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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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想定外の一手



「レンさん、申し訳ありませんね、私は君を騙しました、ウォルフを殺したあなたをアリアに会わせるために」



プロメテウスの言葉に、アリアテーゼは妖艶な笑みを見せる。



「感謝してあげるわ、プロメテウス、妾に復讐の機会を作ってくれて」



違う。俺はプロメテウスを知っている。こいつは本気でクーデターを画策している。間違いなく俺にアリアテーゼ殺害依頼をしたのは本気だった。



あの男の入れ知恵で作戦を変更したのだ。俺を騙して魔王城に誘き寄せたことにし、アリアテーゼに復讐の機会を与えるためだと嘯いた。そうすれば、俺とアリアテーゼの戦闘が成立する。



俺は弁明しようと口を開く。アリアテーゼがいる状況でプロメテウスは絶対に倒せない。ならば、アリアテーゼこそがプロメテウスに騙されているのだと伝えるしかない。



プロメテウスは俺を黙らせるように、先手を打ってきた。



「ダンテも村で暴れている者の対応に向かってしまいました、こちらはアリアに任せますよ、私は別行動している者たちを対処しましょう」



俺は出かかった声を飲み込む。これは明確な脅しだ。



俺達が最果ての村を出た後、入れ違いで再びアドマイアを向かわせたのだ。そこで再び暴れさせ、その情報をダンテに流した。



ダンテなら盟約に従い、必ず最果ての村を救いに行く。



プロメテウスはダンテを魔王城から遠ざけることで、リンを孤立させた。



リンがダンテの庇護にあることで、俺が強気に出れると読んでいた。これでリンの安全の保障は消えた。



最悪の事態だ。俺がアリアテーゼと戦わざるを得なく、プロメテウスはリンやギルバートの下へ向かってしまう。



明らかにプロメテウスの作戦ではない。プロメテウスは自信過剰な面があり、当初決めた計画が遂行不可能になるまでは拘る傾向にある。



この手筋。こちらが一番されたら嫌な手を的確に突き、逃げ道を塞ぎ、追い込んでくる。やはりネロが裏で糸を引いている。恐らく監視用のクリスタルをいくつか設置し、俺とアリアテーゼの戦いを観察するつもりだろう。



さすがとしか言いようがない。俺はプロメテウスがいれば勝ち、裏を読まれてアリアテーゼがいれば負けと2択で考えていたが、ネロは第3の手を選択してきた。



アリアテーゼとプロメテウスが一緒にいれば、こちらには初めから勝ち筋がない。



「ではあとはよろしくお願いします」



プロメテウスはにっこりと笑って、奥の扉に消えて行った。俺はアリアテーゼを説得しようとした。プロメテウスの企みを伝え、戦闘を回避しようと思った。



だが、それはすぐに愚策だと気づいた。アリアテーゼを見て分かってしまった。



彼女は俺を殺すつもりだ。明確な殺意を感じた。



俺はスキル『不動心』と『濃霧』を瞬時に発動しながら、扉を閉め、全力で逃亡を計った。



アリアテーゼは高飛車で高慢な性格をしており、常に力なき弱者を見下している。魔法に関しては、執念とも呼べるレベルで、研究に没頭している。



一方で逆に才能溢れる者、力ある者には一定の信頼を置いている。魔王やダンテ、ウォルフガングなどだ。彼らは自分よりも上の存在として、尊敬している。プロメテウスは自分より下の弱者と認識しているので、態度は随分と違う。



そして、アリアテーゼはウォルフガングに特別な感情を抱いていた。恋愛感情と尊敬、仲間意識、それらが混ぜ合わせたものだ。



ゲームのイベントでは、スーパー朴念仁のウォルフガングがアリアテーゼからのアプローチを、その圧倒的な鈍感さで尽く退けるものもあった。一種のラブコメ展開だ。



だから、今アリアテーゼが俺に復讐をするのは避けられない。俺の言葉に耳を傾けるはずがない。



後ろの扉が盛大に爆ぜた。俺は移動スキルをフル活用して逃げる。



素早さは俺の方が高い。距離は取れるはずだ。そう思った瞬間、俺は激痛を感じ、HPが一気に削られた。すぐに走りながら、エクストラポーションで回復させる。



俺の周りには霧のような白い靄が漂っている。この霧がなければ、今の一撃で俺は死んでいた。今のはただの【セイントレイ】が掠っただけだ。しかし、威力は俺が使うより遥かに高い。



アリアテーゼの背後には魔法陣が同時に3つ展開しながら追ってきている。『トリプルスペル』だ。更に『魔導の極み』により、詠唱時間極小となっており、魔法陣が広がるとほぼ同時に魔法が発動される。



俺は『不動心』の効果により、吹き飛ばされたり、ノックバックを受けたりしない。これで逃げ切ることができる。本来であれば、先程の攻撃で吹き飛ばされ、距離を詰められ、次の魔法を浴びせられ、俺の命は終わっているだろう。



