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トーキョー【A9】遺跡  作者: 小宮祭路
2/18

1 終わる日常

 瀬尾エリオは平凡な学生に見えた。

 運動や勉強はソコソコ、彼の見た目には隠れたファンもいるのだが、たたずまいに話しかけづらい雰囲気があるため、本人には自覚がない(別に何も考えていないのだが)。

 人付き合いは初対面の人間には警戒心を感じるが、それほど苦手なわけでもない。かといって最初から距離を縮められるほど人との関係性を上手く作れるわけではなかった。

 大体のことを普通にでき、また普通にできない。

 瀬尾エリオはそんな学生で、自分にはあまり満足していなかった。

 

 ガタン、ゴトン、と揺れる車内で、顔を上げれば車窓から雲ひとつない空が瀬尾エリオ茶色の瞳に映る。

 エリオと友達のトコロは東京スカイツリーのお膝元、ソラマチで昼を食べるため、学校から移動しているところだ。

「あー、彼女ほしー」

 切りっぱなしのパイナップル頭が特徴のトコロが間延びした口調でエリオのボヤキに応える。

「僕はまだいいかなぁ。特に好きな子もいないし」

「トコロはいいかもしれないけど、俺は欲しいんだよ」

 トコロはゆらりゆらりと揺れるつり革を見ながら息を吐く。

「だからぁ~、エリオは陰で人気あるって言ってるんだけどなぁ~」

 エリオはトコロのぬぼっとした顔を見て、眉をひそめた。

「見えるところに人気が欲しい」

「あんまないものねだりするもんじゃないと思うなぁ~」

 エリオは自分の顔をガッと両手で押さえ、震え始めた。

「一度も告白されたこともねぇし、積極的に声をかけられたこともねぇよ。見えないんじゃ無いのと同じじゃないか? それに、大体トコロは告白されたことあるじゃないか」

 トコロはそんなエリオを見て噴き出した。

「あるっちゃあるけどぉ……なんつーかな。好きな子ではなかったからなぁ」

「うらやましい、ああ、うらやましい! そんなこと言ってみたい」

「そんないいことないよぉ? 断るの、可哀想だった……。でも、嘘はつけないからなあ」

 トコロの言葉にギン、と思いっきりエリオが睨みをきかせる。

「だとしても、男としてはお前の方が何千歩も先を行ってんだよ」

 そんなエリオにトコロは堪えきれないといった感じでニマっとした笑みを浮かべた。

「エリオはこんなにスキだらけなのにねぇ……見た目がちょっと誤解されるんだよねえ……面白い生物なのにね。ブフッ!!」

 エリオはサラリとしたツヤのある前髪、大きな瞳、通った鼻筋を備えているが、眉間にシワが寄りやすく、常に不機嫌そうで、そんなところが人を遠ざけていた。

 彼を知らない人間は勝手に距離を取ってしまうのだが、一度付き合い始めれば人なつこいところもある。

「トコロ、お前なあ……」

 そうこうしているうちに押上に到着した。

 

 改札を抜けようとしたら、トコロのICカードが見つからず、改札に引っかかってしまった。

「あれ、ねぇわ」

 エリオは先に改札出て、トコロに振り向く。

「トコロ、先行ってるからな」

「は~いよぉ。全くどこに行っちゃったんだよ~」

 愚痴るトコロの声を背に、エリオはスカイツリーに向かった。

 十歩ほど歩みを進めるとTOKYO SKYTREE TOWNの文字が見えてくる。

 ぐるるるる……。

 看板が見えるなりエリオの腹が鳴った。

「うおお……上にたどり付くまでもつのか?」

 一階のファストフード店に行くにも半蔵門線側の地下階から見上げるほど長いエスカレーターに乗り、ソラマチの内部を歩かないといけない。

 大した距離ではないが、都合4、5分はかかる距離だ。

「ほんっとうに広いな、スカイツリー。じゃねえや、ソラマチ」

 エリオはスカイツリー入口の手前にある露店形式のショップを抜け、開きっぱなしで幅広の自動ドアを通った。

 

 その瞬間、ズグンとエリオの心臓が跳ね上がる。

「なんだ!?」

 エリオは異様な違和感の発生元である下に視線を落とした。

 すると、石畳が泥になったかのようにエリオの右足を呑み込んでいる。

 エリオは突然のことにパニックを起こした。

「うおっ、っちょ! ま、ざけんな!」

 周囲がエリオの状態に気付いたようで、助けにやってこようとするのだが、見えない何かに阻まれてエリオに近付くことができない。

「おい、エリオ!?」

 ぬぼっとした顔のトコロも、流石に自分の友達が非常事態に巻き込まれていると知るなり必死の形相になって駆け寄ってくる。

 しかし、エリオの足元はズルズルと彼を呑み込んでいった。

 石畳の中に引き込まれる。

「エリオ!!」

 トコロが見えない壁に体当たりをするが、まるでビクともしない。

「ト、トコロ!」

 エリオも手を伸ばすが、全く届かないどころか、徐々に自分の視線が下がっていくことに恐怖が増していく。

「た、たすけ!」

 しかし、二人の努力も空しく、エリオは石に呑み込まれ、周囲の人間はそれを唖然として見ているしかなかった。

「エリオーッ!!」

 トコロの叫びが押上の地下に木霊した。

 エリオはそんなトコロの叫びを最後に、完全に地面に呑み込まれて消えていってしまった。

少しでもつながりが良くなるように10/16に全面改稿いたしました。以降も6話まで全体的に改稿いたします。宜しければおつきあいくださると嬉しい限りです。

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