私の特等席
この季節になると私は、あの人とよく来た「裏山」と呼ばれる場所で、あの人のことを思い出す。
小麦色に焼けた、健康的な肌。
男らしく広い背中。
骨ばっているけど、長くすらっとした綺麗な指。
そして私を見つめる、焦げ茶色で蠱惑的な瞳。
私は、彼の全てに惹かれ、翻弄された。
彼といるときが、私にとって至高のときで、安らぎのときだった。
初めて彼に会ったのは5年前の秋、病院の屋上だった。
私は風邪を拗らせ、肺炎で長い間入院していた。
幸いそんなに酷くはならず症状はすぐにおさまったが、母親が過保護でなかなか私を退院させたがらなかったのだ。
そんな母親の過保護さにだんだんイライラするようになった私は、母親が帰ると真っ直ぐ屋上に向かうようになった。
屋上から見る景色が、私のつまらない入院生活の唯一の癒しとなっていた。
病院自体が周りより少し高い所に在ったため見晴らしもよく、病院の周りには桜や紅葉などの木が植わっていたので、季節に合わせた自然の美しさを間近に感じることができたのだ。
屋上に来る人は少なくなかったが、広くてベンチも多かったので、私はのんびりと過ごすことができた。
屋上に通い始めて、2週間ほど経った頃だっただろうか。
いつものように、母親が帰ってすぐ、私は屋上に向かった。
いつもと同じように、おじいさんやおばあさん、お母さんと子ども、彼氏と彼女が、定位置に座っている。
いつものように、夕日がベンチを照らし、いつものように私は定位置にー···
座れなかった。
見覚えのない人が私の定位置のベンチに横たわり、寝息を立てていたのだ。
フードを被り、横向きで寝ているため顔は確認できなかったが、どうやら男の子のようだ。
雰囲気からしても、私と同じくらいだろう。
(困ったな、他の席も空いてるけど···)
他の席に座りたくはなかった。ここがお気に入りの、私の特等席だから。
しかし、気持ちよさそうに寝ているのに、起こすのも申し訳ない。
迷った挙げ句、私は病室に帰ることにした。