理由は運が絡むからだ。



彼女はダンジョン探索中に稀に魔物に追われて登場する。これは完全なランダムであり、長いことゲームをし続けても一度も現れない人も多い。完全な会えばラッキーなキャラだ。



仲間にする条件はただ助ければいいだけなのだが、このLOLではそもそも敵があまりに強いので、基本的に彼女が連れてきたモンスターに蹂躙される。



たまたま自分のレベルより大幅に下のダンジョンに行っていた時に、現れてくれないと仲間にすることは出来ない。



そもそも出会うまでが完全に運ゲーなので、ランキングでは上位にくる。



そして、リンはとても説明しづらい能力をしている。まず初期の低レベルでは全キャラ中下から三番目の低ステータスだ。一番低いのはポチ。



しかし、大器晩成型であり、中レベルからステータスの伸びが大きくなっていく。高レベルまで上げたら全キャラの中でも上位のステータスを有する。



廃人英雄の条件として、高レベルのリンを仲間にしているというものもあるくらいだ。



リンは初め何も魔法を覚えていない。低ステータスなのに、物理攻撃しかできないという終わったキャラだ。しかし、途中から魔法を覚え出し、高レベルのリンは物理攻撃も魔法攻撃も可能な優秀なアタッカーになる。ユニークスキルも有用なものが揃い、最終パーティに入れていた英雄も多かった。



さらにイベントで手に入る精霊魔法を覚えることができるキャラのひとりだ。精霊魔法はバランスブレイカーとも言われるアホみたいに強力な魔法だ。



全て習得するイベントは無理ゲーだが、イベントをクリアすれば選んだキャラに覚えさせることができる。残念ながら主人公では覚えることができない。



精霊魔法を習得できるキャラは頑張り屋リン、大魔導ソラリス、魔法生物ルンルン、天才ネロ、魔法協会筆頭レイモンド、艶王アリアテーゼだ。



不可能をいくつも超え、精霊魔法を手にしてもLOLはまた甘くない。精霊魔法を使用するためのMPは莫大であり、ソラリスとアリアテーゼ以外は覚えても最大MPが足りないので発動できない。



レベルを上げ、装備やアイテム、スキルを駆使して最大MPを強引に増やさないと、使用すらできない。



俺はリンを見つめた。彼女は何かを期待している目をしていた。俺は少し考えて、彼女の期待に応えた。イベントの強制力があるなら、断られることはないはずだ。



「良かったら俺の仲間にならないか?」



リンは驚きと嬉しさが混じったような顔をした。



「いいの?私まだ弱くて、あまり役に立てないけど……」



それは事実だ。でもこの世界で生きていく上で、最終的にはリンは主要メンバーになれる。そんな打算もあるが、ゲームが現実になったこの世界で彼女は誰かが守らなければ死んでしまうと思った。



せっかく知り合ったのにそれでは後味が悪い。それが彼女を仲間にしようとした1つ目の理由だ。



「構わない、強くなってもらえばいいだけだ」



リンは目に強い意志を宿し、頷いた。



「うん!私、がんばるから」



純粋な視線を受け、俺は目線を反らせた。彼女を仲間に入れた2つ目の理由が原因だった。


















だって、せっかく異世界ファンタジーに来たんだから、ハーレム作りたいじゃん!



という途轍もなく不純な動機だった。



いや、俺は間違っていない。異世界に来てハーレムを作らないなんて、むしろ健全ではない。過去の歴史も、英雄色を好むと証明している。



俺はいつも鈍感系主人公が許せなかった。いや、好意に気づけよ、むしろ早く受け入れろよ、といつもモヤモヤしていた。俺は鈍感系主人公には決してならない。



現実世界では彼女などいたことがないが、この世界は違うはず。



過去のトラウマが蘇る。俺に連絡先を聴いてくれたあの子。いつもニコニコしてて、俺と話している時も楽しそうだった。



絶対俺に気があると思って、俺は勇気を出して告白した。



「ごめんね、気持ちは嬉しいんだけど、私好きな人いて、これからも友達でいてね」



絶望した。冷静に考えると、彼女は俺以外にニコニコしてたし、俺以外の連絡先も聞いていた。俺が勝手に突っ走っただけだった。それから彼女から連絡が来ることはなくなった。



でもここでは違う。俺は主人公なんだ。モテモテ、ハーレム、俺の理想郷(ユートピア)を作り上げる。俺はリンに向け、気の利いた言葉を投げかけようとした。



「…………」



言葉が何も出てこない。俺は頭を抱えた。先程まで普通に話せていたのに、意識をすると何も言えない。これがモテない男の性なのか。



俺は取り敢えず口説くの諦めて、リンにポチの紹介を始めた。



気まずくなるのも嫌なので、また今度良い雰囲気になったら頑張ろうと、いつもの先延ばしにすることにした。



大好きなポチの紹介に熱が入り、リンが若干引いていることに気づいたのはそれから20分後だった。









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