表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
106/370

勝利の鍵



______________________



何とかアリアテーゼを振り切ることができた。ポチは『ロンリーワン』の効果で、アリアテーゼの攻撃に巻き込まれていないので、俺についてこれている。



先程、『濃霧』と『不動心』の効果が切れた。MPはエクストラマナポーションで回復できているが、クールタイムが終わるまで再使用ができない。



それまでアリアテーゼに追いつかれるわけにはいかない。『濃霧』がない状態で魔法を受ければ即死だ。



もしギルバートとユキがリンを救出していたら、俺は自分が脱出するだけで良い。



しかし、魔王城の外には障害物がない。格好の的にされる。アリアテーゼの魔法で爆撃されれば、『濃霧』があっても焼石に水だろう。



ならば、アリアテーゼを倒すしか魔王城から逃げ出す術がない。既に何度もシミュレーションしている。現状俺の力だけで倒す道はない。どの選択をしても、全て俺の死で終わる。



何か断続的な鈍い音が聞こえた。俺はその音の方向へと向かう。ちょうどリンが捕われていると思われる方向だ。



そして、俺は壁を打ち付ける黒い怪物を視認した。ジャガーノートだ。今の俺でも倒すことが出来ない、魔王城の全モンスターの中で最強のHPと攻撃力を持つ。最も遭遇してはならない敵だ。



ジャガーノートはがむしゃらに何かを殴り続けている。俺はぞっとした。もしリンが殴られていたらと考えた。



しかし、すぐにそれはないと分かる。この世界ではHPがゼロになると、青い粒子になって消える。だから、ジャガーノートが殴り続けていることで、まだ死なずに耐えていることが分かった。



間違いなくユキだ。ユキは『物理ダメージ無効』のスキルがある。自分が囮になって皆を逃したのだろう。



俺はユキに感謝した。それと同時にそんなユキを殴り続けるジャガーノートに怒りを感じた。



「俺の仲間に触れるな」



俺はジャガーノートに背後から接近し、斬鉄剣で斬りつける。ジャガーノートの苦痛の声が漏れる。



攻撃を止め、俺に向き直る。ジャガーノートは大きいダメージを与えた者を攻撃対象にする。これで攻撃対象は俺に移った。



「レン!」



今まで痛みは感じずとも、ずっとジャガーノートの攻撃に受け続けていたユキは、驚いたような顔をしていた。



ジャガーノートの拳が俺に振るわれる。あまりに遅い。俺が一歩位置を移動するだけで回避する。俺はレベルも300を越え、回避術も全盛期に近づいている。



今の俺ならアバランチ一体の攻撃を全て避け切れるだろう。ゲーム時代の全盛期の7割くらいの回避能力を持っている。



「ありがとう、ユキ、こいつを引きつけてくれて」



俺は全ての攻撃を危うげなく回避しながらユキと会話する。



「リンとは合流できたわ、ギルバートと一緒に入り口に向かっている」



リンが捕われているだろう部屋はもっと奥だった。この地点で合流できたということは、リン自身、脱走を試みたのだろう。



リンはダンテがいなくなったことから、今が逃げ出すタイミングだと悟ったのだろう。賢明な判断だ。



もし脱走していなければ、プロメテウスに先を越されていたはずだ。



「こいつは俺が何とかしておくから、ユキはここを離れてくれ」



「私なら大丈夫よ、攻撃が効かないから、レンの盾になれるし、魔法で援護もできるわ」



気持ちはありがたい。事実、俺はスペクターというモンスターを倒す術がない。途中で遭遇すれば厄介だ。しかし、俺の判断は変わらない。



「ユキを殺せる敵が俺を追っている、ここにいない方がいい」



ユキは決して無敵ではない。物理ダメージが無効で、氷属性以外無効で、氷属性は吸収できる。一見、ダメージを与えようがないように思えるが、それは間違いだ。



艶王アリアテーゼには『魔力暴走』がある。あれを使用した後は精霊魔法が使えるようになる。精霊魔法は回避不可能な広範囲極大ダメージだ。更に無効が無効という訳が分からない仕様となっている。



