06 となり
萩野先生視点です。少し短めです。
「はい。この子の名前はヒロシ君です。さて、これで頭が八個になりました。円になって座ってみましょう。」
そう僕が言うと、六人はきちんと円になって座った。ヤマタノオロチの説明には、僕とこのヒロシ君も入らないと出来ない。御上さんは思った通りグループワークがとても苦手のようだった。僕のこともまだ全然信用してないだろう。…でも……少し近づいてみても大丈夫だろうか…
「ちょっと私とヒロシ君を間に入れて下さい。」
当然と言えば当然だが、御上さんはマスクと前髪に隠れているものの、驚いた表情をしている。僕の方を見ることはないが、緊張がこっちまで伝わってくる。彼女が一体今何を考えているのかはわからないが、嫌われていないと良いのだが……
「ここに頭が八つあります。股の数を数えてみましょう。……一、二、三、四、五、六、七。…ほら。七つ。わかりましたか?何故ヤマタなのに七股なのか。ヤマタノオロチは一つ一つが独立していた訳ではなかったんですよ。実際は七つの股というわけではなく、八つの尾らしいですが…」
説明をして僕は立ち上がった。御上さんの方を少し見てみると安心したような表情をしている。何というか少し寂しい気もする。まぁ、相手は僕を信用していないのだから当然なのだが………。ちょっと意地悪してみたくなる。ヒロシ君を隣に置いておこうかな…これくらいなら多分大丈夫…
「まぁ、簡単な話ですよ。少し考えればわかることです。……倫理の授業は考える授業です。自分自身の頭で考えるのです。一人一人、自分の意見を大切にして下さい。では、教科書の内容をやりましょうか。……………」
御上さんは置いていかれたヒロシ君が少し怖いのか、あまり隣を見ないようにしている。なんというか…ちょっと可愛らしくもある。僕に娘がいたらこのぐらいの歳なのだろうか。……どうして僕はこんなにも御上さんが気になるのか。…彼女は他の女子生徒と比べるとかなり危なっかしい雰囲気を持っている。放っておいたら、ふらぁっと何処かへ行って消えてしまいそうな、そんな雰囲気がある。……この子はちゃんと笑ったりするのだろうか。人が苦手で人が怖いと思っていると、北野先生は言っていた。心から本当に安心できる場所が無いと。…本人の口から聞かなければわからないが。……安心できる場所になりたいと思ってしまう僕は変なのだろうか…
「起立、礼。」
『ありがとうございました。』
「どうもありがとう。」
さて、ヒロシ君を片付けなければ。
「御上さん。僕のヒロシ君を下さい。」
「………へ?」
「君の隣にいるヒロシ君です。」
「…え、あっ……はい…」
驚いたのか、面白い声をあげた。気が緩んでいたのだろうか…?…少し話してみても大丈夫だろうか?……いや、話さないと何も始まらない。
「ありがとう。…君のことは北野先生からよく聞いてるよ。」
「……そ、…そうですか。」
声も身体も強張っている。出来るだけ安心させてあげなければ…
「そんなに緊張しなくて良いよ。とって食ったりしないから。」
「………。」
黙ってしまった……なんだか少し申し訳ない気持ちが出てくる。…あまり引き止めるのも悪い。
「じゃあまた明日。遠野さんもね。」
「はーい。」
「……。」
少しずつ、少しずつでいい。北野先生は、あの子は本当は人が好きなんだと言っていた。…彼女が変われるきっかけになれたら…安心できる場所になれたら。
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