2 オンザ修羅場
1~6話は書き直し中でございます。
光が収束するのと時を同じくして、俺の耳にヒトの声が飛び込んできた。そして徐々にぼんやりとだけど、視界も戻って来る。
ってことはあれ? 俺死んでない?
視界の先は暗いような、明るいような、そしてなにより柔らかい。
なぜ、やわらかいのか。手の平にふにっとしたここちよい感触が伝わって来る。なんだろ。とても好きな柔らかさだ。ふざけて姉ちゃんの二の腕を触ったときみたいな。
石けんのような、香水のような、とっても良い匂いがするし、もう片手のほうはサラサラとして、手の平から零れるなにかをつかんでいる。俺はいま、夢の中にいるのかな?
しっかしこのサラサラとした感触、糸のように繋がっている……これ、髪だ。片手でなんか柔らかいマシュマロみたいな感触、片手で髪。姉弟なら姉の髪くらい触ったことがあるわけで、その感覚と同じだ。糸のようなへたる感じじゃなくて、コシがある。さぞツヤツヤとした髪の持ち主なのだろう。スルスルと手を下に持っていってなでりなでりこ。うん、ひたりと温かいような、冷たいような固い感触。どう考えてもコレは頭ですね。
「んぁっ! や、やめ……なでなで、も、ダメです!!」
ちきちきちきちーん。
やわらかい(姉の二の腕と同じ)、髪、頭、良い匂い=非常にまずいなにか
「ヤバい!!」
俺は想像力を全力で活性化させた結果、いまの自分の行為があとあとの後悔につながると判断し、ダッシュでそこから遠ざかる。ギャグマンガならばびゅんっ! という効果音が入ってそうな感じですはい。すいません最初に謝っておきますが、俺は悪くないしもしかして気を失った俺を看病してくれたのに、その人を押し倒しちゃったとかでしょうかごめんなさい!!
まあいいんですこの感触は脳味噌のパスワードを解除しないと入れないところに厳重に保管して毎日思い出すことにしますんで、他のときは一切思い出さないようにしますんで何卒お許しください。
「な、なな何をするんですかっ!!」
「リ、リリア! 大丈夫?」
俺の眼前にはめっちゃとんでもない美少女たちがいた。
「え、ええ、シオワーズ様。不覚でした……わわ、わ、私の貞操が……!」
「だ、大丈夫れひゅっ! て、貞操はらいじょうぶでしゅっ!」
「ああら、シオワーズ様。そんなに噛んでは誰が襲われたのかわかりませんわ? リリア団長が胸を揉まれて頭を撫でられていたのです」
「ファビオさんっ!!」
「ああら、シオワーズ様に混乱を収めていただこうと思っていた私のこの気遣いがわからなくて? リリア団長」
長髪黒髪ポニーテールでセーラー服の女の子がリリア、顔を真っ赤にしてくるくる目が回ってる、眼鏡で三つ編み緑髪のブレザーの女の子がシオワーズ。そしてファーのついたフードパーカーを着たとんでもない褐色美人のギャルがファビオっていうみたい。ファビオって人は日サロ通いなんだろうな。紫っぽいパーカーと黒のエナメルスカートからストーンと適度に筋肉のついたキレイで長い脚が出現していますね。うーん、色気がありすぎて目をどこにやっていいのやら。ファビオって源氏名? でも歌舞伎町っていうより原宿って感じだ。金取られそーだからじっと見るのやーめよっと。
話を総合すると、俺はどうもリリアって黒髪の女の子を押し倒してたらしい。この子、変なことに腰に剣を差してるんだよね。なんかの撮影だったのかな? ああ、日本人離れした役名だと思えばしっくりくるかも。俺を相手にアドリブの練習でもしてるのか? でもこのリリアって女の子、ハーフみたいな顔をしてる。日本人かどうかはちょっとわからないな。髪の色と目は黒だけど、肌が抜けるように白い。そして釣り気味の大きな目から放たれてる目力がハンパない。そしてそんな頬が上記してるのは……そこはかとなく、いいえものすごく……エロいですはい……、すいません。
「オリジナル・マイニングから召喚されるのは技術のはず。何故貴方のような男が出てくるのですか!? その身につけているのはかなり純度の高い源衣と見受けますが、人のかたちをしたヘグでないという保証がどこにあるというのです!?」
びしぃっ! と音がしそうなほどに指をさされる俺。
ヘグ? ぽかーんって感じなんスけど。
リリアは片手で胸を隠して、続けざまもう片手で剣を抜いた。ポニーテールがキレイに弧を描く。さっきちょろっと思ったけど、やっぱりこの子の髪はつやつやと光を跳ね返していてとても綺麗だ。
じゃないだろ! おいおいちょっと待てよ。鞘走りの音がチュインっていったんだけど。模造刀的な音じゃないんだけど!? 金属と金属の擦れ合うガチな音なんだけど!!??