幸い屋内で障害物が多く、距離が離れているので、魔法による集中砲火は浴びない。射程や範囲が広い魔法には被弾するが、『濃霧』により耐えられる。



俺はアリアテーゼからの魔法の猛攻を受けながら、距離を取り、曲がり角で姿を見失わせた。



今から、早くリンの下に向かわなければならない。アリアテーゼから逃げ続けながら、プロメテウスより先に到着しなければならない。



また無理ゲーが始まった。






















___________ギルバート_____________



俺はユキと共に、敵にバレないように廊下を進んでいた。レンの旦那にあらかじめ安全なルートを聞いていたのが、功を奏した。



現れたモンスターも、俺のフィンガーピストルでの即死と、ユキの氷魔法で排除している。



ユキは『アイシクルランス』しか使用しない。レンの旦那の説明はよく分からなかったが、確かユキは敵えぬぴーしー扱いだからどうのこうので、とにかく範囲攻撃だと俺もダメージを受ける可能性が高いらしい。



曲がり角から次の通路を覗いた時、あるモンスターが目に入った。旦那が忠告していた5番目に危険なモンスターだ。1番は蜘蛛のモンスターらしく、旦那でも遭遇したら逃げの一手しかないようだ。どれだけの強敵なのだろう。



紫色の光沢を持った鱗のトカゲだ。全長は2メートル程ある。確か名前はメルリザードだ。こいつは状態異常と魔法が一切効かないとらしい。



素早さも高く、一度見つかったら俺たちでは逃げきれないと言っていた。それに俺は一発でも攻撃を受ければ死ぬらしい。



この通路は通らなくてはいけないし、メルリザードが別の場所に移動するのを待つ時間はない。フィンガーピストルとユキの魔法が効かないので、現状俺の攻撃で倒すしかない。



俺はフィンガーピストルからオリハルコンライフルに持ち帰る。幸い防御力はそこまで高くないらしく、オリハルコンライフルを装備した俺なら攻撃は通るらしい。



ただ普通に攻撃したのでは、HPを削り取るのにかなりの時間がかかる。それまで一度も攻撃を受けないことは旦那の回避力がないと不可能だ。



だから、俺は旦那にレクチャーを受けている。メルリザードとの戦い方も学んでいる。



俺は壁から少し銃口を出し、気づかれないようにスキルを発動する。



『ロックオン』攻撃にホーミング性能が付き、ロックオンした敵に当たるようになる。



一撃もらえば死ぬ。それは恐怖でしかない。レンの旦那はその恐怖を微塵も感じさせず、凄まじい回避能力を見せた。



俺にはあんな真似は出来ないし、近づかれたら終わりだ。本当なら逃げ出したい気持ちもある。



だが、男として、筋は通さないといけない。メアリーの命を救ってくれた恩がある。



勇気を振り絞り、俺は廊下に飛び出した。



『バレットスコール』



上に銃弾を複数打ち上げ、銃弾の雨を降らせる範囲攻撃。発射から着弾まで若干のタイムラグがある。



メルリザードが俺を視認して、身体の向きを変えた。



俺はスキルが終わった瞬間、すぐに次のスキルを発動する。『アサルト』前方広範囲に連射して弾幕を張るスキルだ。



『バレットスコール』の空から降り注ぐ銃弾が、『ロックオン』の効果で広範囲に広がらず、全てメルリザードに集約する。



更に『アサルト』も一旦広がった後、全弾メルリザードに向かう。



これがレンの旦那が授けてくれた俺の最強の攻撃だ。



『バレットスコール』で24発、『アサルト』で40発の攻撃。『バレットスコール』のタイムラグを利用し、ほぼ間髪なく連続で64連発だ。



ただの64連発ではない。俺はこのオリハルコンライフルに付加されたスキルと、この64連発による攻撃を考え出したレンの旦那に脱帽した。こんなこと誰も思いつかない。



『コンボ』前回の攻撃の後、1秒以内に次の攻撃を加えると、前回の攻撃よりダメージ量が5%上昇する。



普通なら大したスキルではないと思うだろう。通常攻撃で1秒以内に次の攻撃は当てれないし、『バレットスコール』などでも広範囲に広がるので、連続で2、3発程度の連撃なので、微々たる上昇しかない。



しかし、俺の今回の場合、64連発だ。俺はよく分からないが旦那の説明によると、複利という計算で、最後の攻撃は最初の攻撃の約22倍になり、累計でのダメージは計算上、最初の一撃の約500倍になるらしい。



強敵であるはずのメルリザードが一瞬で青い粒子に変わっていった。



俺は自分でも信じられない威力で驚愕していた。凄まじい破壊力だった。



だが、レンの旦那からは忠告されている。この技は『ロックオン』による単体しか攻撃出来ないので、複数の敵がいる状態では使えないと。



クールタイムも必要なので、連続では使用出来ない。敵に囲まれた乱戦状態では効果が薄い。



俺達は自分達の武器、フィンガーピストルによる即死、『64コンボ』、ユキの【アイシクルランス】を駆使して、先を進んだ。



まもなくプロメテウスの部屋の近くだ。ここを通り過ぎれば、リンのいる廊下に出る。あと少しだ。



「ギルバート……」



ユキが前を進む俺の上着を引っ張った。



「次の部屋……何かいるわ」



ユキは俺よりも気配の察知に優れている。俺はそっと次の部屋を覗き見た。



そこには真っ黒な怪物がいた。全長3mほどで、黒い筋肉の塊のような姿だ。顔らしき部分には歪な兜が嵌まっている。



唸り声と共に、兜の隙間から、白い息が漏れていた。



この特徴的な姿から、俺は旦那の言葉を思い出す。2番目に注意が必要と言っていたモンスター、ジャガーノートだった。





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