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アクシデントで力を得たら!?  作者: 睦月二音
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入学初日

召喚士育成の場、カルファー学園。手触りのいい布で品良くあしらわられた制服を、鋭く睨みつける。

通うもの達が貴族ばかりなのが影響してか、あらゆる必需品が値の張りそうに見える。暫く睨みつけているうちに、部屋のドアが控えめに叩かれる。


「ユウ、入ってもいい?」


なかなか部屋から出て来ない妹を心配して来たのだろう、兄のレイの声が聞こえる。素早く手に持っていた制服を身につけ、ドアを開ける。


「おはよう、良い朝だね。準備は出来た?」

「........おはよう、兄さん。」


カルファー学園の制服を完璧に身にまとった兄は、妹である自分から見ても、文句なしにカッコいい。自尊心が無駄に高い貴族ばかりの学園では、平民出身の者達はしばしばいじめに遭う....というのだが、この兄がいじめられるとは到底思えない。

眩しい笑顔に若干圧倒されながらも、鞄(カルファー学園仕様)を腕に抱えて歩きだす。学園についても始終ご機嫌で笑う兄を怪訝に思いながらも....。








現在昼休み。授業といっても、初日だからかほぼオリエンテーションであり、特にすることはなかった。

自分の席で兄のお手製弁当をつつきながら、やけに賑わう教室の一角を眺める。騒ぎの中心にいるのは我が兄、レイ・ヴァイスであり、しきりに話しかけてくる女子生徒の相手をしている。


「レイ様は平民でありながらも、誰よりも高い適正があるのですよね。素晴らしいですわ。」

「レイ様。よろしければ昼をご一緒にどうですか?我が家自慢のシェフが腕を振るいましたの。」

「御誘い頂き有難うございます。ですが自分は妹と....」

「この学園の中庭は素晴らしいと聞きましたわ。ぜひ一度ご覧になったほうがよろしいわ。よければご一緒に。」


兄の反論も聞こえていないのか、矢継ぎ早に声をかけている。助け舟を出してはやりたいが、入学早々貴族の令嬢に目をつけられるのはごめんだ。見ないふりをして、そのまま箸を進める。

我関せずを通していると、近づいてくる男子生徒が一人。確かあれは....


「囲まれてるの、君のお兄さんだよね。助けてあげないの?」


人好きのしそうな笑みを浮かべながら話しかけて来たのは、数少ない平民出身の生徒の一人だった筈だ。平民とは言っても、確か、商会の三男坊だった気もする。

素っ気なく「兄さんも慣れてるから」と返すと、楽しげな光が一瞬、その目に宿る。


「僕の名はレオン・カリスト。仲良くしよう...と言いたい所だけど、君の実力に興味あるんだよね。........ねえ、僕と勝負してよ。」

「は?」


あれ、仲良くしようって言った?でも勝負しようとも聞こえた気が...。


「勝負、しようよ。」


聞き間違いではなかった。初日に始まったのは嫉妬に駆られたご令嬢の嫌がらせではなく、男子生徒の謎の絡みである。


「普通に嫌だ。引っ込め、このアホ。」


相手が怯えるように、威圧的な言葉をあえて選ぶ。田舎では大した威嚇にはならないが、王都育ちのボンボンには効果抜群だろう。ついでにひと睨みもしておく。


「思ったより口が悪い上に、威圧してくるとはね。…まあ冗談だよ。同じ立場の女の子に興味があっただけだから、仲良くして欲しいのは本当さ。」


睨みをあっさりかわした挙句、飄々とした態度を崩さない様子に眉をひそめる。正直にいうと、何を考えているかまったくもって読めない。勝負をしよう、と言ったのは冗談には聞こえなかったし、仲良くなりたいと言ったのも嘘には見えない。

こういう人種にはあまり関わらないのが吉だ。ここは適当にかわしておくのが無難だろう。


「いいよ、気にしなくて。こっちも嫌な態度とって悪かったよ。」


もちろん本心からの言葉ではない。心の中でのみ、相手に舌を出した。訳の分からない絡み方をしないで欲しいものだ。


「もう仲良くなったの?…待たせてごめんね、ユウ。」


そこはかとなく不機嫌な雰囲気を纏わせて前の席に座ってきたのは、我が兄、レイである。まとわりついてきていた令嬢たちはあしらい終えたのか、周りに彼女たちの姿は見えない。

口元には笑みが浮かんでいるが、その目は笑っていない。こちらを見て柔らかくなったかと思えば、レオンを視界に収めた途端、鋭い光を帯びる。自分に向けられていないとわかっていても、ゾッとするような絶対零度の視線だが、対するレオンに怯えるような様子はない。

自分を挟まないで欲しいと痛切に願いながら、この状況のせいで失せた食欲のまま弁当箱を閉じた。









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