7 ゾ、ソンビだコレー!?
毎度ご覧いただきまして心より感謝いたします。
誠に勝手ながら、本日よりトーキョー【A9】遺跡を三人称で進ませていただくことにしました。これまでの話数についてもこの形式で書き換えていきますので、しばらく整合性がとれなくなりますが、お待ちいただけるとありがたいです。今後ともトーキョー【A9】遺跡をよろしくお願いいたします。
深い緑色のコートを着た三人組がエリオの目に入った。三人組は泉の周囲でなにやらごそごそとやり始める。
緩慢な動きだ。
ゆっくりと腰を折り、注意深く紫の湖面を眺めているように見える。
いや、行動の遅さが注意深そうに見せているのかもしれない。
よく目を凝らせば彼らの姿が明らかに普通ではないことは明白だった。彼らの周囲を羽虫が飛んでいる。
エリオはしばらく彼らの行動を見つめていたが、痺れを切らして声をかけた。
「おーい! アンタら、ここでなにしてんだ?」
よく見れば、間違いなくおかしいということに気づけたのに。
「オオ……? アアア……」
三人組のうちの一体がエリオの声に気付き、のっそりとした動きで振り向いた。
相手の顔が見えた瞬間、エリオはみずからの判断力の甘さに気づき、喉の奥からカエルの鳴くような声が出た。
「げええっ! やば! グロッ!!」
それもそのはず、こちらを振り向いた三人組の顔はグズグズに崩壊していたのだ。
「アア……ヴェェエエ……ロロロロロ」
彼らの身体は腐っていた。周囲にまとわりつくハエがエリオの目にハッキリと見えてくる。
落ちくぼんだ目、一体は眼下から目が零れていた。
力無く広がった口内の歯は概ね無くなっており、ウジ虫と涎がぽとりぽとりと落ちては、ジュワァ……という音と共に岩から煙が立つ。
その様子にエリオは総毛立った。
「ひ、ひえええええ! ゾ、ゾンビだコレー!? しかもなに!? 涎で岩が焦げてない!? 聞いてないっつの!!」
エリオは腕を振り上げ、即座に逃げ出す。しかし、紫色の水が湧き出るこの泉は、泉以外の障害物がなにもない。
ほぼ四角形を成すこの一室の出口はふたつ。
エリオのやってきた行き止まりの部屋と、ゾンビたちのやってきた出口だけだ。
「おもしろおかしいゾンビさんたちと出会ったら……人生詰んでましたってワケか? まだ彼女もできてねーっつーに!」
そうこうしている間にゾンビたちがエリオに迫ってくる。
一体一体の動きは遅くとも、三体同時に動けば道は塞がってしまう。逃げているうちに追い詰められてしまったのだ。
「うおっ、やっぱ部屋ん中にいるだけじゃダメか! っつか、臭っ! やっぱゾンビって臭いんだー! むしょうに家に帰りてえ~!」
しかし、部屋の中を動き回っていただけなので、まだ通路を元に戻ればいい。
「こうなったら行き止まりに戻るしかねぇ! 武器! どっかに武器落ちてねーのか畜生!!」
行き止まりに戻る途中でエリオは石に目を向けた。こぶし大の石だ。走りながら石を拾う。
「ぐおおおぜってーこんなん役に立たねー!!」
長い通路を戻る間にエリオは幾つかの石をポケットや手に詰め込めるだけ詰め込んだ。それはもう、追いつかれないよう、つんのめりながら必死だ。
汗が全身からぶわりと出てくる。
「大して熱くもないのにフシギダナー」
瞳孔が思いっきり開いて、すでにあちらの世界にいってしまっている。
「ウケケケケ死ねゾンビども!!」
強がり……ではないようだ。半分現実逃避してしまっている。
エリオは行き止まりの部屋に戻るまで、ゾンビたちと出来るだけ距離を広げた。
「ふー、こっからはイチかバチか! いちおーこっちにも利点はあるからな」
エリオの言った利点とは、通路の細さだった。ゾンビたちが進むためには一体ずつ進むしかない。
しかも彼らの動きが緩慢なため、時折足が絡まってつんのめったりしていた。
だが、けして歩みはとめない。
「死人キモい……。いや、もう死人かどうかもわかんねーし、もういいから可及的速やかに、死ね!!」
エリオはこぶし大の石を振りかぶった。
そして腕を振り下ろす。腰、肩、肘、手首を使って全身で投げる。
「ゾンビなんてしねえええええええええ!!」
死んでいる相手に死ねというエリオ。
ワラにもすがる思いで彼は石を放った。
追い詰められると本来とは違う発想が生まれて来るなあ、と思います。
ゴッキーと先日戦ったときにね……思いましたよ……。