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トーキョー【A9】遺跡  作者: 小宮祭路
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8 源衣

眼窩落ちくぼみ気味でございます。皆様も学校、お仕事、お疲れ様です。

 エリオの放り投げた石は先頭にいたゾンビの胸にズグン、とめり込んだ。

 腐食した肉と腐った血液が周囲に飛び散る。

 ゾンビはゆっくりと自らの胸を見ると、唸り声を上げた。

「ォオ……アオオォオ……オォオオオオ!!」

 ビリビリと響く雄叫びにエリオの顔が蒼白になっていく。

 ゾンビは怒りに我を忘れ、拳で周囲の岩を叩き割った。

「おいおい……ダンボールじゃねえんだから……」

 しかも、エリオは自分の身体がおかしくなっていることに気付いた。

 動かそうとしても指が一本として動かない。

 額に冷や汗がどっと出てきる。

「お、おい、嘘だろ俺。か、身体が今の雄叫びでビビっちまってる」

 ゾンビは緩慢に詰め寄ってくる。

 動きが遅いことで、何をされるのか想像してしまう。

「や、やめてくれ! うええええきんもちわりぃいいいい!」

 ゾンビの顔が近付いてくる。

 腐臭が鼻を通り、肺の奥まで冒してくる。

 虫の大群が周囲を取り囲む。ぶん、ぶん、と耳元で羽音がしきりに鳴り続ける。

「くっそあの王様マジ帰ったら覚えとけよくそ! ……戻れるかわかんねーじゃねぇか……」

 自分の言葉で自分にツッコミを入れながらほとんど半べそをかいている。

 エリオは極限状態に近付いていった。

「おぅええ……もうこれすでに地獄でしょ……おえっ!」

 あまりにも息を吸うにも吐き出してしまう酷い臭いに、身体が動かず酸素の供給が上手く行かなくて意識ももうろうとしてくる。

「ああ……」

 ここで死ぬのかな、と思った。

 攻撃を受けて胸が陥没しているゾンビはエリオの目の前まで近付き、腕を振り上げる。

 ゾンビの拳。

 さきほど岩を砕いたそれがエリオの瞳に映り込む。

 恐怖を通り越えて、エリオはある種失神していた。

 見えている、わかっている。

 けれども心がそれを感知しない。あんまりにもとんでもない恐怖に考えるのを放棄してしまった。

 

 そして、ゾンビは腕を振った。

 ドゴッ……という音がして……、エリオは音のした方向を見る。

 どうせ、俺の身体に風穴が開いてんだろ……?

 そんなふうに思って。

 

 しかし、胸に風穴が開くどころか、エリオはみじろぎもしていなかった。

「……」

「ォウウ……?」

 ゾンビは首を傾げる。そしてまた立て続けにドゴッ、ドゴッ、とエリオを殴り続けた。

 砂埃が舞う。

「痛く……ねぇ。それどころか、汚れてさえいねえ」

 腐食した肉や、零れ落ちる腐った血さえも制服のシャツに全く付いていない。

 あれだけ強烈な打撃を受けているのに身体には僅かの振動さえ伝わってきていなかった。

 エリオはその事実に考えこんだ。

 待てよ……。もしかして王様たちが盛り上がってたのって、制服のことか!? スマホで俺を見てたとき、皆は明らかに表情を変えていたよな。ゲンイという言葉がもし源衣という風に置き換えられたら、この制服が強いことに筋が通る。

 ムチャクチャな論理だが、もしかして、生き残れる――!?

 エリオの中に輝くような希望が広がっていく。

 となれば、竦んだ身体を動かして、ここから逃げればいいだけだ。

 攻撃は通じないというのがすでに分かっているし、こちらの生身の身体でゾンビを殴るというのは、感染症や未知の病気にかかる畏れがある。

 それは得策じゃない。

 指がピクリと動いた。幸い、雄叫びで身体が完全に麻痺することもなかった。

 ゾンビはダメージを負っていないエリオに怒りを覚えたようで、しきりにふしゅう、ふしゅうと口から空気を漏らしては、殴ったり、ひっかいたりしてきた。

 そうしている間ににも腕が動き、足に感覚が戻ってくる。

「動け動け、俺の身体ァッ!!」

 そして、ついにエリオは自らの身体の自由を取り戻した。

「っしゃー!」

 エリオは目の前にいたゾンビの頭めがけて、ポケットに入れた石を振り下ろす。

 ズドッ!!

 ゾンビの頭が陥没し、目玉が飛び出る。ゾンビもゾンビで、この程度は問題のあるダメージではないらしい。

「取りあえず身体から離れてもらわねーとな!」

 攻撃を受けたゾンビはよろめいて倒れるが、再び起き上がり、どんな原理なのか目に頼らずエリオを追ってきた。

 そのとき、興奮したゾンビの口から飛んだ唾液がエリオの手の甲に付着した。

 さきほど岩を焦がした唾液だ。

 ジュワッ! という肉の焼ける音がエリオの耳を占領し、目算を誤った彼は足を踏み外してしまう。

「……ぐああっ!!」

 痛い痛い痛い痛い痛い!

 どーいうことだ? どうなってんだコレは。制服に守られてれば大丈夫なんじゃ……? 

 エリオが焼けるように熱くなった手の甲を見ると皮膚がただれ、火傷になっていた。

 飛沫がかかった程度だったからこれで済んだのだろう。

「うおお……マジかよ、制服以外の場所はアウトか。ってことは!?」

 顔めがけてゾンビの足が迫る。

 即座にエリオは横に移動し、さきほどまで顔のあった場所にゾンビの足が突き刺さる。

 バガァン、という音がして、石のかけらがエリオの顔に当たり、痛みを感じた。

 やはり制服に守られていない部分は元のままのようだ。

 運良くゾンビたちが絡まってつんのめり、倒れる。そのスキを使ってエリオは再び立ち上がった。

「見えてなくても俺を追ってくるってことは、逃げてもいずれ捕まるってワケか」

 逃げた先にゾンビの仲間がいないとも限らないのだ。

「こいつら全員ぶっ殺すしかねぇな」

 エリオは逃げから攻めに転換することを決めた。

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