4 ヨーシってなーに?
1~6話は書き直し中でございます。
リリアはスマホの画面をしばらく見つめると、冷気を発しそうな表情で凍り付いてしまった。このあと『ウマい!!』とか言い始めるのかな。何も食べてないけどさ。そういえば俺まだメシ前だったな。ハラ減った。
「え? ちょ……これは、ファビオ。説明を求めます」
「ちょっと待って、私も今フリーズしてるから」
「あのー、盛り上がってるところ、悪いんだが、俺には状況が把握できない」
すると、先ほどまで俺に敵意を向けていたリリアが戸惑いの表情を俺に向けた。固まってるもんだからギギギ、がっちゃん、という音がしそうだ。痴漢に対してするような目を俺に向けているというつらみ。
あながち間違っちゃいないんだけど、それは不可抗力だったじゃないか。あとで思いっきり謝らせてもらうんで、その……。
うん。また胸を隠すのはなんでなのかな? そして涙を目に湛えて……。羞恥に顔を燃やす少女よ、僕は紳士だ。けして女の子をキズつけようだなんて思ってないんだ。リリアはよく見ると俺より少し年下かな。それであの技術か。この世界の基準はわからないけれど、恐らく実力者だろう。背丈は普通の女性と同じくらい。多分同じ年齢の女の子の中では少し高めだと思う。ガッチリとした筋肉質な感じはしないが、剣士だし、脚にも腕にもほどよく筋肉がついている。すまんなタイプだ。めっちゃかわいい。なにに謝っているのかというと……そうだな、忘れ得ぬ手の感触にかな……。
東京にはいないタイプの女の子だ。スレてるカンジがない。どっちかというと、教室の隅にいる地味な読書家の女の子が、実は眼鏡を取るとめっちゃ美少女で、実は実家の剣道道場で師範でした。みたいなそんなカンジ。カンタンに言えば、筋が通ってて、きっと芯がものすごく強い子なのだろう。な、日本のどこかにはいるかもしれないが、東京にはいなさそうな気がするだろ? ……すいません偏見です。
「ええと、じゃあ、私がまとめますね」
ちょこちょことこちらに歩いてくるシオワーズ王女。背は150センチくらいで、リリアより小さいんだけど、大きめな眼鏡や髪やら全体的な印象がふわふわしててもっと小さく見える。庇護欲をそそる子だな。さぞそちらにおられるお父上も大事にしていよう。母親がよほど美人だと思われるわけで、そっちの方が俺的には気になるな。靴はローファーで綺麗に磨かれている。勿論良い素材には見えるが、これといって格の違いを感じるわけでもない。王族としては質素だといえるかもしれない。俺の中は王族なんていったらキンキラキンだからな。
「ええと、お名前を聞いてませんでしたね」
しかもいい子いい子したくなる森ガール的な声だ。妹にならないか。
「俺の名前は瀬尾エリオだ」
「ふむ、ではセオが名前か」
オッサンが入って来る。
「いいや、違う。俺のいた国では名字が先にくる。あんたらの流儀がどうかっていうのは知らんが、瀬尾が名字でエリオが名前だ」
チャ、と剣が首筋に置かれる。そうなるかなってのは分かってた。
「王の御前で無礼ですよ。礼を取らなければ素っ首斬り落とします」
声に表情がない。コイツ……やりなれてるな? 暗殺者とかだったりするのか? いや、暗殺者が大仰にこんなところで剣を振るわけない。しかし王も王でコイツが自分の前で剣を出してんのによくも気にしないでいられるもんだ。リリアをよほど信頼しているのだろう。
王が刀身に手を置いて、引き下げるようにジェスチャーした。
「よい、リリア」
「ですが」
「もしこの者がトーキョーから来た者なのなら、ムリもない。民主政治だったと聞くからな」
聞き捨てならない言葉だな。民主政治『だった』か。
再びリリアが剣を収める。考えごとをしていた俺と目が合うとパッと顔を逸らしてしまった。
「わかった。ではセオが名字、エリオが名前ということだな。文化の違いはある。受け入れよう。私はグロス・エンフィールド・レムハイド。エンフィールドの王だ」
「おう……さま……」
ぼんやりと呟いてしまう。なんか、スケールがデカすぎて、ピンと来ない。話の流れで王様だとはわかっていたけど、改めて言われると胸にドン、と重いものがくる。見えない責任が俺を羽交い締めにしていくような、そんな感じだ。
そして続け様に言い放った言葉に俺は言葉を喪った。
「左様。単刀直入にいおう。エリオ。お主を養子としてエンフィールドに迎えよう」
なに? ヨーシってなに? 食べるヤツ? 俺が知ってるヨーシって、コピー用紙とか……見た目の容姿だとか要旨だとか……ちょっと待てよもしかして養子か!?
「養子!?」
「ふむ。驚くようなことか?」
グロス王はひとつ頷いて俺に質問を返した。
後ろのリリアががしゃーん! と音を立てて転ぶ。どこにそういう音がするモノが転がっていたのかな?
あのさ、王様。こっちよりそっちにいる人のほうがビックリしてるみたいですよ。