表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
107/370

艶王戦



俺は走りながら、ある調整を加える。少なくともアリアテーゼに遭遇する前にこの作業を終えないとならない。



迫りくるジャガーノートの拳を紙一重で避け、間髪おかずに飛んできた赤黒い棍棒のような蹴りも身体を逸らして避ける。蹴りが前髪に掠った。



ジャガーノートのモーションは全て頭に入っている。予備動作からモーションを特定し、未来予測によって回避する。



見てから避けては間に合わない速度も、未来予測をすれば回避が可能だ。



他のモンスターが出現しても、ジャガーノートの巻き添えですぐに青い粒子に変わっていく。



幸い『物理ダメージ無効』のスキルを持つスペクターは臆病で、ジャガーノートの姿を見ると逃げ出してくれた。



敵ながら、その逃げ方がちょっとコミカルで可愛い。



しばらく進み、一階の大広間に出た。かなりの広い空間で見通しが良い。壁には3人家族の絵がかけられていた。



リンはいない。



作戦の成功は絶望的だ。ここに来るまでにリンと会えなければ、敗北は濃厚だと思っていた。



アリアテーゼの移動速度から考え、多少他の部屋を遠回りしたとしても、そろそろここに来る。



ジャガーノートはまるでこちらの存在を知らせるかのように轟音を響かせている。



俺はクールタイムを確認する。少し前に『濃霧』も『不動心』もクールタイムが終了していた。




















来る。



俺は肌が粟立つような強烈な気配を感じた。ウォルフガングと対峙した時を彷彿とさせる。



次元が違う強敵が放つ、圧倒的な存在感が俺を押し潰す。俺は『濃霧』と『不動心』を再度、発動する。



ドアが大きな音と共に開け放たれる。逆光の中、美しい女性のシルエットが浮かび上がる。



「ふふふ、やっと見つけましたわ、それで……今すぐ死んでくださる?」



仕方がない。リンがいなくてもほんの僅かな可能性は残る。それに賭けるしかない。



3つの魔法陣が浮かび上がる。発動が早すぎる。



【ボルケーノ】【ハリケーン】【ライトニング】



魔法の爆撃が容赦なく俺を襲う。



俺はすぐにエクストラポーションでHPを回復させ続ける。『アイテム連続使用』のスキルがないので、毎回タイムラグが存在することが苦しい。



魔法が一瞬途切れる。俺の様子を確認するだめだ。アリアテーゼにとって『濃霧』は未知のスキル。本来、どんな相手でも先程の魔法攻撃で殺しきれている。



だから、俺が死んだか確認するために魔法を途切れさせた。連続で魔法を使用していてはエフェクトが邪魔で確認できない。それが致命的な隙だ。



一瞬でアリアテーゼまで突進し、攻撃モーションに入る。



俺ではなく、()()()()()()()が。



ジャガーノートは敵味方関係なく攻撃をし、攻撃を受ける。そして、()()()()()()()()()()()()を攻撃対象とする。



つまりアリアテーゼの魔法に巻き込まれたことにより、アリアテーゼを攻撃対象にする。



さらに俺は先ほど調整をした。ジャガーノートに少しずつダメージを与えた。



ジャガーノートは『逆上』というスキルがあり、ダメージを受ける度に全ステータスが上昇していく。



英雄の俺が辛うじてギリギリ避けられるレベルまでジャガーノートを真心込めて育てた。俺が回避可能な限界なので、素早さも攻撃力もありえないほど高くなっている。



そして、最後にアリアテーゼの爆撃により、更にステータスが上昇した。もはや俺でも止められない化け物へと仕上がった。



ジャガーノートは拳を振りかぶっている。



これで全てが決まる。アリアテーゼの素早さでは絶対回避出来ない。



彼女が生き残る道は1つしかない。



もし『フィジカルリフレクション』をアリアテーゼが過信すれば、彼女は死ぬ。ダメージ量が3分の1になっても今のジャガーノートの攻撃力なら一撃で死ぬ。



俺は祈った。これでアリアテーゼが倒せることを。


















『イリュージョン』
















離れた位置にアリアテーゼの姿があった。



