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下町異世界探偵  作者: 一宮真
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下町異世界探偵(2)~ネコミミ無頼~

江戸川区役所職員、伊勢真琴は異動したその日に上司に命じられ、神崎探偵事務所に奇妙な猫を届けることになった。

「江戸川区役所の伊勢と申します!」

 真琴はとっさにそう言ったが、さっきまで自分の周りで起こっていたことを思い出し、次の言葉が出てこない。

 二人の間に微妙な沈黙が流れた。

「あのっ!本日はこの子をお届けに来ました!」

 真琴は胸にしっかりと抱えていたケージを神崎に差し出した。

 神崎はケージの扉を覗いてうんざりした顔で言った。

「フィー、お前また……」

 フィーと呼ばれたネコは素知らぬ顔で、前足の肉球をペロペロと舐めている。

 神崎はケージを受け取って床に置き、真琴を見上げて言った。

「ちょっとびっくりするかも。覚悟はいい?」

「は?」

 神崎がケージの扉を開くと、ネコは悠々と出てきて大きく伸びをし、あくびをした。

 そして喉をごろごろと鳴らしながら、ピンと立てた尻尾を真琴の足に巻き付けるようにすり寄るとぐるりと後ろに回った。

 真琴は改めてこのネコの優美な姿に魅入られていた。

「なつっこい子ですね……」

「ま、外面はね」

 神崎が苦笑いしながら答える。

 と、真琴の背後を回って少女が現れた。

「???」

 少女は豹柄でノースリーブのシャツの前を大胆に開き、首にはさっきのネコと同じ青い石のぶら下がった赤いチョーカー、そしてその下には深い胸の谷間を見せつけるようにきわどい黒いビキニトップを見せていた。

 髪の毛はゆるやかにウェーブがかかった艶のある金色だが、その髪からはなんとにょっきりと三角に尖った大きな耳が突き出している。

 そして耳には、真琴が連れて来たネコと同じく、金色のリングのピアスが下がっていた。

 少女は少し背伸びするとその大きい目で真琴の顔をのぞき込む。

 瞳はあのネコと同じ深い群青だ。

 真琴は少女の群青の瞳から目をそらすことができない。

 少女は鼻をひくひくさせながら真琴の首筋の匂いを嗅いで言った。

「んー、いい匂いだにゃ。ボクの好み」

「ちょっ……!」

 抗議しようとした真琴を、鼻から脳に抜けるような刺激臭が襲う。

「!」

 それは獣の臭いのようにツンと刺激的で、それでいて薔薇のように甘く濃厚でねっとりとした香りに、真琴の頭は真っ白になった。

 そして次に真琴は肉体の芯が次第にとろけてなくなっていくような不思議な心地よさを覚えた。

 真琴の頬は紅潮し、目はとろんと焦点を失ってしまう。

 神崎は顔をしかめながらじっと見ていた。

 —ちっ、フィーのやつ、麝香(じゃこう)を使ったな。

 フィーと呼ばれたネコミミの少女は、すっかり脱力した真琴の体を抱き寄せると素早く唇を奪った。

 それは真琴にとっては高校生の時以来のキスで、恥じらいと高揚感が入り混じった、まるで初めてのキスのように体がふわりと浮くような感覚だった。

 フィーは調子に乗って真琴に胸の膨らみに手を伸ばす。

「おい、いい加減にしとけよ」

 さすがに見ていられなくなった神崎がフィーを咎めるが、フィーは構わず真琴の胸を触り続ける。

「何言ってんの、所長。お楽しみはこれからだよ?」

 フィーは真琴の首筋に舌を這わせながら、胸を触り続ける。

「あっ……」

 真琴の口から思わず小さく声が漏れる。

「んー、大きからず小さからず、きれいな形ですにゃー」

 フィーは真琴のショートボブの黒い髪の毛をかきあげ、背すじを指でなぞる。

「んんッ!」

 真琴はもはやフィーにされるがままだ。

「肌のきめの細かさ、つやつやの髪、これならまだ高校生でも通用するにゃ。それからこの引き締まった肉体(からだ)。大胸筋と背筋がしっかりしてるからこその美乳ですにゃあ」

