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02 初めまして。

「おっはよ〜!!しのぉ〜!!」

「おはようー。」

「もう!友希!」


友希ちゃんは今日も元気がいい。そして朱理ちゃんは今日もお母さん。


「今日からもう授業だよ!?早過ぎない!?」

「確かに早いね。」

「しかもいきなり政治経済……そんな移ろい行くものを学んでどうする!!今現在のだけでいいじゃん!!」

「珍しく友希がそれっぽいこと言ってる…」

「珍しくって…失礼な!」


何というか、親子を見ている気分。お母さんとちっちゃい子…なんて。こんなこと言ったら友希ちゃんに頭突きされそうだ。


「篠だってそう思うよね〜?」

「…へ?…あ、うん?」

「ほら!!」

「篠ちゃん多分何のことかわかってないよ…」

「えっ!!?」

「……すまない。」

「朱理!なんか篠が武士みたいになった!!」

「篠ちゃんは少し変わってる所あるよね〜」

「…そう?」

「うん。」


友希ちゃんにも朱理ちゃんにも肯定されてしまった。……少しとしか言っていないし、別に変質者みたいな変わってるではないだろうし、まぁ大丈夫だろう…


「はーい席ついてー。SH始めるよー。」


今日から授業が始まる。正直心が重い。苦手な数学もあるし、午後から学年集会と言う名の拷問が待っている。学年集会=長い話連発のイメージしかない。……そういえば昨日北野先生が倫政楽しみにしててねみたいなことを言っていた気がする。初対面の先生だから少し緊張してしまう。


「はい、じゃあSH終わり。今日から授業始まるから気を引き締めてね。」


今年は倫政を取っている生徒が非常に少ないと聞いた。毎年受験で使う為に取る人がそこそこ居るそうだが、今年は違ったみたいだ。


「篠ちゃん。倫理取ってたよね?」

「……結衣ちゃん?うん、取ってるよ。」

「移動教室一緒に行こ!女の子私と篠ちゃんだけなんだって〜」

「…そうなの?知らなかった。」


結衣ちゃんは去年同じクラスだった女の子。とっても美人さんというか可愛い女の子で目の保養になる。あまり話したことはなかったけどこんな可愛い子と一緒なんて、なんだか少し緊張してしまう。


「倫政取ってるの六人しか居ないんだって〜」

「少ないっては聞いてたけどそんなに少ないんだ…」

「びっくりだよね!(笑)」

「……先生は男性?女性?」

「昨日貰ったプリント見た感じだと男の人だと思うよ〜」

「そうなんだ。……緊張する。」

「あははっ!可愛い〜」


貴女の方が百万倍可愛らしいです……というツッコミを入れたかったが、今日ほぼ初めて喋ったと言ってもいいほど今まで関わりが無かった為、何も言えずに終わってしまった…


「あ、チャイム鳴ったね。」

「先生来てないね〜」


なんというか、このまま来なくても良いんですよという気持ちが湧いてきた。


「あ、少ない。」


そう言って私達の前に立っていたのは、見上げないと顔が見えない程、身長が高い、不思議な雰囲気を纏った男性だった。


「どうも。誰だお前って思いましたか?」


……何、この人。何、この人?不思議も不思議過ぎると思うのは私だけなのだろうか。


「萩野です。別に覚えなくても良いですよ。一年しか関わらないので。…それにしても少ないな。」


凄い人だなとしか言えない自分の語彙力の無さに少々苛立ちを覚えるようなそうでもないような…


「君は何さん?」

「…へ?何さん?」

「名前。」

「………御上…です。」

「君が御上さんね。隣の子は?…」


とても驚いた。前置きが全くない。というより何故自分が最初だったのかという疑問が湧く。端っこに座って居たからだろうか。それなら私じゃない方の端から行って欲しかった。