彼女は正解した。あの状況、『イリュージョン』を発動する以外、生き残る道はなかった。



もうジャガーノートはアリアテーゼを殺せない。もし俺のようにジャガーノートに『不動心』の効果があれば、勝てていた。



アリアテーゼの魔法により、ジャガーノートは毎回吹き飛ばされ、ノックバックされてしまうので、距離を詰めることができない。



俺はジャガーノートと反対の方向へ移動する。ジャガーノートは魔法を受ける度にステータスを上げていく。



『濃霧』の効果は俺以外にも及ぶ。本来ならジャガーノートのHPもアリアテーゼの魔法なら楽に削り取れる。しかし、『濃霧』による魔法ダメージの大幅な減少により、ジャガーノートの『HP超高速回復』の方がダメージ量を上回っている。



アリアテーゼに明らかな焦りが浮かぶ。攻撃する度に速くなり続ける怪物を相手にしているのだ。ジャガーノートと対角線上に移動した俺の相手もしなければならない。



俺は魔法を受ける度にエクストラポーションで回復しているが、魔法の頻度がジャガーノートに偏り、俺は動きやすくなる。



だから、俺も攻撃に参加する。HPが少なくなれば、魔法で即死するので、ポチの『ワンナイトカーニバル』が使えない。更に『狂戦士の怒り』の恩恵もほとんどない。攻撃力の増加は見込めない。



だが、『閃光連撃』だけでも『ドッペル』と併用して、妖刀村正の『主人殺し』の運が良ければ、一撃で殺せるダメージを与えられる。俺は一気に加速してアリアテーゼを狙う。



タイムリミットはアリアテーゼが『魔力暴走』を使用するまでだ。このままではジャガーノートを倒せないと悟り、いずれ奥の手の『魔力暴走』を使用する。



精霊魔法を使用されれば、ジャガーノートも倒されるし、俺も生き残れない。



だから、アリアテーゼがその選択をするまでに倒し切らないとならない。



吹き飛ばそうと俺に魔法を放ってくるが、そのまま突っ込む。『不動心』により、俺はノックバック無効になっている。



『閃光連撃』を発動する。身体が残像を纏い、高速の剣撃が始まる。しかし、ヒットする瞬間、アリアテーゼは【フィジカルリフレクション】を発動した。



ノックバック無効により、吹き飛ばされることはないが、すべての連撃が3分の1のダメージになってしまう。瞬時にアリアテーゼは『フルケア』を発動し、HPを回復させる。



俺もすぐに攻撃から回復に移る。多少強引に突っ込んだが、HP残量が少ない。エクストラポーションを使用する。



やはり状況は厳しい。『濃霧』もそろそろ残り時間が少ない。










「ああ……鬱陶しい……虫けらの分際で妾を攻撃するなど、身の程を知りなさい!」










美しい声と同時に辺りが急激に暗くなる。身体が震えるほどの冷気が部屋を満たす。



やられた。タイムリミットだ。



突風がアリアテーゼを中心に吹き荒れる。長い髪が溢れ出る魔力によって激しく靡く。



光の粒がどこからともなく表れ、アリアテーゼの周囲を回り始める。



『魔力暴走』



無効が無効の超絶ダメージ魔法が発動される。このLOLの世界でさえ、バランスブレイカーと呼ばれる精霊魔法だ。



俺は死を覚悟した。この状況から俺が生き残るには、もはや祈るしかない。奇跡が起こることを。




















「レン!」












リンの声がした。俺は一気に覚醒する。奇跡が起きた。



振り向くと、リンがドアを開けていた。彼女の存在がこの状況を一気に逆転させる。



アリアテーゼはもう精霊魔法を発動する寸前だ。



俺はあるアイテムをリンに投げた。同時にリンから円盤のようなものを投げられる。



なるほど、ネロに騙されてあの円盤を届けに来たのだろう。あれはただのガラクタだ。



けれど、そのネロのおかげで俺は艶王に勝てる。リンを巻き込もうとしたのはネロの失策だった。



リンは俺が投げたアイテムを空中でキャッチする。説明している時間がない。



もう精霊魔法が発動される。



後は信頼するしかない。彼女が俺と同じ、英雄の思考に行き着くことに。



リン。俺は君を信じるよ。




















精霊魔法【ディアボロス】

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