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授業が長引いていることに先生は気がついていない。もう授業の時間は過ぎ、廊下がざわつき始めているのに先生は話に夢中で気がついていないらしい。侑祐はいつ気がつくかなとじーっと窓の外を眺めていると、救いの手が舞い降りた。
「先生!授業の時間もう3分過ぎてます。」
「...!あぁ!ごめんなさい。また次回...終わりにします!号令!」
先生の合図とすぐに号令係が号令をかけ、みんながそれぞれに動き出そうとした、その瞬間号令が終わるのを見計らっていたのか夕望がみんなが動くよりも先にスパーン!とドアを開けと同時に入ってくる。
「ゆうくーん!!みーてー!!」
「...!?ちょっ...まっ...うぉ!?」
そのまま勢いよく人のあいだをすり抜け迷うことなく侑祐に飛びかかった。いつものように床に2人で転がる。夕望は周りは気にせず見てみてと騒いでいるが、周りは呆然とクラスメートもまだ居た先生も見つめている。見慣れているクラスメートに関しては驚いて見つめているだけのようだが。
「...イッツ...ったくー・・・毎度毎度飛び込みやがって...なんだよ次は...」
「ゆうくん!これ!みてみて」
「...あ?...何、ここ行きたいわけ?」
「うん!いこ!ねぇ、いこ!ね?!」
いい加減免疫のついたクラスメートはまたいつもの事かと通常通りに戻り廊下やらそれぞれの席や席移動し、友人と喋っている。先生は未だ呆然としてこちらを見ていて少々恥ずかしい。
「...俺がお前のいうことに反対しねーし、わかったから、離れろ。先生驚いてんじゃねーかよ」
「...あ、ごめんなさーい。」
謝る気のなさそうな締まりっけのない謝り方で謝りてへと首を、傾げ笑う。先生もやっと苦笑してその場を離れていった。
その後に続き、桃が、慌てた様子でかけてきたのが見えた。
「さまるん!平気?!ごめんゆのっち抑えてらんなくて...」
「...大丈夫だ。いつもの事だし」
「...そっか。それさ、前の休み時間に見てて。見た瞬間飛び出して行きそうだったんだけどさすがに休み時間終わりそうで止めたけどその次に行くとは...」
「...(苦笑)平気だよ。」
気いつかってくれる桃が、ありがたく思える。侑祐には気を使い、「大丈夫大丈夫」なんて自分の事でもないのに言う夕望におこってくれている。今日はさすがに不意打ちすぎて支えられずそのまま倒れ込んだから肘の辺りを擦りむいたようで痛い。肘を眺めているとペタッと誰かに何かを貼られる。顔をあげて見てみると夕望だった。
「...ごめんね?夕望が飛び込んだから...」
「...いーよ。つーか自覚あんならやめてくれ...」
「...それは無理かな?」
いつの間にか桃からの説教は終わったらしく夕望がいた。可愛くいえばなんでも許してもらえると思っているからタチが悪い。許してしまう侑祐も侑祐だが。桃は既に天哉と楽しそうに話していた。
「侑祐、鳴海、それ4人で行かねぇ?俺らも行きたいし。」
「...あぁ。いいね。」
4人で行く計画を立て、行く場所は水族館と遊園地が併設してできた新しい施設。夕望はそういった楽しそうな場所が大好きだ。魚をみて「美味しそう」と言うくらい大の魚好き。遊園地も全部乗りたがるくらい大好き。そこに行くことになった。丁度次の日曜日から開園するらしくその日に行きたいというのだ。
そして迎えた日曜日。4人でやってきた水族館と遊園地の併設パーク。特に夕望は大はしゃぎで見張っていないと1人で行ってしまいそうなまるで小さな子供のよう。あっちこっち1人でスタスタと行ってしまう。ダブルデートのように4人で来たはずがいつの間にか2人となり、夕望に1人連れ回されてしまっている。
「ゆのー、休憩しない?...ってあれ?!ゆの!?」
スタスタと行ってしまう夕望は少し目を離した隙にもう見えなくなりはぐれてしまった。さすがに開園日とだけあり人が多すぎて見つけ出すのが大変だ。それに夕望は1人になるのはすごく心配。1人に気がついたら周りに迷惑かけそうなくらいの大声と足で侑祐を探し回り見つからないとうるさいくらいに泣き出そうとする。これは早いところ見つけ出さないとならない。そう慌てて天哉と連絡を取り、夕望を探し出すように言った、侑祐も辺りを夕望の名前を呼んで探し回った。
なかなか見つからず、探し回るのにも疲れ果てたその時、微かに聞こえた夕望の声。侑祐は慌てて声のする方へ急いだ。すると確かにそこに夕望はいた。何故か知らない男と談笑していた。とりあえず侑祐は天哉へ夕望は見つかったことを報告して近づいた。
「...ゆの。」
「侑祐!急にいなくなるんだもん!」
「...いや、急にいなくなったのはお前の方だろ。ったく、毎度手間かけさせやがって。」
「...なるみちゃん、見つかったみたいだからまたね。」
そう笑顔で帰っていく少年。年は同じくらいだろうか。まさかこの出会いが侑祐の最大のライバルとなりうるとはこの時はまだ思っていなかった。
「...あ、バイバイ!かいとくん。」
かいとという少年以後のために覚えておこう。直感で侑祐はそう思った。
