17 亢進
いつもご覧いただきありがとうございます。
これからの更新は基本的に月金で、今回のように毛色の違う書き方もしていきます。滑っていても自分が保つ限りやっていきますので、よろしくお願いいたします。
白く白く白く//
空から雪が、降ってきた。
白く白く白く//
空から白い粒が、落ちてきた。
ここはエンフィールド国内の山林だった。
エンフィールドの地に雪が降るというのは中々なかった。
すぐに風が強くなり、吹雪の色を濃くした。
吹雪に惹き寄せられた精霊たちが草と土の間から顔をだした。
じゃがいものような者、陶器のような身体をしたもの、バランスが悪くすぐに転ぶ者、たくさんたくさん精霊がいた。
たくさんたくさんいた精霊は、さざめく波のように一斉に無邪気な笑い声を上げた。重奏のように、自然のオーケストラのように、いくつもいくつもハーモニーとして折り重なって、たくさんの笑い声が響いた。
それは歌に似ていた。
精霊は蛙や鳥、空を泳ぐ魚に姿を変えて雪を楽しんでいた。
自由自在に姿を変えて、吹雪の中を温かい水のようにたゆたって、空に登っていった。
白い冷気が、彼らを心地よく笑わせた。
しばらくしたら、精霊たちは一斉になにかの気配を感じ取ったように顔を見合わせ口々に騒ぎ立てた。
フェー? レー? モー?
人間にには理解のできない精霊言語だった。
同じ発音でもたくさんの意味があって、人間にその使い分けができるものはほとんどいなかった。
声を聞き取れるだけでもレフソーサラーになることができるから、言葉の使い分けができる者は、グラン・レフソーサラーの中でも指折りの存在しかいなかった。
ざり、と雪を踏みしめる人影が吹雪の中におぼろ見えて来た。
フェー? 精霊たちがさざめいて、人影をざんざと見やる。
手の平ほどのできの悪い土偶のような精霊が、ずんぐりとした頭をカタカタと揺らして人影の足元まで来ていた。
人影はその精霊を拾い上げて、手の平に載せた。
「モー」
人影は少女だった。
少女は雪の中で精霊言語を発した。
どこか人間味を感じさせない音だった。
精霊はいっとう笑い声を上げた。カッタカタカタカタカタカッタ!
無邪気な精霊の見せる表情に銀髪の少女は撫でて応えた。
精霊は目を閉じて、その少女の撫でるがままにした。フェーと音を発した。
気持ちがよさそうに、撫でる手に合わせて、身じろぎをした。
それを他の精霊たちが羨ましそうにした。
みんな肩を揺らした。ケタケタと笑った。
子供のように笑った。
カタ、カタカタカタ! カタカタカタ!!
さざめく吹雪の精霊たちが、少女に撫でてもらいたくて、たくさん集まってきた。
たくさんたくさん、集まってきた。
雪の精霊たちは、雪ではなく、少女に夢中になっていた。
カッタカタカタカッタ! カタ!
少女は、抜けるように白い肌をしていた。
大きな寂しくない孤独の目をしていた。
紫色のアメシストみたいな瞳孔をしていた。
白い睫毛は、夕焼けの後光のようだった。
背はそれほど大きくなかった。かといって小さくもなかった。
少女には表情が欠落していた。
少女は胸にポケットのついた白い服を着ていた。
黒くぴったりとしたスパッツを履いていた。
銀色の髪の毛は、この吹雪のなかでキラキラと輝いて、まるでダイヤモンドダストのような儚げな、それでいていつまでも心の中に残るような物憂げな、近付こうと歩いても逃げてしまう月のような輝きかたをしていた。
彼女は翼を持つ、両手の平ほどの白いトカゲを付き従えていた。
白いトカゲは翼をバサっと広げて、その小さな翼から雪を落とした。
白いトカゲは翼を閉じていても空中に浮かんでいた。
フェー! レー! モー!
精霊たちが白いトカゲに気付くと、そうやってざわめいて、しかるのち、皆静かになった。
吹雪の音も聞こえないほどに真っ暗な静かがやってきた。
少女と白いトカゲが去って行った。
吹雪のなか、静寂がリン、と訪れた。