ライラとの甘い生活(2)
「成仏せい、成仏せい」
私は、ライラを前にしておはらいのポーズをとる。バッサバッサと、その辺にあったカーディガンをつかみ取り、振るう。
そんな私をよそに、ライラは笑っている。
「大丈夫。幽霊じゃないわ、安心して」
「それなら、いったいあなたは・・・?」
「呪いよ。おいしい料理を食べると、一定時間あなたが助けてくれたマルチーズの霊が私の中に宿り、犬になってしまうの」
「そんな・・・」
「つまりあなたの料理はおいしかったってこと。喜ばしいことよ」
「う~ん 。嬉しいような悲しいような」
目の前の姿を見れば素直に喜べない。
そしてライラはマルチーズに・・・いや逆だわ。マルチーズはライラに戻った。
「あなたの命を狙うものがいるのよ」
「なんですって?!」
「私は、あなたを手助けするために現れた、いわば、スーパーバイザーってわけ」
この上ない心強い味方が現れた。
「頼むわよ、ライラ」
「私は異世界から来たの」
「うん」
意味がわからないが、とりあえず相槌は打った。
「私の住む世界に突如ヴァンパイアが現れて、世界中の女性たちの生き血を吸い始めたの」
「そんなことって」
「信じられないでしょうけど、これが現実よ」
まさに寝耳に水だ。
「私は博士の発明した薬で体内の血をまずくすることに成功したわ。そうしてヴァンパイアにとって用をなさなくなった私は呪いをかけられたの」
「それがおいしい料理を食べること?」
「そう」
「なら食べなければ」
「バカ言わないでよ。私は美食家よ。私に取って食べることはこの上ない愉しみなの」
「わかったわよ。ごめん。言い過ぎた。あなたの気持ちを考えもせずに」
「いいのよ、わかれば。それにあなたのオムライス。また食べたいわ」
「ありがとう。・・・でも、さっきくらいの時間なら、なんとか我慢すれば?」
「あのね。彼氏とご飯食べてて突然、マルチーズになったらドン引きよ。想像してみてよ」
彼氏はいないが、想像はできた。
「それに」
「それに?」
「時間は料理によって変わるの。今までの経験上、フランス料理のフルコースが最大だったわ。初めての彼氏で、彼がトイレに行っている間の出来事だったからなんとかそのままごまかせるかと思ったけどダメだったわ」
と、いうことは・・・。
いや、想像しがたい。やめた。
「異世界にヴァンパイアの求める血はなくなった。だからこの世界を狙い始めたのよ」
「あの、ヴァンパイアの求める血って」
「まだ付き合ったことがない人よ」
それを聞いて私は顔中が真っ赤になった。多分、体も。
「やっぱり。今後は身辺に気をつけることね。ちなみにあなたボーイフレンドは?」
「いないわ。でも好きな人はいるけど」
後半は言わなかった。
「なら尚更気を付けることね」