「侑祐!続き!」
「あぁ。」
今度こそ目を離さないように手を繋いでぐるぐるパーク内を歩き回った。乗り物を全部制覇するまで遊園地内を歩き回り、隣合わせの水族館にも足を運び、一通り見て回る。そうして、お騒がせのダブルデートは幕を閉じた。次の日には侑祐は疲れ果てながら学校で1日を過ごし、騒がせた夕望はケロッとしていつものように飛びかかってくるしで疲れる侑祐だった。
「ゆうくん!夏休みはプール行こうね!」
楽しく夏休みの計画を話す夕望。夏休みに入ったら夏はあっという間にすぎる。夕望の計画立てたプールやらなんやら夏らしいことを満喫しているとあっという間に夏休みは終わった。夏休みの間も、侑祐と夕望は毎日のように会い顔を合わせた。宿題をしたり遊びに行ったり。それがもちろん当たり前の小さい時からの習慣であったからだ。そうして楽しく夏休みを過ごしている間にあっという間に夏休み過ぎた。
二学期。ここからが侑祐を脅かす最大のライバル登場で侑祐たちの関係が大きく変わり始めることになる。二学期の始業式後、夕望のクラスに転校生がやってきた。それは夏休み前にあったあのかいとという少年。名前は、千葉海音という少年だった。あの遊園地の日夕望と話して恋したと言うその少年は夕望に猛アタックをし始めた。当然そういうことにとても鈍い夕望はただ友達になって欲しいんだぐらいに思っていてただ友達として仲良くしている感覚で海音と話していた。当然それには海音も気がつき、どうにかして振り向いてもらおうと、頑張る姿。
一方、その転校生、海音が夕望にベッタリだからか侑祐の元へ勢いよく飛びつくことが減ったことで侑祐は寂しさを感じ、転校生海音に嫉妬心が芽生える。恋のライバルの登場だ。今までは他にもいたって関係なかった。だが、今回は違う。明らかに狙っていて奪われる危機なのだ。まさかの最大のライバルの登場で自分に振り向いてもらおうと必死にならなければ海音に取られてしまう。侑祐は振り向かせるために今までよりも男を見せようと必死になった。もちろん侑祐が必死になれば海音も必死になり、ライバル同士で競い争い合うように夕望にアピールしていった。その光景は天哉や、桃は面白そうに眺め、観察していた。
「...ゆのっち、恋しないの?」
「恋って何?どんな感じなの?」
「...ゆのっちは相変わらずだね。恋はさ、すればいいものだよ。恋ってのはそうだな...」
説明なんて難しい。恋は自然としているものだと思う。その人を見るとドキドキしてその人といると幸せで一緒にいることだけでも満足しちゃうくらい愛おしくなる。
「恋ってさ、好きだって思うだけじゃないんだよ。その人と一緒にいれたら嬉しいとか、もやもやと悩んでもその人の笑顔を見れただけでどうでも良くなっちゃうそれが恋だと思うんだ。」
「...恋か...」
「うん。...ゆのっちはいないの?」
「...うんまだピンと来ない...ももたろうはたかやんにそう思うの?」
なかなか恋というものにピンと来ない夕望に桃は少しでも気がついて欲しくて説明してみるがピンと来ないようだ。さすがに手強い。
「うん。そうだょ。天哉にそう思うかな。」
「そっかぁー。私はピンとはこないけど、侑祐にはずっと一緒にいてほしいと思うよ。すごく大切な人だもん。けど、これが恋なのかって言ったらよく分からないよ。」
「そっか。早く恋しなよ。私ゆのっちの恋バナいっぱいしたいもの。」
夕望が恋というものに何となく掴めたような感じになってきたような所まできた。それでもまだこいというものを理解するのはまだ先の話でいつもの元気な夕望で、少し悩んでいるようだがそんな素振りは見せないようにしている。
「鳴海ちゃーん。お...」
「ゆの!昼飯。今日は唐揚げだよー」
「ゆうくん!やったぁ!...かいとくんなんかようだった?」
「あ、いや、お昼一緒にどうかなって思ったんだ。でも大丈夫。」
夕望の気が付かない?争いは続いている。侑祐も必死に取られまいと猛アタックする海音を遮るように割り込んだり、ちょっと睨みつけたり、俺のに手を出すなと言わんばかりに威嚇して。
「あ、海音くん、一緒に...」
「いや、いいんだ鳴海ちゃん、佐丸くんと食べなよ、」
アタックしていた、海音が威嚇した侑祐に怯んだそのすきをつき、夕望を人目のつかない場所に連れ出した。
「ゆうくん?」
ただならない少しピリピリした侑祐に夕望も戸惑いの目を向け恐る恐る言葉を出す。
ボソッと名前をつぶやきドンッと床に押し倒しその上に馬乗りになるように覆いかぶさった状態でしばらくじっと夕望を侑祐は見つめた。
「...あの、ゆ、ゆうくん?」
「......夕望。俺はお前がそばにいてくれるだけでよかった。でも今はそれだけじゃ足りねーの。なんでだかわかる?」
「...?」
突然の問いかけに夕望は首をかしげた。
「俺はお前が好きだからだよ。ずっと恋してるの、お前に。俺がお前を一生大事にしてたいんだよ。いい加減気づけバカ。」
突然の告白に呆然としてしまう夕望。告白するなり侑祐も恥ずかしくなり弁当だけを手渡し去ってしまう。返事を聞くのが少し怖かった。言うだけ言って去ってからしばらく2人は会わなかった。