「ここにはキラキラネームが居ないんやね。六人とも普通。僕んとこのクラスには二、三人居るんですが…」


普通の名前で良かった。この人に絡まれたらそこで終わりな気がしてならない。底が知れない。


「一発目の授業が私の授業だなんて皆さんついてませんね。残念でした。」


自己否定が凄いのかただふざけてるだけなのかが全くわからない…


「週に四回この授業がある訳ですが、基本的に週の前半二回が倫理、後半二回が政経です。今日は取り敢えず政経をします。教科書は別に開かなくて良いですよ。まぁ、一回目なので私が勝手に喋ります。」


倫理を楽しみにしていた分、少し残念な気持ちがある。でも時間割を見たところ明日もあるみたいだし導入みたいなことはするだろう。


「さて。教科書は政治の方から始まっているので政治の話が十月くらいまで続きます。というか、多分政経の方は授業が終わらないので各自で頑張って下さい。倫理は心配しなくても全部終わらせますからご安心を。他の人達が週四回でやることを君達は二回でやらなくてはいけないので…まぁ許してくださいな。」


なんてことだ。自分でやらなければならないとは初耳でござる。いや、初耳です。…仕方ないと言えば仕方ないことか。


「まず、国家の話ですが…多分中学校でも聞いたと思いますが、国家となるためには三つ必要なものがありますね。領域、国民、主権。これらがないと国家とは言いません。………あ…君らは世界史選択者かい?」

「前に座ってる三人は世界史選択です。」


結衣ちゃんは凄い。よく喋れたなと思う。私には到底発言することなど出来ない。


「じゃあ他は日本史?」

「僕だけ地理です。」

「ふーん。まぁいいや。…あ、六人しかいないからじゃんじゃん当てていきますよ。」


心が重い。重過ぎる。先が思いやられる。人前で発言など今までどれだけ避けてきたことか。少人数であることを最初はラッキーかもと思った自分を殴りたい。


「じゃあ…えーっと…君は武田君だったかな?今はもう存在していない国家を答えてください。あ、これ2周しますよ。考えといてね。」


世界史を選択していた自分本当に良くやったと褒めてやりたい。…しかし心が焦り過ぎて頭が真っ白だ。


「神聖ローマ帝国。」

「あーありきたりですねぇ。大体一番最初にそれが出てきますよ。はい、じゃ後ろ。」

「漢。」

「おー中国ですか。はい隣。」

「隋。」

「君らは日本史選択者やったね。はい次。」

「殷。」

「中国禁止にしましょうか。はい次。」

「えっ!…どうしよう…」


結衣ちゃんが困っている…助けてあげたい気持ちはあるが、なにぶん自分の頭が焦って真っ白でとても助け舟を出してあげられそうにない…


「あっ!ソ連!」

「絞り出しましたねぇ。はい隣。」


回ってくるのが早すぎる…頑張って下さい私の頭。二年の世界史の授業を思い出して下さい私の頭。


「……えっ…あっ!…さっ…ササン朝。」

「おや、朝ですか。良いところ行きましたねぇ。はい、もう一周。」


……もう一回くるのか。頑張って下さい私の頭。…その前によく言えました。偉い自分。ちゃんと喋れた。偉い。


「おや?武田君。出てきませんか?」

「……ちょっと今思いつかないです。」

「世界史の先生が泣いてるよー。はい後ろ。」

「……………。」

「困ってますねぇ。次。」

「……………。」

「おやおや。」

「……わかんないです。」

「…絞り出せそうですか?」

「……あー…わかんないー…思い出せないです。」


どうしよう。滅んだ国家…滅んだ国家…


「思いつきましたか?」

「……………うーん………っ!!」

「ん?」

「…き…キプチャク=ハン国…」

「ふっ…ははっ!キプチャク=ハン国ですか。そうですか。キプチャク=ハン国…ふふっ…予想外でした。君は世界史選択者だっけ?」

「……はい。」

「そっか。」


自分の頭本当によく頑張ったと思う。本当によく思い出した。偉い。もう喋りたくない。気力が持って行かれる。


「では続きをしましょうか。…………」


初回でこの疲労感だと、この先一年間が思いやられる。自分はやっていけるのかという不安しかない。取り敢えず今日は帰りにコンビニで甘いものを買って帰ろうかと思う。

お立ち寄り下さりありがとうございますm(_ _)m

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