もちろん『魔力暴走』の効果が切れた後に、アリアテーゼ側にデメリットはあるのだが、そもそも効果が切れるまで生き残れない。



精霊魔法を使用されれば、ユキでも生き残れない。もちろん、ポチも同様だ。『ロンリーワン』はポチがこちらから攻撃しない限り、広範囲の攻撃でもダメージを受けないスキルだ。しかし、これさえ無効になり、精霊魔法ではダメージを受ける。



ちなみに『ど根性』というHPが1で一度だけ耐え切るスキルもあるが、精霊魔法は発動中、ありえないダメージが連続で入り続ける。1になった瞬間に次のダメージを受けるので、意味がない。



『お手玉エスケープ』も空中に投げたポーションが魔法で破壊されるし、『ジャグリング』の時間より、精霊魔法のダメージを受け続ける時間の方が長い。



結論、使われたら最後、ダメージを受けることは避けられない。



「でも、それは……」



ユキが何かを言いかける。ジャガーノートは中々攻撃が当たらず、怒り狂っているが、俺は最小限の動きで避け続ける。



きっとユキは、それは俺も同じだと言いたいのだろう。



「俺は大丈夫だ、というか一撃で死ぬ攻撃なんて、今まで何度もあったし、生き残る道を知っている、俺が生き残るためにユキにはこの先に進んで、プロメテウスを足止めして欲しい」



ユキは俺と視線を合わす。そして、力強く頷いた。



「分かったわ、絶対生きて戻ってね」



「ああ、約束するよ」



ユキはそう告げて、部屋を出て行った。これで良い。プロメテウスはユキを殺す手段がない。ステータス的には圧倒的な差があるが、魔法攻撃力はユキの方が高い。それに周りに仲間がいなければ、ユキは範囲魔法も使用できる。



「ぐおおおおぉ」



ジャガーノートの突進を俺は軽くいなす。英雄にとって、今 こいつの攻撃など児戯に等しい。



俺は回避を続けながら、集中に入る。徐々にジャガーノートの動きが遅くなり、ついには止まる。



俺は時間が引き伸ばされた超集中の世界で、あらゆるシミュレーションを始めた。アリアテーゼを倒すために。



俺の力だけでは絶対に勝てない。それだけは確実だ。どの条件分岐、運を絡めても俺単独でアリアテーゼに勝つ道はない。



ならば前提として、俺以外の要素を条件に加える。再び膨大なシミュレーションが再び始まる。



思考がクリアになっていく。全能感が溢れ出てくる。どこまでは深く潜っていく。



見つけた。俺の前に一筋のわずかな光が見えた。しかし、それは糸のように細く、今にも途切れそうな道だ。



この道は進めない。ゲームでなら何百回と死にながら試行すれば、この道を渡り切れる。しかし、一度しかない現実ではとても渡り切れない。



ならば、この道の光を強める要素を探す。手持ちのアイテム、仲間のスキル、出現するモンスター、魔王城のトラップや出現アイテム、あらゆる条件を組み込む。



そして、俺はたどり着いた。絶望という深い闇を照らす一筋の光。先程は細く弱々しい光だったが、ある存在がその光を強める。



栄光への道(デイロード)は確かにあった。そして、そこに至るための鍵は彼女だ。













リンに会わないと。










彼女の姿が光り輝く道の上に見える。リンと会うことが出来れば、俺はアリアテーゼを倒せる。



そのために、魔王城の入り口へ向かわなければならない。しかし、その方向には追ってくるアリアテーゼがいる。



俺がリンと会えずに、アリアテーゼに遭遇すれば終わりだ。しかし、もうその道しか残されていない。



世界が再び動き出す。飛んできた黒い拳を避ける。



さあ、艶王を攻略しよう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