 フィーの手は真琴の大腿部から内股へ滑るように動く。

「はあ…、んっ!」

 真琴は顔を真っ赤にして息を荒げた。

「長―いあんよ。スタイル抜群だにゃ」

「ん……」

 フィーは一瞬で真琴のパンツのベルトを解き、前ボタンをはずして指を下着の中にに手を滑り込ませようとする。

「あっ!いっ、いいっ…」

 神崎はたまりかねて言った。

「フィー、もうやめとけ!」

 フィーは神崎を一瞬振り返ってニッと笑い、再び真琴に視線を移す。

 しかし、そこに真琴の姿はなかった。

「おろ?」

 同時にフィーは何者かに後ろから首をぐいと押さえつけられ、前につんのめる。

 反射的に体を起こそうとするフィーの顎の下から手刀があてがわれる。

 真琴はいつの間にかフィーの背後に回っていた。

「いい、わけ……」

 フィーが体を起こす動きにぴたりとタイミングを合わせ、真琴はその右手で作った手刀を下から上に大きく振り上げ、円を描くように一気に振り下ろす。

「ないでしょ!!」

 合気の技「入り身投げ」だ。

 フィーの体が仰向けに宙に舞う。

 普通の人間ならば、このまま背中から床に落ちるところだが、フィーは柔らかく体を捻り、音もなく四つん這いに床に下りた。

 真琴は顔を真っ赤にして、仁王立ちでフィーを怒鳴った。

「このっ、エロ猫ッッッ!!」

 フィーは立ち上がり、悪びれた様子もなく両手をはたく。

「ちぇっ!お堅いにゃー」

 真琴は後ろを向き、しかしフィーへの警戒は怠らず、素早くパンツを直してベルトを締めなおした。

 神崎は笑って拍手しながら言った。

「ここでフィーを床に這わしたのはあんたが初めてだ。魔力が支配する場所でも人間の体術は関係なく有効ってわけだ」

「ボク、這ってなんかないしー」

 服を整え、しかし髪は乱したまま真琴は神崎たちに向かい合うと、フィーを指差して言った。

「だ、だいたいアンタは男の子?女の子?」

 麝香による頭の混乱はまだ続いているらしい。

「この場面でそれって大事?」

 真琴の意外な質問にフィーは呆れながら、するりと下着を脱いで足先から抜き去ると後ろにポイと投げる。

「ちょっ……!何を……」真琴は慌てた。

「だいたい最近()()()じゃ、そういう質問はセンシティブなはずなんだけど。真琴ちゃんはもう少しコンプライアンス?を勉強した方がいいんじゃないかにゃー」

 そう言うとフィーは超ミニのフレアスカートをめくりあげる。

 すると真琴は口をぽかんと開き、視線はフィーの股間に釘付けになった。

「♂♀#>>%!?」

「そっ、どっちも付いてるの。ボクらケモノビトはみんなそうだよ」

「お前、今のよくわかったな」と神崎。

「け、ケモノビト?」

 真琴はまったく意味がのみこめない。

「そうだ。半獣半人の生き物を()()()じゃそう呼んでる」

「あっち?」

「異世界だ。まあこの事務所はその出張所みたいなもんだから、すでにここも異世界といえるな」

「異世界……」

「ようこそ異世界へ。伊勢真琴さん」

 神崎は笑ってそう言った。


             下町異世界探偵(3)~イは異世界のイ~につづく


またしてもフライング投稿してしまいました。

今回から、すこし分量を減らすことにしました。

ネット小説で一話四千字というのは読む方もしんどいのではないかと以前から懸念していたので、もっと気軽に読めるように、という考えです。

感想、メッセージ、評点など前作に引き続きお願いいたします。

あ、前作で思い出しましたが「トッケイ」も未読の方は是非!

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