“女神”
「........なんでこんな所に、君みたいな子が....!!」
一瞬言われた意味がわからず、思わず固まる。
「....そんなこと言われても......、っていうか結構大丈夫そうですね。すごい血塗れだけど、すぐには死ななそうですね、よかったです。」
「そんなことより、早くここから逃げないと....!!」
そんな時、階段の音が響き、先程の男達が降りてくる。
「起きたようだな。ならば始めるとしよう。」
「この子は関係ない....!解放しろ....!!」
「見られたからには生きては帰せない。性別も、年齢も、生贄に丁度いい。不幸だったと諦めるんだな。」
完全に蚊帳の外な展開に頭がついていかない。「生きては帰せない」と言うことは命が危うい状況なのだろうか。あまりに理不尽なことに思わず口が開く。
「意味わからないのでとっとと拘束解いてください。生贄とやらになるつもりないんですけど。」
「....なかなかに肝が据わっているようだな。だが我らの悲願達成の為に犠牲になってもらおう。」
「“女神”はお前らみたいなのに加護は与えない。こんな事をしても無駄だよ。」
ーーめがみ、女神ーーー。この世で女神と言えば、昔から語り継げられる童話に出てくる女神ただ一人だ。
世界に厄災をもたらし、人々を恐怖に陥れた魔王を、女神の加護を受けた勇者が倒し、平和を取り戻す、と言った小さな子供でも知っているような話だ。
まさかその女神の加護を受けようとしているのだろうか........。
「そんな減らず口もすぐ聞けなくなるだろう。やれ。」
男がそう言った途端に床に魔法陣が浮かび上がる。その禍々しい色を気にする間も無く、体が締め付けられているかのように痛み出す。
「うっ....ああああ、....ぐぅっ....。」
「....クッソ........こんな、ことして....うまく行くと思うなよ....!!」
痛みとともに意識が朦朧とし、視界が白ずんでくる。死を覚悟して目を固く閉じた時、女性の声が頭に響き渡ったーーーー。
ーーちょっと、そろそろ起きなさいよ。........まだ寝てるのかしら、なかなかに呑気ねぇ。
「....はっ!?............ええと、此処は........?」
ーー此処?うーーーん、貴女の精神世界?とかかなぁ....。
........誰だ、このゆるゆるとした女性は。この世のものとは思えない美しさだが、いちいち言動が緩い。
ーー悪かったわね、緩くて。
「....っ!....口に出してました?」
ーー出てはいなかったけど考えてたでしょ。そういう場所にいるのよ、貴女。
「....精神世界と言っても........。何が何だか、浮いてる?んですか。なんか真っ白だし、そもそも誰ですか。」
ーー私?私は....そうねぇ........あなた達の言う“女神”かしら。あんまり寝床で騒がしいから起きちゃった。
「“女神”ってあの童話に出てくる“女神”ですか!?」
ーー童話?....ああ、ルインを助けてあげたときね。私、基本的に人間好きだから、困ってるの可哀想だと思って。童話なんかになってるのね。
「そんな適当な....。」
ーーあ!そうだわ!!私こんな事話す為に貴女を読んだわけじゃないのよ。貴女が死ぬまでの間、貴女の中にいていいかしら?
「....っは、はああああああああ?」