09 洞窟の中
倫理の授業の内容については間違えないように気をつけていますが、もし間違っていましたら申し訳ありませんm(_ _)m
「しのぉ〜!今日食堂でご飯食べない?」
「……?私、お弁当が…」
「こらっ!友希!自分弁当忘れたからって人を巻き込まないの!」
「うぐっ…だってー…寂しいんだもん。」
「……食堂でお弁当食べるよ。」
「えっ!?いいの?やった〜!!しの大好き〜!」
「……っ…ありがと…」
「篠ちゃんの可愛さに免じて今日は許してやろう。」
「いえーい!!」
……あまりにも真っ直ぐな友希ちゃんの言葉に照れてしまった。自分に可愛いところなんてあるのかという疑問はあるが、友希ちゃんの言葉からは嘘を感じ取れないので、変に疑うことはしない。彼女のとても良い所だ。
「篠ちゃん、そろそろ時間だよー。」
「結衣ちゃん、ごめん。今行くね。」
『いってらっしゃーい。』
食堂は人が多くて苦手だが、二人が一緒なら安心だ。周りを視界に入れなければいい。
「篠ちゃん篠ちゃん。前髪切らないの?折角目が綺麗なのに勿体無いよ〜。」
「えっ……え?」
「あ、ごめんごめん(笑)いきなりだったね。ただ勿体無いなぁって思っただけ!」
「…あ、うん?あ、ありがとう?」
非常にびっくりした。どうして結衣ちゃんは、目が綺麗だなんて言ったのだろう。……でも、私の目は綺麗なんかじゃない。それに前髪で目を隠していなければ、人と話すことが難しくなる。……無理だ。
「やぁ、こんにちは。」
「起立、礼。」
「さて、授業をしましょうかねぇ〜。」
この前萩野先生と話してから、私は授業中に先生を観察するようになっていた。……変わった人だと思う。やはり、ふざけているのかそうではないのかの区別が上手くつかないし、他の先生と比べるとよくわからない行動を取る。…でも、先生は最初から変わらず 、私の発言を待ってくれている。その上、時々話しかけてきたり、廊下で会うと挨拶をしてくれたりする。少しずつではあるが、話す時の緊張が無くなってきているような気もする。私の中で、あの人に対する気持ちが変わってきたのかもしれない。
「…とまぁ、そのプラトンさんは、イデアっていう普遍的で完全なものがあるって言うたんですねぇ〜。」
私たちは、例えば、石が石であるということを知っている。でもどうして知っているのか?と聞かれると疑問が湧く。親に聞いた、本で見た、誰かに教えて貰ったなどと言っても、その元を辿っていくと、結局何処からそれが石であると知ったのかはわからない。そこでプラトンは、私たちは石というものを見て、知っていたのに、生まれた時にそれを忘れてしまっているのだ、という風に考えたのだ。そして、その生まれる前に見たものをイデアとした。この場合は、石のイデアだ。…本当に何故このような考えに至ったのかが謎だ。
「そのイデアには善のイデアっていう、……まぁ、親玉みたいなやつがあるんですよ。簡単に言えば、イデアのイデア。それを一番上の最高のものとしたんですねぇ〜。」
まぁ、一番上を決めておかなければ、何処までも行ってしまう。
「あ、勿論人にもイデアがありますよ。私にも人のイデアがあります。君たちもですよ。」
人にイデアがあるのなら、人は生まれた瞬間は自分は人であるということを忘れているのだろうか?…赤ちゃんの頃なんて覚えていない。私は一体いつから自分が人であると知っていたのだろうか。
「プラトンの有名な話で、洞窟の比喩というものがあります。資料集を見てください。暫く待つので読んでみてください。」
そう指示され、私を含む六人が資料を読み始めた。資料を読み進めて行くと、私たちは、イデアがあり、善のイデアを太陽とするイデア界から、私たちの居る現象界に写し出されたイデアの影しか見ておらず、それを実物と思い込んでいる、というようなことが書かれていた。……思い込んでいる…か。この話はイデアの話としてあげられているが、イデアに限らず、私たちは全てを見ずに知った気になることがよくあるような気がする。勿論、私も例外ではない。私だって知らず知らずのうちに何かを思い込んでしまっているのかも知れない。
「読み終わりましたか?面白い話でしょう?……まぁ、そんなこんなでプラトンさん曰く、私たちは実物を見ていないそうです。なら見ればいいじゃん?と思いますが、眩し過ぎて見れないそうです。なら、影しか見てないの仕方ねぇだろ?と喧嘩を売りたくなりますが……置いておきましょう。」
「(…口が悪い(笑))」
「…まぁ、眩しくて見ることができなくても、思い出すことはできる。プラトンは、忘れてしまったイデアを思い出すことを想起すると言いました。」
…なんでそんな格好良い名前付けたんだろう。私が中二病だったら喜んで使いそうだ。
「………………。イデアを純粋に愛することをエロース、もしくはエロスと言います。…あ、別にセクハラをしているわけではありませんよ。プラトンの言うエロースは、知を愛すること、その愛のことです。哲学は知を愛することです。哲学をしている人、好きな人達は、プラトンに言わせればエロい人ってことですね(笑)」
……哲学が好きな私はエロいってこと…?なんだか複雑な気分だ。もうちょっと良い言い方は無かったのだろうか。いや、そういったやましいことにその言葉を使うのがわる…いや…でもある意味哲学者は変態ばかり…って失礼極まりないか…
「……………。今日はキリが良いのでここで終わっときます。」
「起立、礼。」
『ありがとうございました。』
「どうもありがとう。」
……エロい…か。…やっぱり少し複雑な気分だ。一見自分が痴女みたいに思えてしまう…。
「篠ちゃーん!どうしたの?ボーッとして。先生、鍵閉めるの待ってるよ〜。」
「…あ、ごめん。」
「そんな急がなくても良いですよ。…何か考え事でもしてたんですか?」
先生が不思議そうに私を見ている。
「……あ…」
「…ん?」
「…いや…私はエロいのかと思って…。」
「へ?」
「篠ちゃん(笑)」
「…さっきの話です。…待たせてすみません。」
「そうですか。大丈夫ですよ。今日の話は面白かったですか?」
「…はい。」
「それは良かった。では、また明日。」
「さようなら〜。」
先生は優しく微笑んで帰って行った。…あれ?今、私はちゃんと詰まらずに話していた…?何でだろう…。
「篠ちゃん!教室戻ろ!」
「あ、うん。」
……あの人はきっと他の人と少し違うから話せるんだ。あの人は優しい。…悪い人じゃない。…多分。……でも、どうしてこんなにすぐ大丈夫になったのだろう…?
次回は先生視点です。
お立ち寄り下さりありがとうございますm(_ _)m
今はデレ(?)度10〜20くらいですかね?
一応卒業で終わる予定です。