これがもしなんかの撮影なのだとしたら、邪魔してしまったことは謝りたい。でも剣を抜いたってことはそれで俺を攻撃しようってワケだよね? なんか演技とかだったら現場監督みたいな人がいても……あ、後ろに何かめっさ恐いマフィアみたいな人がいるんだけど!
「待て待て待て!! わからん! ちょっとまって! 話を聞いて欲しいんだけど!? えーと、現場監督!?」
現場監督と言われた男は目を少し上げ、興味深そうに手元のスマホをいじり始めた。やっぱアンタ業界人じゃねぇか! なんとかしてくれよ、意味がわかんねーぞ!
そしてリリアが後ろから近付いて来てるんだろう、足音が聞こえる。
「私の身体をもてあそんだ挙げ句、王に話を聞け……ですか。到底聞き入れられません!」
のっぴきならない雰囲気を感じて、俺は感覚的に身体を投げ出した。気になるワードがあったが、今はそれどころじゃない!
野球の授業でスライディングをしたことがあるが、そんな感じで地面を滑る。ずざざっという自分と地面の擦れる音がして、その直後、キュイン、バガン、というふざけた音が後ろから聞こえた。
うん。そうだね。振り向くと俺のいた背後の『石の壁が真っ二つ』になってたよ。リリアさん……、貴女は背中に鬼を出す一族の親父の方なんでしょうか。まぁあっちは蹴りだけれども。
「ふぅっ、ふーっ!!」
黒髪の美少女の頬が紅色になっている。ぶっちゃけ睨んでる目力はすごいんだけど、あんまりにも可愛すぎるので見惚れてしまった。いまのうちにちょっと離れておこう。
「いまの一撃を避けただと……?」
声は正直好みだ。正しいことをしてきた人間の凛、とした雰囲気がある。リリアは一度剣を鞘に収めて腰だめに構えると、再度抜刀した。いま気付いたけど、これ日本刀だよな? そんな位置で剣を振り抜いても何の……と思った俺のところにギャンッ! と、ものすんごい可視化された衝撃波が飛んできた。いや、衝撃波なんて見たことないけどさ! コレそういうやつでしょ!?
俺は口をあんぐりとさせて、何の反応もできない。
衝撃波が迫ってきて、割れた石とかがバチバチ飛んできて、痛っ!? んで、早っ!? さっきみたく避けるなんて、できないッ!
「そのくらいにしておけ、リリアディ」
死ぬ、と思った俺の前に黒い人影が出て、片手でその衝撃波をいなす。いなして、散らした。パキィン、という音が周囲に響いて、衝撃波の残滓が四方にわかれ、力を失う。音の反響具合からして、ここがそんな大きな部屋じゃないことに気付いた。奥の方はあまり見えない。
俺の目の前に立ったのは現場監督のオッサンだった。片手をただ振ったようにしか見えなかったのに、あのスゲー技をカンタンに弾いてしまう。良く見るかなりカッコいい。映画に出てくるような、マフィア映画のドンみたいだ。深いエメラルドグリーンの瞳をしている。髪はアッシュグレーでオールバック。この人は完全に日本人じゃない。ああ、そうか、ハリウッドの大俳優か。そりゃ他の俳優さんも怒るわけだ。いや、違う。違うぞエリオ。
彼らは俳優なんかじゃない。
正直俺は女の子が放った攻撃より、この男の方が気になった。何故か、この男を見ると手が震える。傅きたくなる。でも、俺は我慢した。まだ状況のわからない中ですることじゃない。
もうわかった。認めよう。俺は異世界に来てしまったのだ。