助け
ーー足を踏み入れた森は鬱蒼として居て、酷く静かだった。すでに夕方でもあるせいか人は見かけない。
道に沿って歩いて行くうちに、随分と歩いてきたことに気づく。兄が気づかないとも限らないので、戻ろうと来た道を引き返そうとしたところで、聞き慣れない音を耳が拾う。
重い、何かを打ち付けるような音だ。硬いものではなく、何か柔らかいモノーー気づけば足は音のする方へと向かっており、人が数人集まっているのが見えた。
反射的に木の陰に身を隠す。数人の男が何かを囲み、ヒソヒソと話し合っているのに不穏な雰囲気を感じたからだ。
ーーーそしてそれは男の一人が踏んでいるものを見て確信に変わる。ーー地面に横たわっていたのは血まみれの“人”だったーー
声が出そうになるのを慌てて手で押さえゆっくりと後ずさる。状況はわからないが、ここで自分が見つかればタダでは済まされないだろう。誰か助けを呼ぼうと思い、後ろに足を運んだところで、ぱきり、と足元で音が鳴った。男達が慌てたようにこちらを見て、私の姿を確認するや否や、私は弾かれたようにその場から逃げ出した。
自分の小柄な身はこの木が生い茂る中では有利に働く。木々の合間をすり抜け、素早く木に登る。田舎では木に登ることなど日常茶飯事だったのでお手の物だ。それでも、明らかな異常事態に心臓が破裂しそうに脈打っている。
どうしよう、このまま木の上にいても見つかるのは時間の問題だ。そして、ふとあの場所にいた男達が、全員こちら側に集まっていることに気づく。ーーー今なら、あの人を助け出せるかもしれない。
そう思うと音を立てずにゆっくりと木から降りる。
「ーー大丈夫ですか!立てますか!!」
身体を軽く叩き声をかける。呼びかけに答えるように、男が呻く。かなり血まみれだが、今から手当てすれば間に合いそうだーー。そう思い、肩に担ぐように持ち上げようとした途端、頭に衝撃が走る。殴られたのだろうかーーーーー頭に痛みを感じながらも、意識は暗転していったーーーーーーーーーーーー。
そして話の冒頭に戻る。側には先程の男性が自分と同じく、縛られた状態で寝転がっている。目の前には白い祭壇のようなもの、青白く発光している床、底冷えするような冷気。
異質な空気が此処にはあった。
外の光や光源などはないはずなのに、床のおかげか周りは認識できる。
「........うっ....。」
男が目を覚ます。しばらく目を瞬かせていたが、カッと目を見開くと慌てたようにあたりを見渡す。そして、忌々しそうにチッと舌打ちをこぼす。
相変わらず血塗れだが、思ったより元気そうだ。そこまで傷は深くなかったのだろうか、ひとまず安心する。
「....あの、怪我、大丈夫ですか........?」
バッと首をひねり、こちらを見る。一瞬呆然としていたが、すぐに視線を鋭くさせ、叫ぶ。
「........なんでこんな所に、君みたいな子が....!!」