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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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ヒロイン登場




ポチとともに次の目的地を目指した。城下町を出て北に向かう。途中、平原でモンスターと何度か戦闘になったが、やはり道化師としてのパラメーターダウンの影響は大きかった。巨神兵でのブーストがなければ、平原のモンスターにすら勝ち目がなかっただろう。



俺は襲いかかるモンスターを苦労して倒しながら、ポチは虫を追いかけたり鳥に吠えたりしながら、目的地に到着した。



青壁の洞窟。文字通り青くうっすらと光る岩に囲まれた洞窟だ。洞窟ではあるが、壁が光っているため松明がなくても視界が確保できる。とても美しい洞窟だった。



推奨レベルは65。敵は一種類だが、かなりの強敵だ。その分経験値も高く、レベルアップには適していた。



洞窟に入ると、少し肌寒さを感じた。幻想的な光景だった。キラキラと光る青い壁に囲まれていた。俺はすぐに準備に取り掛かる。



俺は鞄が荷物を取り出し準備を進めていた。しばらくして奥から悲鳴が聞こえた。女の声だった。俺はさっと立ち上がり、身構えた。ポチは石をガリガリ噛んでいた。



助けにいくべきだろうか。しかし、今のレベルで単身乗り込めば間違いなく殺される。道化師ではなくても、ここのモンスターには絶対に勝てない。だからと言って見殺しにしていいのかと俺は葛藤した。



もう一度悲鳴が上がった。声は先程より近かった。というかすぐ近くだった。どうも全速力でこちらに向かっているようだ。



曲がり角から飛び出し、姿が見えた。その少女は肩までかかる綺麗な髪を振り回してながら、可愛い顔を涙でくしゃくしゃにして走って来た。



背は小さく、12歳ぐらいの容姿だ。亜麻色の髪を持った美少女だった。ふわりと内側に毛先を巻いている。ショートパンツから健康的な太ももが露出し、動きやすさを重視したノースリーブの冒険者服を身につけていた。俺は悲鳴をあげる彼女を見て、ニンマリとにやけた。



訂正しておくと、俺は断じてロリコンではない。別に彼女が可愛くてにやけたわけではないのだ。まあ可愛いのは否定しないが。



あどけなさが残る整った顔立ちに、大きく意思の強い目をしていた。肌の色は白く、とてもきめ細かい。確かに美少女ではあるが、俺がにやけた理由は彼女のことをよく知っているからだった。



彼女はこちらを見つけ、大声を上げた。



「助けて!」



そのまま、俺が地面に置いたとがった石を踏んで盛大に顔面からずっこける。そして、地味な痛みに悶絶しながら地面を転がった。



「っ……痛い、痛いよ」



倒れる彼女の後ろからこのダンジョンのモンスターが現れる。ブルースライム。青いただのスライムだ。そして、人々にトラウマを与える強敵でもある。



RPGではスライムは雑魚敵の立ち位置が多い、しかし、このLOLでそんな通説は成立しない。



まずこのブルースライムは物理攻撃無効のスキルを持っている。魔法でしかダメージを与えられない。そのくせに魔法防御力がかなり高い。



HPはそこまで高くないが、倒すのに結構時間がかかる。推奨レベル65ぐらいで所持している攻撃魔法ではほとんどダメージを与えられない。



そのため、弱点属性である火属性の攻撃が必須となる。弱点属性で攻撃した場合、魔法防御が無視され更に1.5倍のダメージ補正が入る。



しかし、これだけでは強敵とは呼ばれない。真にブルースライムが恐ろしいのは、あるスキルだ。



『分裂』



ブルースライムは攻撃されると分裂することがある。というかかなりの確率で分裂する。この分裂の仕様が酷く、HPがマックスのブルースライムに分裂するのだ。つまり新しい全回復のブルースライムが無限に現れる。一撃で殺さない限り鼠算式に一気に分裂していき、ダンジョンがブルースライムで埋め尽くされる。



だから、このダンジョンをクリアするためには、一度も攻撃をしないかで逃げ続けるか、火属性の高火力魔法で一撃で倒す必要がある。高威力の広範囲火属性魔法があれば、あえて増やして経験値を稼ぐこともできる。



それが可能な仲間は限られている。1人は殺戮兵器アドマイヤだろう。しかし、物語終盤まで仲間に出来ない。あとは最も仲間にするのが難しいランキング1位の大魔道ソラリス、扱いが非常に難しい爆裂狂フレイヤぐらいだ。



よって現段階でブルースライムを討伐することは現実的に不可能だった。



「うぅ……何でこんなところにとがった石が……」



少女は痛みを堪えて立ち上がり、後ろを振り返った。そこには少女を追って来た無数のブルースライムの姿があった。



「きゃあああ!」



また全速力で俺のところに走ってくる。そして、再度とがった石を踏み、変な声を上げながらゴロゴロと回転して俺の足元まで来た。



「大丈夫か?」



俺が覗き込むと、少女は涙と鼻水を流しながら、顔を上げた。



俺はほっとした。なぜか彼女が相手ならば、リリーさんのようにどもらずに話せるようだ。きっとあれは久しぶりの会話だったからだろう。会話の仕方を忘れるくらいよくあることだ。



「もう無理……助けて」



俺は彼女の悲痛な声に、余裕を持って頷いた。



「ああ、任せろ」



少女の目が俺を見上げ、キラキラと輝く。俺はできる限りカッコいい頼れる男の仕草をした。その間にもブルースライムが押し寄せてくる。



現実に戻った少女は、もう一度悲鳴を上げ、俺の後ろに隠れてしがみついた。俺はただ彼女を安心させるように肩の力を抜いて、両手を広げた。



「大丈夫さ、何も怖いものはない」



決まった。俺は決め台詞を告げて満足げに笑った。しかし、少女の反応は更に怯え、俺から離れて更に後ずさった。



一瞬やってしまった、きもいと思われた。と絶望しそうになったが、少女の怯え方を見て合点がいった。ブルースライムが至近距離まで来ているのに武器も構えず、余裕な表情で両手を広げている俺を見て、頼りにならないと判断して逃げたのだろう。



心外だと思いながら、俺は接近してくるブルースライムを見た。既にすぐ側まで来ており、俺に飛びかかろうとしていた。そして、一気に勢いをつけてから、急停止した。



そのままもじもじとその場を動かなくなる。俺は振り向いて少女に告げた。



「だから言っただろ、大丈夫だって」



少女は泣くのをやめ、きょとんと呆けていた。



凶悪なブルースライムが急に動かなくなった。




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