~~乙女がみた白い庭~~
穢れを寄せ付けぬ透き通るような純白のお皿の上に、佇むのは黄金の衣を纏いし夕飯の巨魁。
からっと揚がったそれは、まるで宝石のように見事な色合いを食卓に与え、人の心を彩限なく飾ってくれる。
その150カラットにもなる黄昏色の宝石を深き暗闇へと一口で沈める時、『今日も一日頑張ったという満足感』と『今日が終わってしまう少し切ない思い』、そして『明日の朝日を拝むための生きる活力』を体に与えてくれる。
まさに神が人間に与えてくれた愛餐。
無償の愛に感謝し、自らの闇へと宝石を沈めてこの愛餐を終えようとした。
しかしこの愛に満ちた食卓に、突如『飢え』と『餓え』を満たそうとする悪しき体と心が降臨する。
その体は銀色に輝く三又の槍を巧みに操り、無駄のない無駄な動きで神が与えた宝石を奪い去ると、自らの心が生んだ闇へと沈め、その白い顔に恍惚な表情を浮かべた。
「あっー! それ私の唐揚げですよ姉上!!」
「もぐもぐ・・・・一向に減らないので美味しく頂きましたわ。感謝なさい、タギリ」
「大切に取っておいたんです! それに自分のお皿にもまだ残ってるじゃないですか!」
タギリと呼ばれた唐揚げは、机に手をつき勢いよく立ち上がると抗議の声を上げた。
その声は朝を告げる鶏のような剣幕で、愛餐から現実へ悪魔の心を呼び覚ますほど、鮮明に部屋中に響き渡った。
しかし時すでに遅し。
召喚された悪魔は、自らの皿に残った最後の唐揚げをフォークで口へと運び、満足そうな顔でご馳走様と食事を終えていた。
この様子を見ているしかなかったタギリは、脱力しもたれかかる様にして椅子に再び座る。
だがそこは愛餐などではなく、大切なものを失った虚無そのもの。
その虚無感の中、タギリが茫然の見つめていた先には、白の庭の上にトマトだけが残った風景が広がっていた。
「お姉ちゃん、トマトはしっかり食べなよ?」
唯一の救いの神と思っていた者「弟」が、隣から声をあげる。
救いを求めた乙女に神が与えた言葉は、慈悲ではなく試練だった。
しかし彼女はまだ知らない。
トマトを食べることよりも、大きな試練が彼女に襲い掛かることを。